ウエストウイング 津村記久子

 「おれあほやし、体も小さいしへたれやけど、でも、それはおかんのせいやないし、おれかてそれわかってるから、自分にできることをがんばりたいねん」
(本文引用)
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 「ありゃりゃ~!?この本って、実はメチャメチャ面白いんじゃない?」

 物語が終息に向かうにしたがって、私はページをめくる手が止まらなくなっていた。
 畳まねばならない洗濯物を前にしながら、「ごめん!もうちょっとだけ読ませて!」と心の中で謝りながら最後は超特急で読み終えた。
 読み始めた当初は、想像もしなかった。まさかこんな気持ちになるとは。

 津村記久子作「ウエストウイング」
 老朽化したビルを舞台に繰り広げられるこの群像劇は、ちょっとトボケていて、でも誰もが真剣で、なのにどうもその真剣さが明後日の方向でやっぱり抜けていて、そして奇跡的なまでにエキサイティングな、何とも不思議な物語である。


________________________________

 舞台は、関西のとあるオフィスビル椿ビルディング。
 そして主人公は、いずれもこのビルの別々の部屋で、一日のうちの一定時間を過ごす者たちだ。

 後輩社員の育成に日々頭を抱える、女性会社員ネゴロ、
 塾に通いながらも、絵画と空想にふける小学生ヒロシ、
 特に不満もなく、かといって充実した日々を送っているというわけでもなく淡々と仕事をこなす男性会社員フカボリ。

 この3人、お互いの存在は全く知らないのだが、実はビル内の同じ場所を「自分だけの秘密基地」としている。

 そんなある日、ひょんなことからこの場所で3人の交流が始まる。

 「ペンをありがとうございました」
 「カメラがほしい」
 「旅行に連れて行ってください(ウソ)」


 互いにそんなリクエストをしながら、依然として顔を知らないまま3人のやり取りは続いていく。

 しかし後に、3人は、その場所を愛していたばかりにとんでもない災厄に見舞われる・・・。
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 この小説は、はっきり言って長い。
 ページ数約400とボリュームもなかなかだが、行の上から下までギッシリと文字が埋まっているので、読んでも読んでもなかなか先に進まない。
 しかもその大半が、登場人物たちの鷹揚とした受け答えと小さな出来事で占められており、なかには飽きてしまう人もいるだろう。事実、私も途中で読むのをやめてしまおうかと思った。

 しかし、しかしである。

 この小説、あちこちに小さな宝石が散りばめられており、私はどうしても読むのをやめることができなかった。

 例えば、後輩に対してブチ切れそうなほどイライラしながらも、「もう少し話を聞いてあげればよかったかなー」と彼女を嫌いきれない自分を何度も振り返るネゴロの姿。

 例えば、子供達を小馬鹿にする塾講師の態度を見て、「こんな大人になるぐらいだったら、大人になる意味あるのかな」とゲンナリしつつも、「自分にできることはしたいねん」と静かに語るヒロシの姿。

 例えば、誰かと話して、お互い孤独ってのも悪くないよなあと窓の外を眺めるフカボリの姿。

 そしてそれぞれが信じられないような災難に遭い、不安と不運にさいなまれながらも、結果的には「何とかなるさ」と焦らず前に進もうとする姿は、実に痛快。
 ちょっとした不満、小さな幸せ、でかい災難、そして悟りといったライフサイクルが、巧妙かつユーモラスに描かれており、気がつけば私はこの物語の虜となっていた。いや~、面白かった。

 自分の環境に閉塞感や諦め、虚しさを感じている人に、ぜひ読んでほしい作品。
 あ、それと「プププッ」と笑いたい人にも、ね。

詳細情報・ご購入はこちら↓


よろしければこちらも!
物語中に出てくる「クリムゾン・キングの宮殿」。
♪トゥエンティファーストセンチュリー、スキッツォイドメァ~ン



ネゴロのセリフに、こちらの本が。併せてどうぞ!
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Author:アコチム
反抗期真っ最中の子をもつ、40代主婦の読書録。
「読んで良かった!」と思える本のみ紹介。
つまらなかった本は載せていないので、安心してお読みください。

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