島はぼくらと 辻村深月

 そうか、と気づく。“いってらっしゃい”は、言いっ放しの挨拶じゃない。必ず、言葉が返ってくる。
(本文引用)
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 「さよならは別れの言葉じゃなくて
  再び逢うまでの遠い約束」

 (来生たかお「夢の途中」)

 読み終えて、こんな懐かしい名曲を口ずさんでしまった。

 「さよなら」「元気でね」「また会う日まで」そして「いってらっしゃい」。
 そんな言葉が港で日々聞かれる、離島の物語「島はぼくらと」。

 これは、「別れは決して別れではない。離れている時間は、再会までのほんの夢の途中なんだ」・・・そんなことを信じさせてくれる、飛び切り爽やかな青春小説だ。


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 舞台は、瀬戸内海に浮かぶ小さな島・冴島。

 朱里、衣花、新、源樹は、この島から毎日フェリーで本土の高校に通う、仲良し4人組だ。
 高校卒業後は、本土の大学に進学したり島に残ったりと進路が分かれ、自ずと離れ離れになる運命にある。

 島には元からの住民だけではなく、本土からIターンで渡ってきた人や、地域活性化の支援を担うデザイナー等、様々な人間が住んでいる。本土から逃げるように移住してきたシングルマザーも多く、島の特産物を製造する会社は雇用の受け皿となっている。

 のんびりとした小さい離島でありながら、数々の先進的な試みをしていることからマスコミに注目される冴島だが、そこには大人達にしかわからない事情が複雑に絡み合っていた。

 島に伝わる“幻の脚本”、身元不詳のIターン青年、過去を捨て去った五輪メダリスト、全国ネットのテレビ取材、網元のお家事情、村長の裏の顔、島に医者がいない本当の理由、おばあちゃんが何十年と抱えてきた心のわだかまり・・・。

 4人の巣立ちまで、あと1年。
 彼らはこれらの問題と向き合いながら、別離の日をどう迎えるのか。
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 まず驚いたのは、1冊の単行本の中に「よくもまあこれだけ・・・」と驚くほど色々な出来事が詰め込まれていることだ。
 そしてさらに驚いたことは、どれも疎かにされることなく経緯が緻密に説明され、紆余曲折の曲線を描いた後、最後にはウルトラCのような着地をみる。
 しかもその途中、並々ならぬ悪意があちこちでうごめていたにも関わらず、気がつけば誰もが笑顔になっている。何だか魔法にかけられたみたいだ。

 しかしそんな数多くの出来事が散漫になっていないのは、「いつか必ず別れる」という緊張感が、物語の中心にピンッと張っているからだろう。

 なかでも印象的だったのが、冴島オリジナルの母子手帳のエピソード。
 本土のものと違い、日々の出来事や子供へのメッセージをビッシリと書き込めるデザインになっている。
 
 それは、誰もが皆「子供をいつか本土に渡らせる」ことを覚悟しているからだという。
 
 私自身にも幼児がいるせいかもしれないが、このくだりには泣いた。
 そりゃあ、誰だって子供と離れる時が来る。しかし、「そうなるかもしれない」というのと、生まれながらにして「そうなることが決まっている」というのとでは大きく違う。

 そんなカウントダウンを日々意識しながら、子供の成長を見守り続ける母親たち、そしてその母子手帳にありったけの気持ちをつづった「ある母親」の胸中を思うと、涙が止まらなくなってしまった。
 本書の底には、そんな緊迫感と寂しさが常に漂っている。

 しかし、それだからこそ得られる結束力もまた、本書の見どころ。
 そのひとつが、冴島の古くからの風習である「兄弟制度」。
 成人の男同士が兄弟の杯を交わすと、家族ぐるみで繋がり合うという風習だが、よそ者にとっては疎外感を感じるという諸刃の剣でもある。

 2歳で島に渡ってきたものの、島の生まれではない源樹もその一人。子供の頃から孤独を味わってきたが、ある日、朱里に「兄弟になろう!」と励まされる。
 この2人のあまりにも、あまりにも純粋すぎる恋模様には、もう言葉にならないほど胸がキューン。
 さらに、あの人とあの人も、え?ウソ!キャ~!・・・と、これは黙っておこう。

 そんな彼らだからこそ、別離の瞬間はやはり悲しいが、船を見送る言葉はいつも「いってらっしゃい」。
 もしかすると今生の別れかもしれないし、その可能性のほうが高いのに、彼らは「いつでも待ってるよ」の気持ちをこめて船を送り出す。
 その姿勢は、どこまでも清々しい。

 そしてラストでは、途轍もなく嬉しい「ただいま」のサプライズが。

 -私の人生も、これから多くの人と別れる時が来るだろう。多くの寂しさを味わうだろう。
 
 しかし、この本に出てくる人たちのように、思いっきり手を振って「いってらっしゃい」と送り出したい。
 「いつか逢える」、「もう逢えないかもしれない」、両方の気持ちをたっぷりと込めて。

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「島はぼくらと」辻村深月

母と祖母の女三代で暮らす、伸びやかな少女、朱里。美人で気が強く、どこか醒めた網元の一人娘、衣花。父のロハスに巻き込まれ、東京から連れてこられた源樹。熱心な演劇部員なのに、思うように練習に出られない新。島に高校がないため、4人はフェリーで本土に通う。「幻の脚本」の謎、未婚の母の涙、Iターン青年の後悔、島を背負う大人たちの覚悟、そして、自らの淡い恋心。故郷を巣立つ前に知った大切なこと―すべてが詰...

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No title

凄い!!ホントに素晴らしいです!
僕の学校でも課題図書の一つで自分はこの本で書こうと思っていたのですが、話が難しくよく分かりませんでした。
これを少し参考にさせていただきながら自分も書いてみたいと思います!!



お役に立てて何よりです。

コメントありがとうございます。

この小説は、自分の置かれている状況や環境によって、感じ方や理解が違ってくるかもしれませんね。
読む人の数だけ、正解があるような気がします。

学校での課題図書とのこと、頑張ってください。
プロフィール

アコチム

Author:アコチム
反抗期真っ最中の子をもつ、40代主婦の読書録。
「読んで良かった!」と思える本のみ紹介。
つまらなかった本は載せていないので、安心してお読みください。

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