池澤夏樹「キップをなくして」。夏休み、命・人生を考える時期にピッタリの一冊。

評価:★★★★★

 「みなさんにはまだまだ先のことだけれど、死ぬというのはむずかしいことです。私は去年死んで、その後で苦労しました。準備が充分でなかったと思いました」
(本文引用)
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 夏休みは「命」を考える期間だと思う。
 
 戦争の話を聞いたり、帰省でお墓参りをしたり・・・。

 大往生の人もいれば、志半ばで逝った人、幼くして人生を終え、両親が悲しみにくれた人もいる。

 夏休みは、そんなさまざまな死に触れるとき。
 「死とは何か」「人生とは何か」を考える期間なのではないか、と思っている。

 そこでおすすめしたいのが、池澤夏樹著「キップをなくして」。

 キップをなくしたことで、駅に住み着くことになった少年。
 そこには思いもよらない生命のきらめきがあった。
 
 夏休みの大冒険から見えてきた、命・人生とは?

 

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■「キップをなくして」あらすじ



 イタルは小学生の男の子。
 趣味は切手集めだ。

 イタルはある日、お目当ての切手を買うために、一人で有楽町へ。
 しかし改札から出ようとした瞬間、大変なことに気づく。

 キップがない。
 ポケットに入れたはずのキップがないのだ。

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 困っていたところ、イタルはある少女に声をかけられる。

 「キップ、なくしたんでしょ」

 そこからイタルは少女に導かれ、また電車に乗って東京駅へ。

 東京駅には、駅から出られない「駅の子」がいた。
 イタルは強引に、「駅の子」の仲間入りをさせられるが・・・?
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■「キップをなくして」感想



 死を受け入れるからこそ、生命・人生の重みがズシリとくる。
 避けられない死・防げない死を描くからこそ、「死んではいけない」と思わせる。

 「キップをなくして」は、そんなパラドックスを感じさせる。
 パラドックスを感じるからこそ、余計に「安易に死んではいけない」「生き切らねばならない」と強く強く思うのだ。

 実はこの物語には、幼くして亡くなった少女がいる。

 その少女と、存命中の母親は、ともに「なぜ少女は死なねばならなかったのか」を考え悩む。
 だが、ある人物がきっかけで「少女の人生の意味」「生きた意味」がわかり、「幼い死」を受け入れていく。

 そうしてやっと天に召される過程は、どうしようもなく悲しいが、人生のきらめきを感じさせるものだ。

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 こう聞くと、まるで「死・生命」を軽視しているようにとられるかもしれない。
 「死」「早逝」を美化しているように見られるかもしれない。

 しかし実際は、違う。
 全く逆だ。

 死のなかには、確かに「避けられないもの」もある。
 病気や事故、事件に巻き込まれ、とうてい納得できぬまま「避けられない死」というものがある。

 本書によると、それは「準備のない死」。
 

「ちゃんといっぱい楽しんで、苦しみもきちんと受け取ったか」


「楽しいことも苦しいことも含めて、欲ばって、与えられた機会を隅から隅まで使って、生きられたか」


 それが「死の準備」であり、志半ばで避けられなかった死は、その「準備ができなかった死」と説く。

 「キップをなくして」は、「準備ができなかった死」を受け入れるまでのプロセスを、どこまでも優しく丁寧に描く。
 それは同時に「自ら、準備できなかった死を選んではいけない」「せいいっぱい生き抜いて、たっぷり準備をしよう」というメッセージをも伝えているのだ。

 夏休み、「準備できなかった死」を考える機会も多いだろう。
 
 幼子の死、若者の死、年老いても突然、暴力等で閉ざされた死、

 「キップをなくして」を読みながら、そんな「死」に思いをはせると、心の底からこんな気持ちがわいてくる。

 「生きねば」と。 

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プロフィール

アコチム

Author:アコチム
反抗期真っ最中の子をもつ、40代主婦の読書録。
「読んで良かった!」と思える本のみ紹介。
つまらなかった本は載せていないので、安心してお読みください。

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