「明治を生きた男装の女医 高橋瑞物語」感想。医学部女性差別問題で「注目したい二人」の行動。

 これは小さな一歩であったかもしれない。しかし、お産による死を受け入れるしかなかった女たちや家族、そして社会に一石を投じ、お産への医療介入の必要性を知らしめる契機となった。
(本文引用)
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 女医誕生の物語といえば、渡辺淳一の「花埋み」を思い浮かべる人が多いであろう。

 「花埋み」は、日本初の女医・荻野吟子の生涯を描いたもの。
 苛烈な女性差別と闘いながら、医師になる夢を叶え、多くの命を救う姿には、何度読んでも胸が熱くなる。
 
 本書の主人公「高橋瑞」もまた、女性が医師となる突破口を拓いた人物。
 産科無償施療を行い、「出産で死ぬのは運命」という“女性たちの諦観”を、根底から変えた人物だ。

 しかし「医学」における女性差別は、まだなくなっていない。


 本書から100年経った今なお、医学における女性差別は深刻。
 医学部受験で、女子の点数が引き下げられていた問題は、誰もが知るところだ。

 そこで読みたいのが「高橋瑞物語」。
 本書を読むと、「差別意識を自覚し、改めることの尊さ」が胸に染み入る。

 差別してしまったことは、許されないことだが、もう仕方がない。
 本当に許されないのは「差別とわかっていても改めない」こと。
 
 自分の過ちを認めることが、どれほど美しいか。
 己の固定観念を引きはがし、差別を改めることが、どれほど崇高なことか。

 本書を読むと、「過ちの自覚・思い込みからの脱却・改心」の素晴らしさがよくわかる。

 「医学部女性差別の根本的撤廃」を考えるうえで、必読の一冊といえるだろう。
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■「明治を生きた男装の女医 高橋瑞物語」あらすじ



 時は江戸時代後期。
 ペリー来航の前年に、高橋瑞は武家の娘として生まれる。
 
 幼い頃から利発だった瑞は、成長するにつれ学問を志すように。
 しかし当時は「女性に学問はいらない」という世の中。
 瑞は婚期も逸していたため、生き方を模索していた。

 そんなある日、可愛がっていた姪が重病に。
 瑞は家族に、医者を呼ぶよう進言したが、受け入れてもらえず。
 姪は適切な医療を受けられないまま、夭逝する。

 瑞は姪の死に打ちひしがれ、さらに母の他界も重なり、学問の道に進むことを決意。
 家出先で親切な女性に世話になるが、彼女の体は、ある薬の副作用でボロボロになっていた。
 
 瑞は次第に、「医師になりたい」という夢をふくらませていく。
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■「明治を生きた男装の女医 高橋瑞物語」感想



 本書には、キーパーソンが二人存在する。

 その二人とは、「己の内なる女性差別」を恥じ、改めた人物だ。

 一人は警察官。

 瑞は医学校時代、朝4時に下宿を出て授業に直行。
 早朝に大荷物を持って歩いていたため、警察官が瑞を職務質問。
 瑞が「医学校に講義を聴きに行く」と言っても「嘘をつけ!」と聞き入れない。
 「女が医学校になど行くはずがない」と思いこんでいたのだ。
 
 しかし風呂敷包みのなかの教科書を見て、警察官は瑞を信用。
 「すまなかった」と謝り、最短ルートで瑞を案内。

 別れ際、
 

「これからは女の医者も必要になるだろう。頑張りなさい」


 と言葉をかけるのである。
 
 そしてもう一人は、医学校の男子学生。

 ある日、瑞は医学校で、着物にいたずら書きをされる。
 洗濯しようにも他の着物がない。
 瑞は着物の落書きを隠すことなく、前方の席で講義を受ける。

 翌日、机には「高橋瑞殿」と書かれた手紙と共に、新しい着物が。
 いたずら書きをした男子学生が母親に頼み、新しい着物を縫わせたのである。

 どうだろう。
 この二人の行動は、何と眩しいと思わないだろうか。

 最初に差別をしていたからといって、「今さら変えるなんて恥ずかしい」と思うのは愚の骨頂。
 差別した己の心・行動を恥じ、深い慈愛をもって相手に接する。
 
 なかなかできることではないが、それができる人の、何と美しいことかと涙が出る。

 「差別を改めた人物の行動」と聞き、すわ、国の中枢にかかわる人物か、などと思ったかもしれない。
 「なんだ、道中出合った警察官と、学校の同級生か」と軽んじる人もいるかもしれない。

 だが、この二人の言動が「医師・高橋瑞」誕生の大きな励みになったことは確か。
 さらに言うと、多くの妊産婦や赤ん坊の生命を救ったことになるのも、間違いないのである。

 医学における女性差別問題は、今後も完全撤廃は困難かもしれない。
 「女性は産休があるから・・・」と、男性と公平な待遇をするのに、後ろ向きの人もいるであろう。

 だが「差別」が常態化しており、それを疑問に思わない、覆すのは恥ずかしい・・・などと考えていたら、それほど恐ろしいことはない。

 高橋瑞を差別していた、警察官と男子学生。
 その二人が己を改める勇気を持たなかったら、医師・高橋瑞はいなかったかもしれない。
 そして多くの妊産婦や赤ん坊の生命が、奪われていたかもしれないのだ。

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アコチム

Author:アコチム
反抗期真っ最中の子をもつ、40代主婦の読書録。
「読んで良かった!」と思える本のみ紹介。
つまらなかった本は載せていないので、安心してお読みください。

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