「43回の殺意 ~川崎中1男子生徒殺害事件の深層~」。親は子供を愛していたのになぜ起きた?

評価:★★★★★

 「家庭に居場所を求められず、学校でいじめられ、高校も中退、不良にもなれなかった」
「みんなそこでつながったんだろうね」

(本文引用)
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 本書のサブタイトルで、ひとつ気づかないだろうか。
 「川崎中1男子生徒殺害事件の深層」という文字だ。

 「真相」ではなく「深層」。
 ここに本書が存在する意味がある。
 誰も書かなかった、あまりにも深い真実が、本書にはあるのだ。

 「本屋大賞ノンフィクション部門」の最終候補にエントリーされているので手に取ったが(もともと石井光太さんの本は好きだし)、予想以上に凄みのある本だった。
 
 このような凄惨な事件は、事件のむごたらしさだけが前面に押し出されがちだが、本書はそんな浅はかなものではない。



 なぜ少年たちが、まだ体の小さい13歳の少年を、43回もナイフで切りつけ川で泳がせるような行動に走ってしまったのか。
 なぜ加害者・被害者の親たちは、子どもを愛していたのに、そのような結果を招いてしまったのか。

 若者たちの行動・心理に奥深くまで切り込んだ筆致は、まさに「深層」。
 読めば誰でも、「この事件は他人事ではない」と思えるだろう。
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 事件が起きたのは2015年の2月。
 川崎市の河川敷で、若い男性の遺体が発見され世間は騒然に。

 事件の全容が明らかになるにつれ、騒ぎはますます大きくなった。
 殺されたのは13歳の少年で、しかも3人の加害者はいずれも10代の少年だったからだ。
 
 事件後、遺体が発見された場所には弔う人が殺到。
 花やお菓子、手紙やノートなどが多数置かれ、そのうち、現場を清掃するボランティアも多く現れ、社会現象となる。

 雑誌やメディアは被害者・加害者の家族を貶める内容を書き立て、子育て論にまで発展。
 
 しかし事件の経緯を調べれば調べるほど、事件の根っこはそんな単純なものでないことがわかってくる。

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 なぜこんな凄惨な事件が起きてしまったのか。
 そしてなぜ、遺体発見現場に多くの人が集まったのか。

 本書は、事件前・事件当日・事件後、そして裁判まで細かく追っていく。
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 この本を読んで衝撃を受けたのは、次の3点だ。

 ・加害者・被害者側とも、親が子どもを愛していたこと。
 ・不良少年には、ある「考え方の傾向」があること。
 ・日本の裁判の理不尽さ。

 まず「加害者・被害者側とも、親が子どもを愛していたこと」は、本書を読めばよくわかる。
 
 被害者側の父親の言葉と、母親の奮闘。
 加害者側の家族が、さらに悪い仲間から家族総出で息子を守り、110番通報までしていたこと。

 もしかすると、愛し方の方向が一部、ずれていたこともあったのかもしれない。
 子どもが親の愛を感じていたからこそ、事態が深刻化した面もあっただろう。

 しかし事件当時、報じられていたようなネグレクトや虐待などは、本書からは見受けられない。
 なかには問題のある家族もいたようだが、おおむね皆、必死に子育てをし、子どもたちも親兄弟を思って生きていた。

 それなのになぜ、このような取り返しのつかない事件が起こったのか。

 読めば読むほど、それは「社会全体が病巣となっている」ことがわかってくる。

 彼らが加害者・被害者になったのは、家族だけの問題ではない。
  差別、偏見などを許す社会全体の問題なのではないか。
 そう思えて仕方がないのだ。

 そして2つめの衝撃、「不良少年たちの考え方の傾向」について。
 
 事件後、各種メディアは加害者・被害者と知り合いの少年たちに、インタビューをしようとする。
 しかし取材は困難を極める。
 その理由は、不良少年共通の「ある考え方」にあった。
 
 これには最も驚いた。
 いわゆる「不良少年たち」は、どのような過程で「特有の思考回路」を持つに至ったのか。
 不良少年と、そうでない少年との違いは、どうして生まれるのか。
 
 いつかぜひ、その点に言及した本を読んでみたい。
 
 そして最後の衝撃、「日本の裁判の理不尽さ」について。

 当事件の裁判は、他の裁判と明らかに違う点があった。
 それは被害者の両親同士が、顔を突き合わせないようにしていたことだ。
 
 妻からの希望ということだが、弁護士側がそれを聞き入れたために、なかなか納得のできる裁判を進められずにいたのだ。

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 さらに驚いたことに、被害者側が何も知らされないまま、どんどん裁判が進行。
 しかも加害者の人権ばかり重視されるよう、誘導されていくのである。

 これは被害者の父親の見方なので、若干偏っているかもしれない。

 しかし裁判というものは、「本当の真実」ではなく「裁判の真実」を作っていくのではないか。
 そんな疑念を持たずにいられない。

 だから本書のサブタイトルは、「真相」ではなく「深層」という言葉がふさわしい。

 酷い少年事件が起こる、社会の闇。
 家にも学校にも行かず、かりそめの友と、夜にたまるしかできない少年たちの"考え方"
 そして、歪んだ裁判。
 
 今まで誰も知らされなかった深層、誰も思いもつかなかった深層が、本書にはありありと書かれている。
 思わず、心の中で「読んで良かった」とつぶやいてしまった。

 これからも必ず、少年事件は起こるだろう。
 誰もが目を覆いたくなるような事件が、残念ながら起こるだろう。

 そのたびに私たちは、他人事と考えてはいけない-本書はそう心から思わせてくれる、出色のルポだ。

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アコチム

Author:アコチム
反抗期真っ最中の子をもつ、40代主婦の読書録。
「読んで良かった!」と思える本のみ紹介。
つまらなかった本は載せていないので、安心してお読みください。

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