見仏記  いとうせいこう/みうらじゅん

  「そん時はまた一緒に仏像見てさ、勝手なこと言って笑おうよ。それしかないじゃん。たぶんさ、俺たちはボッロボロでも仏像はあんまり変わってないんだろうねえ。だって、小学校の時に見たのと変わんなかったもん。なにしろ、仏像は修復出来るからさ」
 「でも、人間は修復出来ない」
 「そうそう。だけど、もう仕方ないよ、俺たち人間はさ。・・・だからこそ、人間は面白いんじゃん」

 (本文引用)
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 先日、非常に面白い記事を目にした。
 
 「奈良の大仏、輝き失わず?」。 
 開眼供養されてから1260年。途中、火災などに遭い補修されながらも、後に作られた文化財よりも若さを保っている奈良の大仏。その秘訣を暴く有力な説が浮上したというのだ。

 アンチエイジングの秘密は金メッキ。それにより大仏の表面は金銅合金の状態となり、まず銅だけが先に酸化→表面が酸化銅を多く含む状態となったために、金の原子が内部へと移動→金の層が酸素の侵入を防ぎ、内部の腐食を食い止める・・・と、そういう寸法らしいのだ。
 (日本経済新聞 2012/11/18朝刊より)

 昔の人が、そうなることを予測していたのかはわからない。
 しかし、1200年もの月日を経て、そのような化学変化をジワリジワリと起こしていることを思うと、何ともいえない歴史のダイナミズムを感じ、クラクラするような恍惚感に襲われる。

 そして読み返したのが、今回ご紹介する「見仏記」
 サブカル界屈指の仏像マニアであるみうらじゅん氏が、仏友いとうせいこう氏を伴って巡る “見仏”の記録である。
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 ページを開いてまず圧倒されるのが、みうら氏が小学校時代に作成していたという仏像スクラップブックの写真だ。
 例えば鉄道マニアは、鉄道の写真や切符、駅で押したスタンプなどをアルバムに貼っておくが、まさしくその仏像版。




 几帳面に整然と貼り付けられた仏像の写真、そしてそれらを囲むようにビッシリと書かれた、みうら少年による解説。さらにその傍らには、仏像を詠んだ句(byみうら氏)まで・・・。その精密さと傾倒ぶりは到底小学生のものとは思えず、その分野の大学院生も驚きの出来といえる。

 そういえば、みうら氏とリリー・フランキー氏の対談集「どうやらオレたち、いずれ死ぬっつーじゃないですか」のなかで、みうら氏の母親は息子に「阿修羅像も、あんたのおかげで有名にならはったしな」と言うような人だというエピソードが紹介されていたが、このスクラップを見れば、お母様のその言葉もうなずける。

 二人の旅は、奈良、京都、東北、そしてまた奈良、九州・・・と続くが、もう最初から、みうら氏の仏像に対する愛が大炸裂。
 「スター勢ぞろい」の東大寺法華堂(三月堂)に入れば「来るぞ、来るぞ」と不空羂索観音立像ほか十数体に及ぶ仏像たちに迫り、浄瑠璃寺の吉祥天女像には情熱的なラブレターをしたため、観光路線から外れた新薬師寺の宣伝のために一役買いたいと真剣に考える。

 そしてそれに対し、いとう氏は「仏像が来るわけではない。近づいているのはこっちだ」と冷静な目で見守る。

 仏像を前にした瞬間に、スッと当時の人たちの気持ちになる、みうら氏。
 仏像を前にした瞬間に、その仏像や寺の歴史等を理詰めで追っていく、いとう氏。

 「考えるより感じろ」派と「感じるより考える」派。
 
 そんな二人が織り成す見事なコンビネーションからは、会話だけでなく、日本の歴史、そして人間というものの面白さまで堪能できる。

 なかでも新鮮なのが、みやげもの屋から日本史を紐解くという視点だ。

 みうら氏といえば、もらっても嬉しくない「みやげもの」=「いやげもの」評論家として、つとに有名だが、ここでもその鑑識眼を存分に発揮。
 あるひとつの土産物が各店舗にあるかないかによって、文明伝播の道筋まで考察してしまう。そんな二人の柔軟さには、ただもう心底感心した。いやはや、すごい。

 仏像への愛がはちきれんばかりに溢れている、この「見仏記」。
 1000年以上生き抜いてきた仏像たちをまっすぐに見つめる、みうら・いとう両氏の会話からは、我々人間の儚さと、それに抗うことの醜悪さ、そして「どうせなら楽しく生きようぜ!」といったメッセージが熱く静かに伝わってくる。

 仏像は死なないけれど、人間は死ぬ。
 仏像は修復できても、人間は修復できない。

 お腹を抱えて笑いながらも、読み終えると、そんな真理が残っていることに気づく。

 これは仏像の本ではない。

 人間の根源を問うた名著である。

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Author:アコチム
反抗期真っ最中の子をもつ、40代主婦の読書録。
「読んで良かった!」と思える本のみ紹介。
つまらなかった本は載せていないので、安心してお読みください。

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