デュルケーム「自殺論」感想。愛する人を喪った人に、ぜひ読んでほしい歴史的名著。
(本文引用)
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いや、私が「自殺したいと考えていた」という意味ではない。
「自殺はなぜ起こるのか? 自殺とは一体なにか?」と、そのまま「自殺について考えている」という意味である。
そんな私の疑問に答えてくれそう・・・と思い、購入したのが「自殺論」。
そう、私が知りたかったのは「自殺に関する論考」=「自殺論」。
「人はなぜ自殺するのか?」「自殺の動機には、どのようなものが多いのか?」、そして「自殺は伝播するのか・・・?」等を知りたく手に取ったのだが、読んだら期待以上。
地域・年代・季節・学歴・生活スタイル等々、目をむく緻密さで「自殺」について調査・分析されていた。
本書を読んだ結論を言うと、やはり「自殺を完全に無くす」というのは、残念ながら不可能だ。
しかし本書の「人間・地域・気候等による、自殺率比較」は、「自殺への歯止め」に少なからず有効なはず。
さらに本書のメリットは、「自殺抑止」だけではない。
自殺が行われてしまった後でも、読む意義はおおいにある。
「愛する人を、自死で喪った人の心」を、本書は疑問の余地をはさむことなく救ってくれるのだ。
■「自殺論」内容
著者エミール・デュルケームは、フランスの社会学者。
マックス・ヴェーバーと並ぶ、「社会学の祖」といわれる人物である。
デュルケームは自殺を、「個人的気質」によるものか、「社会的な影響」によるものかを、膨大なデータから分析。
自殺した者は、いわゆる「精神疾患」にかかっていたといえるのか?
自殺は遺伝する?
明確な動機はあるのか?
新興宗教は関係あるか?
戦争等、社会的不安は影響するか?
自殺が起きるのは都市?田舎?
自殺が起きやすい季節はある?
年代・性別・独身・既婚・・・自殺率が高いのは?
自殺は伝染するのか?etc.
考えられうる限りの分野・属性から、「自殺」を調査・分析。
緻密な調査の結果、自殺を「自己本位的」「集団本位的」「アノミー的」「宿命的」の4つに分け、「自殺への向き合い方」を説いていく。
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■「自殺論」感想
本書を読んでほしい人。
それは「愛する人を、自死で喪った人」だ。
自殺が報じられると、必ずこんな声が上がる。
「誰かに相談できなかったのか」
「家族や友人は、力になってあげられなかったのか」
「子どもは、自殺の歯止めにならなかったのか」etc.
しかし本書のデータ・分析を見ると、「周囲の人は抑止になれなかったのか」という声に「待った」をかけざるを得ない。
誰かが自死すると、周囲は「自殺の動機」「自殺に至った悩み」などをいろいろ想像する。
家庭の悩み、貧苦、病気、自尊心の低下等々・・・。
しかし「社会的な自殺率の変化」を見ると、そのような「動機・悩み」が「自殺を引き起こしたとは断定できない」と、著者は分析。
生活上の種々さまざまな出来事は、たとえ相反するものであっても、ひとしく自殺の口実になりうるのだ。こういうことが起こるのは、それらの出来事のいずれもが、その自殺の特有の原因ではないからである。では、ともかく、その因果関係を、なにかそれらの出来事のすべてに共通する特性に帰することができるだろうか。だが、そもそもそのような特性は存在するだろうか。かりに存在するとしても、その共通の特性とは、せいぜいのところ、一般にくやしさとか悲しみであるとしかいえない。そして、その苦悩が、どれくらい強くなるとこの悲劇的な結果がひき起こされるかを決めることはできないのである。
われわれは、恐るべき不幸に敢然と立ち向かっていく者を知っているが、またほんのすこしばかりの倦怠感から自殺にはしってしまう者も知っている。さらに、苦しみにもっとも苛まれている者がもっとも自殺しやすい者であるとはかぎらないことを、筆者はすでに明らかにした。むしろ、すぎたる安逸こそが、人をしてみずからに武器を向けさせる。人がもっとも容易に生を放棄するのは、生活のもっとも楽な時期、および生活にもっとも余裕のある時期においてである。
この結論は、デュルケームの私見というわけではなく、様々な地域・階級・年齢など「客観的分析」の結果。
人は誰かが自死した後、何かと理由をつけたがるが、実際のデータを鑑みると大きな矛盾が発生。
周囲が動機・悩みを決めつけ、遺族や知人・友人を責め立てることは、有り体に言って「不合理」なのである。
ならば自殺を抑止することは、不可能なのであろうか?
デュルケームは調査・分析の結果、「真の治癒をもたらすようにおもわれるものは、一つもみあたらない」と断定。
だが「自殺増加」と「社会的変容」を考えあわせ、抑止のヒントも述べている。
これだけ膨大なデータから導き出した策だ。
傾聴に値するであろう。
今年ほど衝撃的な自殺が報じられた年も、そうそうない。
「なぜ?」「どうして?」と憶測が生まれ、飛び交うのも無理はない。
そんな今、ぜひ本書を手に取ってみてほしい。
「なぜ止められなかったの?」
「誰かに相談できなかったの?」
「遺された家族は歯止めにならなかったの?」
そんな言葉が、どれほど筋違いであるかが、よくわかる。
愛する人を喪った人が、これ以上傷つかないためにも、幅広く読まれるべき名著である。
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