「赤ちゃんをわが子として育てる方を求む」感想。「法と命、どちらが大事か」を眠れぬほど考えた一冊。

 「未熟でもちゃんと産声を上げんだど。どんなに小さくても必死に息をして生きようとする。その声を聞くと思うんだ。未熟児だってなんとか生きたいって願ってるんでねえがって」
(本文引用)
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 法律は命を守るためにある。
 法律は、人々に幸福と平安をもたらすためにある。

 しかし法律のせいで、命が葬られることもある。
 法律のせいで、より苦しい人生を強いられることもある。
 
 そんな矛盾を感じている人も多いであろう。
 (※「あぶない法哲学」では、豊富な事例で「法と幸福のジレンマ」を解説。たいへん面白い本なので、興味のある方はぜひ!)

 ではどうすれば。法も生命も幸福も守ることができるのか。

 その解決策を示したのが、この本。


 法律を守ろうとすると、赤ちゃんの生命を守れない。
 赤ちゃんの生命を守ろうとすると、国に罰せられる。

 「赤ちゃんをわが子として育てる方を望む」は、「法か生命か」をこれ以上ないほど極限まで、ギリギリまで、考えさせてくれる。
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■「赤ちゃんをわが子として育てる方を求む」あらすじ



 本書は実話をもとにした小説。

 主人公・菊田昇は、実家が遊郭。
 子供の頃から、遊女の妊娠・中絶の「つらさ・苦しみ」を目の当たりにし、産婦人科医を志す。

 菊田は「望まぬ妊娠」をした女性に中絶を施すが、「さらなる問題」にぶつかることに。

 それは、お腹が大きくなってからの中絶。

 ある日、一人の女性が父親からの性的虐待で、妊娠7ヶ月で中絶を依頼。
 当時の法律では「妊娠7ヶ月」まで中絶が許されていたため、昇は患者の希望に応える。
 
 しかし妊娠7ヶ月ともなれば、出された赤ん坊は、ほぼ完全なる人間。
 明らかに、生きようとする力を見せていた。
 だが生きさせるわけにはいかない。
 昇は赤ん坊が苦しまない方法で、黄泉に帰らせる。

 赤ん坊を殺してしまった・・・その思いに昇は苦しみ、昇は動く。

 法律で、中絶可能期間をもっと短くできないか。
 中絶可能期間を過ぎたら、普通に出産し、その赤ちゃんを「子どもがほしい夫婦」に渡せればよいではないか。
 さらに実母の戸籍に「出産」の痕跡を残すことなく、乳児院や里親に預けられれば・・・。

 望まぬ妊娠に悩む女性、赤ん坊、子どもを望む夫婦・・・皆が幸福になる方策を追求し、昇は国を動かしていく。
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■「赤ちゃんをわが子として育てる方を求む」感想



 生命と法律は、ここまで相容れないものかと愕然とした。

 そして「生命を守る」という“究極の正義”を貫くには、かくも強固な意志と信念が必要であるか。

 赤ん坊の命を守る。
 そして妊婦の命と心、尊厳を守る。

 ただそれだけのことが、「法律」により困難になる。
 法律は「生命と尊厳を守るため」に作られているはずなのに、なぜここまで「生命・尊厳維持を阻むのか」と、苛立つ思いで読みふけった。

 かといって、「法律は生命を軽視している」というつもりは毛頭ない。
 おそらく最大多数の最大幸福を願い、法は制定されている。

 だが「人間が実際に行なうこと」は、机上の話し合いでは到底想像しきれない。
 「本当の苦しみ」は、法律ではカバーできない部分にこそ存在するということを、本書は教えてくれるのだ。

 結論から言うと、昇は法を動かし、国を動かした。
 しかしそこに至るまでの茨の道は、息をのむもの。

 「普通の生き方」を望む、ただそれだけのことがこれほど難しいとは・・・。
 次々襲ってくる困難と、それに立ち向かう昇の姿にただただ胸が熱くなり、応援する思いで一気に読んだ。

 やや話はそれるが、医師がALS患者に安楽死を施し、嘱託殺人の疑いで逮捕されたという。
 このニュースも、「法と生命、法と人権」のジレンマを考えさせる出来事といえる。

 「誕生」と「死」、それぞれの場面において、人間は「法律」とどこまで共存できるか。
 本書と、安楽死報道とを併せて、じっくり考えていきたい。

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アコチム

Author:アコチム
反抗期真っ最中の子をもつ、40代主婦の読書録。
「読んで良かった!」と思える本のみ紹介。
つまらなかった本は載せていないので、安心してお読みください。

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