さがしもの 角田光代

 「だってあんた、開くだけでどこへでも連れてってくれるものなんか、本しかないだろう」。
(本文引用)
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 「好きになれる本」とは「本を好きになれる本」である、とはこれいかに。
 トンチか禅問答のような書き出しで恐縮だが、この本を表現しようと思うと、やはりこう書くしかないであろう。

 この本には「本」にまつわる9つの物語が収められている。

 かつて大切にしていた本を、何度売っても異国でめぐり合ってしまう「旅する本」。
 付き合い始めた恋人の書棚と、自室の書棚とがソックリだという「彼と私の本棚」。
 最期のときを待つ祖母のために、1冊の本を見つけんと奔走する「さがしもの」。
 チョコレートの代わりにプレゼントした本と、奇跡のような再会をする「初バレンタイン」・・・。

 どれもこれも短編の小品なのだが、描かれる世界は目がくらむほど壮大。
 1つの本棚、1冊の本が、これほどまで人の心に宇宙を創りあげるのかと驚かされる。

 たとえば、田舎町の小さな書店を舞台にした物語「ミツザワ書店」。
 かつてその書店で漫画雑誌や本を買っていた少年が文学賞をとり、当時店番をしていたおばあさんに報告に行く、という設定だ。

 そのおばあさんはいつも本を読んでおり、万引きをする客も後を絶たず、またおじいさんと結婚した動機も「書店の跡継ぎだから」というほどの本好きである。
 
 そんなある日、孫娘がおばあさんに質問をする。
 本のどこがそんなに面白いの?と。
 そしておばあさんは、「何を訊いてるんだって顔で」孫を見て、こう答える。
 「だってあんた、開くだけでどこへでも連れてってくれるものなんか、本しかないだろう」

 そう、この一言が本書最大の魅力だ。

 本を読むことで、人は旅ができる。
 行ったことのない土地へも、そして行けるはずのない過去の世界へも、本は連れて行ってくれる。
 
 この本の登場人物たちは皆、そんな超現実なトリップの面白さを心の底から知っている者たちだ。そして、その者たちが紡ぐ言葉は、どれもそのトリップの「癖になりそな面白さ」を力強く語っている言葉なのだ。
 だから、この短編集は、本好きをもっと本好きにしてしまう。
 まるで魔法の書のような一冊だ。
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 蛇足ながら、最後に。
 この本を読んでいるとき、日本経済新聞「あすへの話題」における片岡義男氏の文章が目に入った。
 それはおそらく、本書の第2話「だれか」に、片岡義男の本が登場するからだ。

 片岡氏はこの2、3年に書いた短編集について触れ、「人とコーヒー」との間に作り出される新しい価値、可能性について書いている。(2013/03/16 日本経済新聞夕刊より)

 そしてそれを目にした瞬間、私は、角田光代の本と、片岡義男の本と、ただそれらを読む私との間で「新しい価値」のようなものが作り出されたのをかすかに感じた。
 もし、この「さがしもの」を読んでいなかったら、そのような偶然の出合いや閃光に気づくこともなかったであろう。

 ・・・やっぱりこれは、魔法の書かもしれない。

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Author:アコチム
反抗期真っ最中の子をもつ、40代主婦の読書録。
「読んで良かった!」と思える本のみ紹介。
つまらなかった本は載せていないので、安心してお読みください。

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