雫井脩介「虚貌」感想。腹が立つほど禁じ手なのに「読む価値あり」の異色ミステリー。

「見てるようで見てない。見てないようで見てるか。人間の意識は覚醒と麻痺の連続で成り立ってるっていうことだろうな」
(本文引用)
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 ミステリーの概念を、そっくり覆す本。
 「虚貌」を読むと、「ミステリーに必要なのは謎解きやトリックじゃない」ということを悟り、全身ビビビッときます。

 身勝手な動機で、一家4人が殺傷される残忍な事件。

 犯人グループが逮捕され、捜査陣は「事件解決」とひと段落。

 しかし時を置き、犯人の一人が殺されて・・・?

 ある「禁じ手」で、最後まで犯人がわからない異色ミステリー。
 普通なら「そんなのアリ!?」と腹を立てるところですが、なぜか心にしみてしみて、いろんな人におすすめしてます。


 なぜ「虚貌」は「禁じ手」なのに、読む価値があるのか、人にすすめたくなるのか。
 あらすじと一緒に、「おすすめの理由」を公開します! 
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■「虚貌」あらすじ



 ある運送会社で、社員3人が解雇される。

 勤務態度の悪さ、仕事の乱雑さが原因だ。

 3人のうち、荒という男性だけは反省の態度を見せるが、ほか2人は社長を逆恨み。
 荒をそそのかし、知り合いの少年にまで声をかけ、社長一家を襲撃。

 社長夫婦は死亡し、長女は半身不随となり数年後に自殺。
 長男は全身火傷の重傷を負う。

 荒は、他2人の罠で主犯格の扱いに。
 ほとんど手出しをしていなかったにも関わらず、グループで最も重い刑を科せられる。

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 そして21年後、グループの1人が他殺体で発見。
 荒が刑期を終え、娑婆に出た直後のことだった。
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■「虚貌」感想



 先述したように、本書の手口は有り体に言って「禁じ手」。
 
 「そんな手が通じるなら、どんな犯罪でもできるじゃない!」と憤りたくなるトリックです。

 普通なら、そんな「禁じ手」ミステリー、「何じゃこりゃ」と一蹴するところですが、この「虚貌」はちょっと違う。
 王道ミステリーから大きくはずれた「そんなのあり?」な展開なのに、「読んで良かった」と心から思える本なのです。

 なぜ「虚貌」にかぎっては、禁じ手なのに「読んで良かった」と思えるのか。
 理由は、本書の目的が「ミステリーを楽しむことではないから」です。

 本書の目的は、「犯人は誰か」ではなく「自分とは誰か」ということ。
 そして本書を読んでいると、「犯人は逃げられない」ではなく、「自分からは決して逃げられない」ことをつくづく認識させられます。

 人はあまりに大きな悲しみ、苦しみ、憎しみに出会うと、自分を見つめることすらつらくなります。
 自分という存在を認められなくなってきます。

 「虚貌」は「一家4人殺傷」という苛烈な犯罪をめぐり、人々の仮面・変身願望を描出。

 過去の罪から逃れたい、人生を少しでも前向きに生きたい、差別を受けずに暮らしたい。

 本書は、その「隠したい・変わりたい」気持ちを実に重厚かつリアルに描出。

 読めば読むほど、「虚しい貌」=「虚貌」を求める人間心理の醜悪さが、心にズキンと刺さります。

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 だから「虚貌」は反則なのに、心震える物語。心に残る物語。
 腹が立つどころか、「読んで良かった」と心の底から思えるんです。

 王道ミステリーや、パズルのようにスキッとした謎解きが好きな人に、「虚貌」はおすすめしません。

 でも「人間って何だろう? 私って何だろう?」とじっくり考えたいなら、「虚貌」は非常におすすめ。

 ミステリーで自分と「哲学対話」・・・なんてのも、なかなか乙なものですよ。

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プロフィール

アコチム

Author:アコチム
反抗期真っ最中の子をもつ、40代主婦の読書録。
「読んで良かった!」と思える本のみ紹介。
つまらなかった本は載せていないので、安心してお読みください。

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