「病魔という悪の物語 チフスのメアリー」感想。コロナ禍で「心に留めておきたいこと」がここにある。

 人間というものは、本当に、自分よりも弱い立場に貶められた人を見つけると、その人をもっと貶めて喜ぶところがあるらしい。
(本文引用)
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 新型コロナウイルスで、問題となるのは「2つの伝播」だ。
 ひとつはウイルスの伝播で、もうひとつは「噂」の伝播。

 感染者や、「検査の結果待ち」の人が移動しただけで、ネットリンチにさらされる。
 
 私はそれを「現代ならではの残酷さ」「SNS時代ならではの無情」と捉えていた。
 ひっくり返せば「昔は良かった」というところだ。

 しかし「チフスのメアリー」を読み、その考えは180度変わった。

 弱者に対する誹謗中傷は、昔も今も変わらない。


 いや、昔のほうがひどい。
 SNSで、様々な意見が飛び交う今のほうが自浄作用が働き、はるかに「まとも」なのかもしれない。

 本書の内容にガタガタと震えながら、私は認識を改めた。
 改めざるを得なくなった。
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■「病魔という悪の物語 チフスのメアリー」内容



 時は20世紀初頭。
 米国で局地的に、チフスが流行する。
 
 チフス患者の家庭を調べたところ、ある女性が浮上。
 メアリー・マローンという賄い婦が勤めた家庭で、チフスが流行していたのである。

 点と線がつながり、公衆衛生学の専門家がメアリーを訪問。
 
 メアリーは「無症状の保菌者」として、強制入院・隔離を強いられる。
 
 病院送致の後、メアリーは世間で辛辣なバッシングを受ける。
 
 初期のあだ名は「チフスのメアリー」。

 そして中傷はエスカレートし、新聞はこう書き立てる。

 「歩く腸チフス工場」
 「アメリカで最も危険な女」

 ついには目を覆うようなイラストまで・・・。

 見えない恐怖にぶつかると、人は理性を失い、鋭い牙を向けてしまう。

 本書ではメアリー・マローンの生涯を通じて、そんな「人間の業」を暴いていく。 
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■「病魔という悪の物語 チフスのメアリー」感想



 一時期、新型コロナ陽性者に対する罵詈雑言が、ネットをにぎわせていた。
 その様子を「ネットは怖い。SNSは恐ろしい。現代の闇だ」と思っていた人も多いであろう。

 そんな人こそ、「チフスのメアリー」を読んでみてほしい。
 
 昔から、人間がいかに「弱者叩き」に執心していたか。
 そして「SNSがあるから、バッシングがエスカレートする」という認識に、疑問を持つはず。

 何しろ「SNS」という「そもそも信憑性が怪しいもの」ではなく、「新聞」という「信頼性の高いもの」が、品性下劣な中傷をするのだから、たまったものではない。

 弱者叩きは、昔も今も全く同じ。
 加えて「SNSがあるから、まだバッシングはセーブされている。こと誹謗中傷に限っては、SNSがない時代のほうが恐ろしい・・・」と、認識がコペルニクス的転回並みに変わるであろう。

 そんなメアリー事件から見えてくるのは、「どんな人に対しても、どんな状況であっても、相手を尊厳ある一個人と考えねばならない」ということ。
 
 本書終盤で、著者はこう語る。

 あなたの隣にいる人が、伝染病の感染源である可能性もある。
 いつ見えない恐怖に怯え、その原因と見るや、「隔離し、あざけり、貶める」という歴史を繰り返すかわからない。

 そのうえで、著者は優しく忠信する。

 どこかで未来のメアリーが出現するようなことがあったとしても、その人も、必ず、私たちと同じ夢や感情をかかえた普通の人間なのだということを、心の片隅で忘れないでいてほしい。


 一時期よりは落ち着いてきたが、未だなお、新型コロナ感染者に対する目は厳しい。
 第二波が本格的に襲ってきたら、また休校・休業・移動等にまつわるバッシングが始まる可能性もある。

 そんな時、本書を思い出し、こう唱えたい。

 陽性であろうと陰性であろうと関係ない。
 私たちは皆「夢や感情を持つ、普通の人間」なのだ。

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アコチム

Author:アコチム
反抗期真っ最中の子をもつ、40代主婦の読書録。
「読んで良かった!」と思える本のみ紹介。
つまらなかった本は載せていないので、安心してお読みください。

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