ようこそ、わが家へ 池井戸潤

 争い事は嫌いで、お人好しだ。
 愚直で不器用だが、至極真っ当な人生を歩んできたとの自負だけはある。そのどこが悪い。

(本文引用)
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 さて、2013夏のドラマ競争でいきなりトップに立った「半沢直樹」。ご覧になられた方も多いのではないだろうか。
 私も過去のレビュー(当ブログ内「オレたちバブル入行組」「ロスジェネの逆襲」参照)で書いたとおり、この半沢直樹なる人物に心底惚れ込んでいる一人なのだが、ここにまた違ったタイプのヒーローが登場した。

 半沢直樹が“動”ならば、こちらは“静”。

 心の中は正義感に満ちているのに、口下手で、いつも言いたいことを飲み込んで相手に譲ってしまう。
 相手を完膚なきまでに叩きのめす半沢とは違い、ついつい仏心を出して、相手に付け入る隙を与えてしまう。

 そんなちょっと頼りない男の名は、倉田太一。
 銀行から電子部品の製造販売会社に出向している、愛すべきヒーローである。
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 ある日、倉田は勤め先からの帰宅途中、駅のホームで無理やり割り込んできた男を注意した。いつもなら見て見ぬふりをするところだが、他の乗客が危ない目に遭ったのを見過ごせなかったのだ。
 しかしその日以来、倉田家には数々の嫌がらせが相次ぐ。
 花壇が踏み荒らされ、ポストに瀕死の猫が入れられ、息子の自転車が壊され、車に傷をつけられタイヤはパンク。
 そこで倉田家では家族一丸となって、ストーカー犯を捕まえようと策を練る。

 一方、倉田は、職場でも深刻な問題に直面していた。
 商品在庫の不一致、交通費の二重取り、あるはずのドリルがなく、ないはずのドリルがある不可思議な現象、巨額の入金漏れ・・・。
 これらの事態には全て営業部長が絡んでおり、幾度となく倉田は彼を追及するが、口八丁手八丁で逃げ回る始末。
 そうこうしているうちに、社内での倉田の立場が危うくなってくる。

 倉田は、家族を会社を、そして自分の人生を脅かす真犯人を捕まえることができるのか?
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 毎度のことながら、内臓をギュウゥッとひねり上げられる思いで一心不乱に読んだ池井戸作品だが、この小説の面白さは、他の作品とはまた違うところにある。

 世の中の理不尽と闘う、最後は正義が勝ちスカッとする・・・もちろんそれも見所ではある。
 が、本作品のポイントは、何よりもその「“美”すら感じさせる、複雑かつエレガントなストーリー構成」だ。
 まず大きな特徴として、2つの全く別々のストーリーが並行して進んでいることが挙げられる。さらにその2つ、いつ融合するかと心待ちにしていたのだが、結局最後まで混ざり合うことはなかった。
 にも関わらず、全く混乱することなく両ストーリーともすんなりと頭にしみこみ、非常~に楽しんで読むことができた。

 かたや、犯人は目の前にいるのに、犯罪の証拠がなかなかあげられないミステリー。
 かたや、犯行の形跡がはっきりと残っているのに、犯人が皆目つかめないミステリー。

 しかもどちらも、謎解きは超ハイレベル。
 証拠をつかんでやっと溜飲を下げたと思いきや、相手が思わぬ反撃に出て、事態は二転三転四転五転。苔むす間もなく転がりつづける攻防戦は、ページをめくる手を休ませてはくれない大迫力だ。
 さらにストーカー騒動においては、複数の犯人が存在するのだが、そのなかには、あまりにも意外な人物が。
 しかも、その意外な犯人の存在が、倉田太一という男の誠実さを際立たせる見事なエッセンスとなっている。く~っ、ニクい!

 そんな2つのミステリーが一度で読めてしまうというのだから、これほど幸せなこともそうそうないが、この小説の良さはそれだけではない。
 
 解説で村上貴史氏に「池井戸潤史上、最弱のヒーロー」とまで言わしめた、倉田太一という人物像だ。
 
 子供の頃から言いたいことが言えず、幾度となく涙をのみ、歯がゆい思いをしてきた倉田。そんな彼が、世の中を図々しく渡ってきた人間に猛反撃する場面は、何とも胸に迫る。
 心の中で、何度「倉田さん、がんばれ!あとひと息!」と叫んだことか。
 「半沢直樹みたいにズバズバものは言えないよ」・・・そうため息をつく多くの人も、そんな彼の姿には、勇気がわいてくるのではないだろうか。
 半沢さんとはまた違ったカッコよさに、思わず胸がときめいてしまった。

 1冊で2話楽しめる新感覚ミステリー「ようこそ、わが家へ」。
 これは、新しいヒーローの形とともに、新しい正義の貫き方をも教えてくれる快作である。

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始まったね!

久しぶりの書き込みです。いつも楽しく拝見してます。

さて、同じ「半沢直樹」ファンとしては、ドラマはビール飲みつつワクワクと、一回目観ました。これから楽しみだねぇ~
「七つの会議」も始まるし。

…ってことで、この本も入手しましたが未読です。図書館返却本の読書に追われながら、楽しみに、楽しみ~に、とってある一冊なのです。

来ましたね!

くじら様

コメントありがとうございます!
ドラマ「半沢直樹」が始まると知り、きっとくじらさんもご覧になるんだろうな~と思っていました。
でも、ドラマのタイトルもいきなり「半沢直樹」って・・・池井戸マニアでないとわからないのではないか?視聴率大丈夫なのか?と心配しましたが、どうやら杞憂だったようですね。
これからも半沢直樹を応援していきましょう!

一方、この小説の主人公・倉田太一はいつも押しが弱くて、詰めの一歩が甘い人です。
でもおそらく、世の中そういう人の方が多いと思うので、より共感できるのではないかと思います。
そりゃ、半沢さんみたいにバシバシ叩きのめせればいいかもしれませんが・・・(^^;)。

「七つの会議」も、東山さんがどう演じるか楽しみです。

長くなりましたが、コメントどうもありがとうございました。
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Author:アコチム
反抗期真っ最中の子をもつ、40代主婦の読書録。
「読んで良かった!」と思える本のみ紹介。
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