宇宙はこう考えられている:ビッグバンからヒッグス粒子まで 青野由利

 ある時、1人の人が左側のナプキンを取ったとします。すると、隣の人も、そのまた隣の人も、左側のナプキンを取らざるをえません。ぱたぱた、とみんなが左側のナプキンを取ることになります。
(本文引用)
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 各界の達人というものは、どうやら「比喩の達人」でもあるらしい。

 例えばスティーブ・ジョブズ。
 彼は異性の心を射止める方法として、こんな言葉を残しているという。
 

 「ライバルが10本のバラを贈ったら、君は15本贈るかい? そう思った時点で君の負けだよ。ライバルが何をしようが関係ない。相手が望むことを見極めるのが肝心なんだ」。

(2013/06/03日本経済新聞 朝刊 「春秋」より)

 ただ消費者の心をつかむには云々・・・と形式的な理論を話されるよりも、ずっと頭に入り、心に残り、そしてもっと聴きたくなる。


 では、こんなわかりやすい「例え話」が小難しい物理学に持ち込まれたら、あなたはどう思うだろう。私なら、嬉しい。

 そんな嬉しい一冊が、この「宇宙はこう考えられている」
 「宇宙はこうである」ではなく、飽くまで「宇宙はこう考えられている」と説く本なので、宇宙研究の今昔物語といった内容なのだが、これが何とまあ驚くほどわかりやすくて面白い。

 その原因は、随所に盛り込まれる巧みな「例え話」。
 宇宙は膨張しているのか?「している」とすれば、どうやってそれを説明できるのか?
 宇宙に始まりと終わりはあるのか?「ある」もしくは「ない」とすれば、どのようにして証明できるのか?

 そして何と言っても、今、大注目の「ヒッグス粒子」。
 今年3月に「発見がほぼ確実」とされ、各メディアが上を下への大騒ぎ。しかし一般市民にとっては、どことなくポカーン。「万物に質量を与える?それってどういうこと?」・・・悔しいけれど、ちょっと置いてきぼりにされた気分になるニュースであった。

 しかし、これを読めばもう大丈夫。膝を打つような見事な例え話で、「ヒッグス粒子とは何か」を説明してくれる。

 たとえば、こんな感じだ。

 まず前提として、素粒子に質量を与えているのは、正確に言うと「ヒッグス粒子」ではなく「ヒッグス場」という空間である。そのことを頭に置いておく。
 そしてここからが本番。

 

 大きな会場にたくさんのジャーナリストが集まっているとします。そこに、まったく無名の人が入ってきても、誰も関心を払わないので、その場をするすると通り抜けることができます。これが質量のない状態です。



 フムフム。
 しかしこれがもし、無名の人ではなく有名人やスターだったとしたら・・・。

 

 ジャーナリストたちが寄ってきて、ぜんぜん前に進めなくなります。



 そう、これがすなわち「質量を持つ」こと。
 「前に進めない有名人=素粒子、群がるジャーナリストたち=ヒッグス場、質量=歩きにくさ」と言うのである。

 これはCERN(欧州合同原子核研究所)の所長ホイヤー氏が、昨年7月の記者会見で述べた例え話だそうだが、どうだろう、いきなり自分がヒッグス粒子になった気分ではないだろうか。
 実は私は以前、新幹線のホームで元サッカー選手の中田英寿氏を見かけたことがあるのだが、その時のホームにいた人々はまさにヒッグス場そのもの。
 お互い何の関心も抱かずバラバラだったホームの空気が、急に中田氏に集中。パーティー会場ではなく電車のホームという公共の場だったこともあり、それほど質量は重くなかったと思うが、確かに質量をもった瞬間だったといえるであろう。(当初、中田氏に全く気づかず、思いっきり彼の前を通り過ぎた私っていったい・・・)

 その他、ビッグバン直後の現象「対称性の自発的な破れ」という「何じゃらほい」と言いたくなる現象についても、非常に身近な物(洗濯物のハンガー等)を用いて実にわかりやすく説明されており、感涙もの。

 本当に情熱をもって研究をし、その研究や発見の素晴らしさを皆に伝えたい、わかってもらいたい、と思えば、どんなに難しいことでもここまでわかりやすく、かつ面白く表現することができるのかと驚愕した(これは以前読んだ「山中伸弥先生に、人生とiPS細胞について聞いてみた」にも通じるものである)。

 ヒッグス粒子って何?宇宙って何?研究者たちはどんなことを考えているの?

 そんな疑問を少しでも持っている方に、ぜひ手にとってほしい一冊である。
 (※ちなみに、本書中にある「曲率」については「100年の難問はなぜ解けたのか」もオススメ)

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Author:アコチム
反抗期真っ最中の子をもつ、40代主婦の読書録。
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