久坂部羊「老乱」感想。夫に介護を任せてしまってる私が、読んで良かった本当の理由。

 もう消えてなくなりたい。人間にも象の墓場のようなところはないものか。死ぬ前に姿を消す猫のようになりたい。
(本文引用)
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 わが家では、夫が義母(夫の実母)の介護を一手に担っている。
 いつも申し訳ない気持ちでいっぱいで・・・何かできることはないかと申し出るのだが、私に負担をかけまいと努力してくれている。

 そんな時に、ふと目に留まったのが、久坂部羊著「老乱」。
 認知症介護の苦労を、少しでも知りたいと思い手に取ったが、読んでよかった。
 実によかった。

 その理由は「介護する人の苦労がわかる」・・・ということも、無論ある。
 だが、本書を「読んで良かった」と思える本当の理由は、「介護される人のつらさに、思いを馳せることができた」から。

 今まで恥ずかしいことに、「介護される人のつらさ、寂しさ」を考えたことがなかった。
 本書を読み、そんな自分を「何と愚かしいことか!」と頬をひっぱたきたくなった。


 同時に、夫に対して、もっと申し訳ない気持ちになった。

 夫はきっと「介護されている母の気持ち」を知っていたであろう。
 母の気持ちを慮り、涙が出ることもあっただろう。

 それを誰に話すこともなく、家族には常に笑顔で過ごしている夫は、どれだけ多くの思いを押し殺し、つらい思いをしてきたか。
 「老乱」を読み、「介護される人の気持ち」、そして「介護される人の気持ちを知りながら、介護する人の気持ち」を思い、胸がつぶれそうになった。 

 だから私は本書を読み、本当に良かったと思うのだ。
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■「老乱」あらすじ



 五十川幸造は78歳。
 数年前に妻を亡くし、現在独り暮らし。

 「子どもの世話にはなりたくない」と、老化防止を自ら徹底。
 炊事をこなし、毎日日記をつけ、「漢字の書き取り」で脳トレまでしている。

 しかし幸造の嫁(息子の妻)である雅美は、幸造の微妙な変化を見逃さなかった。

 車の停め方、くたびれたサンダル、新しくなった鍋、台所の天井、会話のなかでのちょっとした違和感。

 雅美は鋭い観察眼で、幸造の「認知症の兆候」を見抜き、まずは車の運転をやめさせようとする。

 だが幸造は頑なに、それを拒否。

 ついに「自分の認知症疑惑」を晴らすべく、わざと家出をするのだが・・・?
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■「老乱」感想



 介護小説は数あるが、本書は他の「介護小説」と一線を画している。

 それは上述したように、「介護される人のつらさが全面に出ている小説」だからだ。

 本書の特徴は、「幸造の日記」が随所随所で差し挟まれている点だ。

 最初は漢字仮名交じりで、文章も理路整然。
 日課の「漢字書き取り」もスムーズにいっている。

 しかし徐々に平仮名が増え、小さい「っ」が書けなくなるように。
 漢字も思い出せなくなり、被害妄想からくる愚痴・苛立ちの記述が増えていく。

 「アルジャーノンに花束を」を思わせる文章の如実な変化は、「老い」というものを読者にイヤでも突き付ける酷なものだ。

 そしてその日記で、特に注目すべきは「幸造自身の、老いへの恐怖・悔しさ・哀切の告白」だ。

 「思うよに手が動かない。
  これが自分の字だとおもうとナサケナイ。
 毎日がくるしい。ひとりでさびしい。
 弱ネを吐くな。ガンバレ。だれもたすけてくれない。
 努力、しんぼう、忍耐。
 はやく、頼子のところに行きたい」


 「人にめいわくをかけないよう、できるだけがんばて、とおもてきたが、まちがていたらしい。
 トシヨリは動かないほうが、いいらしい。
 寝たきりになたほうが、みんなヨロコブ」


 幸造の日記には、介護される人の心情がありありと写し取られている。
 
 介護といえば、どうしても「介護する人の苦労」のみに目が行きがちだが、実は「介護される人」もつらい。実につらい。
 
 本書は「介護する側」の視点を濃密に描きつつ、「介護される側」にも力点をずっしり置いて書かれているため、より「介護問題」を根本から深く真摯に考えさせてくれるのだ。
 
 こう書くと、救いのない物語に見えるかもしれないが、ラストは意外なほど爽やか。

 雅美たちの選択が、正しいかどうかはわからない。
 しかし「介護される人の気持ち」を、ふと立ち止まって考えると、「自分の家族に合った最高の介護ができる」ことが見えてくる。

 それがわかるという点で、本書は「介護小説界の、群を抜く名作」といえるだろう。

 さて私はどうするか。
 「介護されている母」と、「介護されている母の気持ちを推し測りながら、介護している夫」の気持ちを、できるだけ明るくするには、どう行動すればよいか。

 「幸造の日記」、そして「雅美が出した結論」を鑑みながら、「母と夫が幸せと感じられる生活」をじっくり考えていきたい。 

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プロフィール

アコチム

Author:アコチム
反抗期真っ最中の子をもつ、40代主婦の読書録。
「読んで良かった!」と思える本のみ紹介。
つまらなかった本は載せていないので、安心してお読みください。

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