ボックス! 百田尚樹

 「自分よりも優れた人を素直に認めて、それに近付くように努力する心って、とても大事なものやと思う」(本文引用)
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 夢中になって読める本とは、主人公が何かに夢中になっている本だ。
 そしてそのような本からは、作者が夢中になって書いている様子が伝わってくる。
 作者が「面白い!これ、面白いで!」と楽しみながら書いている本は、読者にとっても、きっとうんと面白く、うんと爽やかな気持ちになれる。
 そんな風に思える本が、この「ボックス!」
 「海賊とよばれた男」で本屋大賞を受賞した百田尚樹氏による、青春街道まっしぐらのスポーツ小説だ。
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 舞台は大阪。
 ある日、高校の英語教師・高津耀子は、電車内で若者に絡まれる。
 そこで耀子は、居合わせた2人の少年に救われる。

 その2人とは、カブちゃんこと鏑矢義平と、ユウちゃんこと木樽優紀。耀子の勤める高校の生徒であった。
 
 2人は幼馴染の親友同士だが、タイプは驚くほど正反対。
 勉強は苦手だけど天才的なボクシングセンスをもつ鏑矢、スポーツはできないが勉強はトップクラスの木樽。
 恐れ知らずで冗談ばかり言っている鏑矢と、怖がりで物静かな木樽。
 しかし互いを思う気持ちは、誰よりも強い。そんな固い絆をもつ2人である。



 
 2人はスポーツと勉学、それぞれの道を歩んでいたが、ある日木樽は突然、ボクシング部に入部する。
 過去に受けたいじめや、憧れの女性を守れない非力さに悩み、強くなりたい一心で決断した入部だった。

 鏑矢と木樽、天才ボクサーとヒョロヒョロボクサーとの友情は変わることなく続くが、いつしか二人は最大のライバル同士になる・・・。
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 はっきり言って王道である。王道すぎると言ってよいぐらい、道にそれることなしの王道ストーリーである。
 でもこれが、いいのだ。
 こういう物語は、こういう展開になってほしい!という願いを全て吸い込んでくれたかのようなストーリーが、何とも心地好い。

 命知らずの鉄砲玉・鏑矢と、理知的で慎重な木樽。
 小説や漫画にありがちなデコボココンビで、周りの人が訝しがるという点も、実に王道スタイル。ややもすると陳腐になりがちなキャラクター設定だ。

 しかし、この小説はひと味違う。

 学校生活やボクシング部の活動、そしてボクシングというスポーツの奥深さ-アマチュアボクシングの細かな規則、命を失うかもしれないスポーツに取り組むことに対する心構え-等が非常に緻密に熱をもって描かれているため、なぜ鏑矢と木樽がそこまで仲が良いのか、なぜ木樽は鏑矢を慕い、また木樽の成長を鏑矢が心から喜べるのかが、強い説得力をもって伝わってくる。
 
 「こんな風に共に泣き、共に笑い、切磋琢磨しあえる友人をもてたら、何て素敵な人生だろう」
 
 紆余曲折ありながらも、揺らぐことのない敬愛の念をもちつづける2人を見ていて、心底羨ましくなった。

 そしてそれは、主人公の2人だけではない。
 
 厳しく強い愛情をもって部員たちを指導する監督・沢木、ボクシングは弱いが誰よりも人望のあるキャプテン・南野、そしてモンスターと称される寡黙な最強ボクサー・稲村・・・。
 誰も彼もが、ボクシングを通して、己の恐怖心や驕慢さと日々戦っている。だから皆、驚くほど他人に優しく、読んでいるとどんどん心が浄められてくる。

 なかでも忘れてはならないのが、ボクシング部マネージャー・丸野智子の存在だ。
 成績は学年トップだが、体が弱く、学校を休みがちで大人しい智子。しかし実は鏑矢の大ファンで、試合や朝礼で鏑矢の名が呼ばれると、黄色い声援を送りまくる。
 決して美人とはいえない智子に声援を送られ、最初は邪魔に思っていた鏑矢だが、彼女の誠実さと朗らかさは、次第に鏑矢をはじめ部員たちの心をほぐしていく。
 
 智子は後に、さらに違った形でボクシング部にとってなくてはならない存在となるのだが、その過程はもう涙なしでは読めない展開。
 智子を中心にボクシング部員が心をひとつにし、試合に臨んでいくシーンなどは、もう涙がページの上にボタボタと落ちて困ってしまった。
(かの児玉清さんは「永遠の0」を読み、「僕は号泣するのを懸命に歯を喰いしばってこらえた。が、ダメだった」と語ったと言うが、おそらく「ボックス!」のこの場面を読んでも、同じ言葉を語られたのではないかと思う。あくまで推測だが。)

 愛、努力、友情・・・どれも古臭い言葉かもしれない。前時代的な発想なのかもしれない。
 でも、この小説を読むと、たとえ古いと言われても、愚鈍と言われても「愛、努力、友情」というものを、近道をすることなく地を這うようにして手にした者が、最も強い人間なのではないか。そう信じることができる。

 人を信じられなくなっている人、何かに夢中になっている人、でも努力が報われないと自暴自棄になっている人、そして一生青春を送りたい人に、心からお薦めの一冊である。

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Author:アコチム
反抗期真っ最中の子をもつ、40代主婦の読書録。
「読んで良かった!」と思える本のみ紹介。
つまらなかった本は載せていないので、安心してお読みください。

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