「弱くても勝てます」開成高校野球部のセオリー 高橋秀実

 「ピッチャーが球を持っているうちに振ると早すぎる。キャッチャーに球が届くと遅すぎる。その間のどこかのタイミングで絶対合う。合うタイミングは絶対あるんです」
 (本文引用)
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 開成高校出身の学生は、家の近所の公立高校でのんびり過ごしていた私にとって、まさに「雲上人」だった。同じ大学に通っていたにも関わらず、である。

 たとえば昼食時。学食の席がいっぱいのときに、開成出身の同級生やサークルの後輩が現れると、「ささ、どうぞ。暖めておきました」などと言いながら彼らに席を譲ったものだ(固辞されたが)。そして心の中で、「さすが開成、ラーメンの食べ方までどことなく知的・・・」などと考えていた。

 今思うと、そこまで卑屈になることもなかったのだが、「開成」というだけで「見えない壁」のようなものを感じ、何か失礼があってはいけないという畏怖にも似た気持ちを抱いていたのである。
 (ちなみに私は女性なので、同じような感情を雙葉高校出身の友人にも持っていた。

 また余談だが、灘高校出身という後輩は、自己紹介でいきなり「尊敬する(高校の)先輩は中島らもさんです」と言い出し、かなり親近感をもったことを覚えている。)
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 前置きが長くなったが、今回ご紹介する本は、その開成高校野球部の姿を追ったドキュメンタリー「弱くても勝てます」

 妙に肩の力が抜けたタイトルだが、これが今や書店でも図書館でもアマゾンでも人気爆発、ついに開成打線が火を噴いた一冊なのである。

 扉を開くとそこには、著者高橋秀実氏による挨拶文が。

 それによると、この本は「開成高等学校硬式野球部が甲子園に出場するまでの途中経過」であるとのこと。
 文面からは、「本当は甲子園に出場した暁に出したかった」ような雰囲気が漂っているのだが、どうやらそれは間に合わなかったらしい。

 そして目次を越えてプレイボール、1回(1章)を開くと、開成ならではの、いやおそらく開成にしかできないであろう、異常ともいえる驚きの戦略が満載。

 「エラーをしまくることで油断を誘う」「試合が壊れない程度に運営できる守備力」・・・など、「本当に大丈夫なのか?」と読んでいるだけでハラハラするような内容だ。

 そして全体を包括する開成野球の方針とは、ずばり「ドサクサに紛れて勝つ」
 偏差値が(高すぎて)測定不能という開成らしいんだか、らしくないんだかわからない、かなり高いギャンブル性と幾分かの正確性をもって、生徒たちは練習に励み試合に臨む。

 高校野球の強豪校からすれば、憐憫の目で見られても仕方のない練習環境や身体能力。
 「熱闘」という言葉からはかけ離れている、鷹揚とした精神構造。
 これで甲子園を目指そうなんて、常識で考えれば噴飯ものであろう。

 しかしこれが、不思議なことに結構勝ってしまうのである。
 そのプロセスは、開成の生徒さんには失礼だが、とにかく可笑しい。読みながら何度、お腹を抱えて笑ったことか。

 これを読む限り、甲子園出場には、もう少し時間がかかりそうな気がする。
 しかし、万が一甲子園に出場したら、その年の甲子園中継の視聴率は、史上最高のものとなるのではないだろうか。
 そしてテレビの前で、誰もがこう叫ぶだろう。

 「こんな野球、見たことない!」

 野球を、いやスポーツそのものの概念を覆す開成野球が日本全国を揺るがす日を、心から楽しみにしている。

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Author:アコチム
反抗期真っ最中の子をもつ、40代主婦の読書録。
「読んで良かった!」と思える本のみ紹介。
つまらなかった本は載せていないので、安心してお読みください。

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