山中伸弥先生に、人生とiPS細胞について聞いてみた  山中伸弥 緑慎也

 iPS細胞は、いわば包丁のように、どこでも売っていて、誰でも買える。ピストルも包丁も他人を傷つけようと思えば傷つけられる力を持っていますが、包丁のほうがはるかに入手しやすいのです。
 それでは包丁を購入する全員に対して、他人を傷つけないかどうかをどうやってたしかめるのか。これは、あらゆる科学技術についてまわるやっかいな問題です。

 (本文引用)
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 「むずかしいことをやさしく、やさしいことをふかく、ふかいことをおもしろく」

 劇作家・井上ひさし氏は、かつてこのような言葉を語った。

 そして今、この言葉をそのまま実現したような一冊と、私は出会った。
 さらにこの本は「易しい」だけでなく「優しく」もあり、知的興奮という意味での「面白さ」と心の底から「ププッ」と笑ってしまう「面白さ」をも兼ね備えている。
 また、夢の科学技術は両刃の剣であるということにまで十分言及している点で、非常に「深い」。
 「山中伸弥先生に、人生とiPS細胞について聞いてみた」は、そんな「やさしさ、面白さ、深さ」の三拍子を見事に兼ね備えた良書だ。


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 まず本書の特徴として挙げられるのは、「山中伸弥」という研究者そのものを、くっきりとあぶり出している点だ。
 世紀の大発見にたどりつくまでの道筋を通して、山中教授の人生、苦悩、信念、理想、人柄を、インタビュアーは丁寧に引き出していく。

 大学時代から挑戦しつづけているマラソン、少年時代、医師を志した動機、骨折だらけの学生時代、「ジャマナカ」といわれた研修医時代、そして「ジャマナカ」から「ヤマチュウ」への格上げ・・・。そんな情熱的かつ紆余曲折な山中教授の道程だが、時折あらわれる関西弁も手伝ってか、肩の力を抜きながら読むことができる。そんなラフさも本書の魅力だ。

 そしてそこからついに、「自分は研究者に向いている」と感じた瞬間に出会うのだが、その部分の著述は背中がゾクゾクッとしびれるほど感動的だ。

 何も汗と涙の物語が描かれているわけではないのだが、本書中随所に描かれる「ある発見」をした瞬間の様子には「あ、天職に出会うって、こういうことなんだ」思わせるガツンとした衝撃がある。
 
 これは、科学者だけでなく、あらゆる仕事においても言えることではないだろうか。
 努力し、試行錯誤をしているうちに、ふとした拍子に「あ、この仕事が好きだ」と思える瞬間が来る。
 この本は、そんな「仕事」および「生きること」への持続力・持久力をもたせてくれる。

 また、本書中垣間見られる、山中氏の「研究者としての使命感」には頭が下がる思いだ。

 山中氏はノーベル賞受賞の知らせを聞いても、すぐに研究者の顔に戻ったと聞く。
 その話から「本当に研究というものには終わりはないのだな」と思わずため息が出たが、この本を読み大いに納得した。

 今、この瞬間に、世界のどこかで難病と闘っている人がいる。
 その人たちを一人でも多く助けたい。山中氏は日々心からそう願い、願うからこそ一分一秒が惜しいのだ。

 しかし、拙速は絶対厳禁だ。
 安全を十分に、十分すぎるほどに確かめて、確かめつづけて、人間に応用しなくてはならない。
 しかしモタモタしていたら、苦しんでいる人を助けることはできない。
 「人々を助けたい」とはやる気持ちと、「焦るな。落ち着くんだ」と言い聞かせる裏腹な気持ち。科学者としてのそんなジレンマが、本書で書かれている驚きの実験結果等から、ストレートに伝ってくる。 一流の研究者の姿を、これほどまで剥き出しにした本というのは、なかなかないのではないか。

 しかも「やさしい語り口で、中学生から読める」と帯に書かれているように、科学者という仕事、そしてES細胞とは、iPS細胞とは何かについて、非常に平易な文章かつ巧みな喩えで説明されている。
 なかでも「細胞の初期化」についての説明を「京都の作り方」に例えた部分などは、見事としかいいようがなく、たいへん面白く読むことができた。

 この本を生み出してくれた山中伸弥教授、インタビュアーである緑慎也氏、そして多くの関係者の方々に、心より深く感謝申し上げたい。


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アコチム

Author:アコチム
反抗期真っ最中の子をもつ、40代主婦の読書録。
「読んで良かった!」と思える本のみ紹介。
つまらなかった本は載せていないので、安心してお読みください。

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