「軌道 ~福知山線脱線事故 JR西日本を変えた闘い~」感想。今まで読んだノンフィクションで文句なしに最高。

評価:★★★★★

 「相手が川の対岸に立って、こっちへ来いと呼んでいる。川を挟んで向き合っても、声は届かず、いつまでも距離は縮まらない。とりあえず川に入って、対岸を目指せばいいじゃないか」
(本文引用)
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 2018年から「本屋大賞ノンフィクション部門」が新設された理由。

 それは、この本の存在ではないだろうか。

 これほどの本に、何も賞を与えないなんておかしい、もったいない、間違ってる。
 ええいいっそ、「本屋大賞」にノンフィクション部門を設け、この本を世に知らせよう!
 そんな声があったのではないだろうか。

 私の勝手な憶測だが、もし私が本屋大賞に携わる人間だったら、間違いなくそう言っていただろう。


 
 未だ人々の記憶に新しい、JR福知山線の脱線事故。
 死亡者は乗客・運転手あわせて107名、負傷者500名超という未曽有の鉄道事故だった。

 当時、JR西日本の体質がさんざん取り沙汰され、今でも鉄道事故や車両故障が起こると「日勤教育が」「JR西が」と義憤とも揶揄ともとれる声が上がる。

 それほどまでに社会に甚大な影響をもたらした福知山線の事故。

 なぜ大惨事は起きたのか。
 JR西と遺族は、どのように歩んできたのか。 
 
 そしてどうすれば、交通の安全は守られるのか。

 本書は、一人の遺族の闘いが、JR西日本を動かしたノンフィクション。

 徹頭徹尾公正な目で、再発防止に取り組むまでを緻密に描いた、非常に貴重な記録だ。

 公共交通を少しでも使う機会があるなら、絶対読むべき一冊である。
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 JR西を変えた人物とは、淺野弥三一という男性だ。

 淺野氏の妻と実妹は、福知山線事故で死亡。
 次女も、瀕死の重傷を負った。

 淺野氏は紛れもなく、遺族である。

 しかも淺野氏は街の安全を作る技術者。
 プロの目線で、公共交通の安全とJRの対応の在り方に、厳しい目を向ける。

 そんな淺野氏の真摯な姿勢は、やがてJR西の幹部を動かしていく。

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 遺族が最も求める答、姿勢に思いをはせる。
 事故の原因を隠さず、緻密に分析する。
 
 そして、ヒューマンエラーで懲罰を与えない。

 懲罰主義・精神主義・独裁体制だったエリート企業を確実に変えていったのである。
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 本書を読むと、とにかく「人間というものは恐ろしい」「人間ほど信頼できないものはない」と思い知らされる。

 それは「JR西日本に誠意がない」といった意味ではない。

 「人間は、非常に簡単に重大なエラーを起こす」

 そのことが心をつんざくほど、よくわかるからだ。

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 よって安全策を考えるには、「人間はエラーを起こすもの」という前提からスタートしなければならない。

 エラーが起こらないような構造作りを徹底し、万が一エラーをしても懲罰をしない。
 なぜエラーが起きた個人を罰するのではなく、エラーが起きるようつくられてしまった構造を疑い改良していく。

 「まずヒューマンエラーありき」から出発することが肝要なのである。

 「失敗は許さない」「優秀なら失敗しない」・・・そんな考えにとらわれたり、他人に押しつけたりすると、必ず大事故を起こす。

 本書では、数々の大惨事を例にとり、そのメカニズムを解説。
 「人間はミスをしない」という前提に立ってしまうと、とんでもない思い込みや勘違いを起こしたまま、周囲の警告を聞き入れることなく突進。
 取り返しのつかない事態を引き起こしてしまうのだ。

 人間は信用できない。
 でも「信用できない」と知っている人間は、信用できる。
 「人間は信用できない」と知っている人間が作ったものは、信用できる。

 「軌道」は、そんなことを改めて教えてくれる傑作。
 
 今後の人生の軌道を変えてくれそうな一冊だ。

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アコチム

Author:アコチム
反抗期真っ最中の子をもつ、40代主婦の読書録。
「読んで良かった!」と思える本のみ紹介。
つまらなかった本は載せていないので、安心してお読みください。

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