人とつながる表現教室。 山田ズーニー

 愛されたくても愛を与えられないこどもと、愛したくとも、愛を注ぐ対象がないおとなと、どっちが苦しいのだろう?
(本文引用)
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 もう10年以上前になるが、当時私の大好きだったロックバンドが活動休止の末、解散した。
 多少予想はしていたものの、解散直後に読んだメンバーのインタビューに、私は軽い衝撃を受けた。
 それは確か、曲作りのうえであざといことをやるようになってきた自分が、最後はもう嫌で嫌で・・・といった内容だったように思う。

 それを読み、私は「あー・・・、なるほどねー」と納得したものの、

 それってすなわちどういうことなのだろう?
 そもそも、どうしてそうなってしまったのだろう?

 と、その後もずっと心に引っかかっていた。

 が、この本を読んでわかった。
 メンバーが空腹になった、音楽に対する愛を貯めておけなくなった。
 いや、一人ひとりは貯めていても、それぞれが噛み合わないために、まるで開いた手のひらから砂が落ちるように、貯めた愛がサラサラとこぼれていってしまった。
 そしてついには、出すものがなくなった。愛が注げなくなったのだ。

 それがおそらく、解散の真の原因だったのだろう。
 

 -「人とつながる表現教室。」、原題「理解という名の愛がほしい-おとなの小論文教室。Ⅱ」
 「ほぼ日刊イトイ新聞」の連載「おとなの小論文教室」をまとめた本書は、そんな、人生の選択に必ず存在する「愛」について、苦しいほどに、いじらしいほどに突き詰めた「愛の指南書」である。




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 本書には、様々な愛の形、理解を求める想いの形が収められている。
 
 心に届くお詫び、良い結果が得られる仕事の依頼、乗客を落ち着かせた駅のアナウンス。
 また逆に、心に届かないお詫び、感動を呼ばない音楽、モヤモヤした気持ちの残る会話・・・と、様々な場面での「理解される想い・されない想い」が紹介されている。

 なかでも感動したのが、先にも述べた「乗客を落ち着かせた、駅のアナウンス」。
 混雑したホームで乗客に命の危険が及び、一瞬、ホームはパニックに。
 しかし駅員がはっきりと、「安全が確認できるまですべての電車を止めます」とアナウンスした途端、人々は落ち着きを取り戻す。
 これだけ聞くと当たり前のことのように思えるが、一人の駅員が、全ての責任を全身で引き受ける覚悟で発したこの言葉。会社の判断ではなく、乗客の命を守る、ただそれだけの必死の想いで発した言葉。
 それはまっすぐに乗客に伝わり、ホームの空気を見事に、不安から安堵へと変えたのである。
 「想いが届いた」珠玉のエピソードのなかでも、この話には本当に心が震えた。
 何度も何度も読み返し、誰かと出会うたびに話したほどだ。

 そこには、真摯な愛に裏づけられた想い、それに伴う責任、そして理解という三者がガッチリとつながっている。

 ああ、「理解を得る」とは、何と難しく、何と苦しく、何と美しいことか。

 そして本書では、最後に「では、愛を注ぐにはどうすればよいのか」について議論する。

 愛を受けずに育った人間は、はたして愛を与えることはできないのか。
 愛を受けて生きてきた人間でも、愛を注げないのはどんなときなのか。

 結論は、「愛はご飯である」ということ。

 愛もご飯も、一瞬は満たされても、しばらくすれば足りなくなるというのだ。

 それに当てはめると、冒頭に挙げたロックバンドは、どうしても伝えたい想い、いや想いを伝えたいという気持ち自体が薄れ、それに伴い表現することそのものに対する責任感もなくなり、当然ファンの理解も得られなくなってくる。

 その負のループの結果、バンドもファンも、愛の空腹状態になってしまったのではないか・・・これは大きな発見であった。

 「愛はご飯である」・・・その結論に達するまでの、ズーニー氏の深い深い考察は、まさに読者への愛そのもの。
 もし今、自分が理解されていない、伝わらない、うまくいかない、歯がゆい、生きづらい・・・そんな思いを抱えているのなら、ぜひこの本で愛をチャージし、そのうえで「自分の真の想い」に耳を澄ませてほしい。
 そしてそれをどう伝えたいか、考えに考えに考えぬいてほしい。
 全身でそれを発し、全身でその結果を受け止める覚悟をしてみてほしい。(自戒をこめて)

 必ずや「理解」という名の輝ける突破口が開けるはずだ。

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Author:アコチム
反抗期真っ最中の子をもつ、40代主婦の読書録。
「読んで良かった!」と思える本のみ紹介。
つまらなかった本は載せていないので、安心してお読みください。

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