朱川湊人「なごり歌」感想。志村けんさんの訃報を聞き、涙しながら再読。

 「ゆっくり、ゆっくり・・・・・・全部ゆっくりでいいんですよ」
(本文引用)
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 志村けんさんが亡くなった。

 新型コロナウイルス肺炎は、「悪化するスピードが非常に速い」と聞いていた。
 しかし、まさかこれほどとは・・・。

 志村さんの訃報を聞き、猛烈な喪失感に襲われるとともに、改めて「新型コロナウイルス」の恐ろしさに戦慄した。

 そこで再読したのが、朱川湊人著「なごり歌」。
 「かたみ歌」とセットで語られる、亡き者を偲ぶ短編集だ。

 世の中に、故人を思う小説は数多ある。
 しかし「かたみ歌」と「なごり歌」ほど、「喪失の重み」を感じる小説は、そうそうない。

  
 気がつけばいつも、私たちを笑わせてくれた志村けんさん。
 幼稚園、小学校・・・そして大人になり子どもを持っても、笑いで支えつづけてくれた志村けんさん。

 そんな志村けんさんを喪い、茫然としている今、最もしっくりくる本が、この「なごり歌」。
 他の小説では、この喪失感を埋めることは、到底できないだろう。
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■「なごり歌」あらすじ



 舞台は虹ヶ本団地。
 小3の裕樹は、夏休みの間に引っ越してきた。

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 裕樹は前の小学校で、いじめのようなものを受けていたため、引っ越しには安堵していた。
 しかし新しい土地ということで、友だちのいない寂しい夏休みを過ごしていた。

 そんなある日、裕樹は公園で一人の少年・ケンジに声をかけられ、仲良くなる。
 
 しかし家の都合で、裕樹はケンジと遊べなくなり、急きょケンジの家へ。
 都合で遊べなくなった旨を手紙に書き、ポストに入れたが、後に「ケンジの母」から大変な剣幕で怒られる。

 実はケンジは、寝たきりの少年だった。
 では、公園で一緒に遊んだ少年は、いったい誰だったのか?
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■「なごり歌」感想



 大切な人を喪うとは、これほどまでに心狂わせ、人生に衝撃を与えるのか。

 本書を読むと、「人が死ぬこと」の重大性に、改めて驚かされる。

 たとえば第二話は、ある男性が、見知らぬ男に「あなたの妻は、僕の妻です」と言われる物語。
 妻が過去を語りたがらないこともあり、男性はいよいよ「妻はかつて結婚していた」と思いこむ。
 
 しかし真相は、「誰かを亡くした喪失感」が生んだ、とんでもない誤解だった-。

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 この物語は、ラストでさらなる「意外な真相」が明かされ、思わず「フフッ」と笑える話となっている。
 
 だが、「あなたの妻は僕の妻です」と言った男の心境は、到底笑えない。
 
 本書の登場人物たちは、「大切な人を喪った」ことで、常人にはわからない精神状態を抱えているが、それを決して奇異な目でみたり、嘲笑したりすることなど、できやしない。

 誰かを喪うということは、何と心が混乱し、整理がつかなくなることか。
 誰かと永遠に会えなくなるということは、これほどまでに、心がガランドウになることか。

 その尋常ならざる心境を、「なごり歌」はどこまでも丁寧に丁寧に、描いている。

 大切な人を喪った経験のある人なら、「ああ・・・確かにそうだ」と共鳴できるのではなかろうか。

 ひとつの時代を作り、常に時代のトップを走りつづけ、私たちの生活に「なくてはならない存在」だった志村けんさん。

 お目にかかったことすらないにも関わらず、亡くなったと聞き、まるで家族を亡くしたようなショックと虚無感に襲われた。

 「志村さんを喪った心境」は、本書の登場人物たちの心境と似ている気がする。
 
 志村けんさん、今までどうもありがとうございました。

 いつまでも、いつまでも忘れません。

 忘れません。


 
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アコチム

Author:アコチム
反抗期真っ最中の子をもつ、40代主婦の読書録。
「読んで良かった!」と思える本のみ紹介。
つまらなかった本は載せていないので、安心してお読みください。

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