みちくさ道中 木内昇

 生きていると、つい生きていることを忘れがちだ。なにかを成し遂げたいと気ばかり逸るが、実はすでに私たちは素晴らしい務めを果たしているのである。
 人生はままならない。でも誰しもちゃんと存在している。

 (本文引用)
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 このブログで紹介している本は、ほぼ全て「読んで良かった」と思えるものであるが、この本はなかでも格別であった。
 
 直木賞受賞作「漂砂のうたう」をはじめ「笑い三年、泣き三月」など常にどこか飄々として、ププッと笑えてホロリと泣けて・・・そして読んだ後には必ず何かが残る、そんな小説を世に送り出してくれる木内氏。

 そんな木内昇氏の初エッセイ集は、木内氏の魅力的な人柄全開の一冊。

 私は女性であるが、今すぐにでも木内さん(女性)のもとに走って「好きです」と告白したいぐらいである。
(作中、木内氏が一流のギター工場で働くさわやかな職人さんに「好きです」と告白しそうになったというエピソードがあるが、おそらくその衝動と似ている。)

 このエッセイは書き下ろしではなく、新聞や雑誌での連載を一冊にまとめたものだ。
 (もともと私は、日本経済新聞夕刊「プロムナード」での木内氏の連載が大好きだったので、このように本にまとめていただいたのは心底嬉しい。)

 幼少期、青春時代、そして社会人となってからの日々・・・それぞれにおける木内氏の思い出や日常が、各ページにきらめくばかりに描かれている。
 その文章からは無邪気な笑顔も苦しむ顔も浮かぶが、どれもユーモラスかつ滋味あふれるもので、小説同様何度も「ププッ」「ホロリ」とさせられた。




 そして全編の根底にひそやかに流れるのは、「自分にしかない人生を懸命に生きよ、そのこと自体に多大なる価値がある」という主張だ。

 人生はうまくいかないことの連続であり、時には「人は本来、『その人らしからぬ』ことを折々の局面でするから面白い」と、木内氏は言う。
 一見、流浪の生き方ともとれる人生論だが、読めば読むほど「私らしさ」などという虚飾にまみれた仮面を取らざるを得なくなる。

 そしてやがて、「私はこうでなくては」「あの人に負けている」「こんな風に見られたくない」といった虚栄心や見栄といったがボロボロと剥がされ、読み終える頃には何でもない、ただ生きるしかない自分がいることに気づく。等身大の丸裸である。
 しかしそんな姿になった今、眼前に広がるのは、何と澄み渡った景色だろう。

 また時おり差し挟まれる先人たちの言葉が、さらに木内氏の信念をはっきりと浮かび上がらせる。

 それは坂本龍馬の詠んだ歌であったり、戦死した若者の手記であったりするのだが、彼らがこれほどまでに「人生」について教えてくれていたにも関わらず、なぜ自分はできないのか・・・と、私は思わず、自ら柱に頭を何度も打ちつけそうになった。この馬鹿め!と。
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 これからどんな壁が立ちはだかろうとも、とにかく生きるだけ生きる。
 自分の尊厳が傷つけられることが起ころうとも、自分を生きられるのは自分しかいない。

 「気づくのが遅いよ」と言われるかもしれないが、幸いにもこうしてまだ、どうにかこうにか生きている。
 これから死ぬまでに、予想もつかないことが幾度となく訪れるだろう。苦難に涙することもあるだろう。自信を失うこともあるだろう。

 そのたびに私は開こう、この本を。

 そうすれば難なく、背筋を伸ばしたままその壁を乗り越えられるのではないか・・・そんな予感がしてならない、立春の香り漂う今日この頃である。

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Author:アコチム
反抗期真っ最中の子をもつ、40代主婦の読書録。
「読んで良かった!」と思える本のみ紹介。
つまらなかった本は載せていないので、安心してお読みください。

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