「天国までの百マイル」(浅田次郎)感想。大晦日に1年分泣きました。

評価:★★★★★

 俺は破産者で、一文なしで、女房子供にも愛想をつかされたろくでなしなんだ。頭の中がごちゃごちゃで、何をしているのかもよくわからない。ただ、おかあちゃんを殺しちゃならないと、そればかりを考えている。
 俺、変かな。

(本文引用)
______________________________

 年末年始になると、どうしても親のことを考えてしまう。
 その理由は実家に帰省するから。

 毎年毎年、「一緒にお正月を過ごせるのは、あと何回なのだろう」・・・そんなことを考えてしまう。

 私の母は、末っ子の私が結婚した時、「ああ、これで安心して死ねる」と思ったらしい。
 その後15年近く経ち、幸いは母元気だが、年も年なのでいつ何があってもおかしくない。

 「一つでも多く、嬉しいことを報告したい。楽しいことを伝えたい」
 そんな思いで、私の子どもや私自身、夫についてのあれこれをメールや電話でちまちま報告している(本当はLINEにしたのだが、なぜかLINEには抵抗があるらしい・・・)。



 そこでこの年末、読んだのが「天国までの百マイル」。
 「親孝行を考えるのにいいかなあ」と、軽い気持ちで読んだのだが・・・これがもう、軽い気持ちで読めるようなもんじゃなかった。

 とにかく泣ける、どうしようもなく泣けて泣けて仕方がない。
 顔中の水道管が破裂したかと思うぐらい、涙で顔がグシャグシャになってしまった。

 浅田次郎さんは「平成の泣かせ男」と言われているそうだが、ホント、そのとおり。
 しかし本書は、ただのお涙頂戴小説ではない。

 本書では、人間のとてつもなく悪い面も容赦なく描いている。
 人間不信になりそうなのど、嫌な部分も膿を出すように描き切っている。

 なのにこれほどまでに泣ける「天国までの百マイル」。
 猛烈に泣ける秘密は、どこにあるのだろうか。 
___________________________

■「天国までの百マイル」あらすじ



 主人公の城所安男は、現在一文無し。
 かつては不動産業で贅沢な暮らしをしていたが、バブル崩壊で会社は倒産。

 今は安月給を、別れた妻子に全て渡し、食うや食わずの生活を送っている。

 そんななか、母親の狭心症が悪化。

 主治医からも見放され、安男の兄姉たちもろくに見舞いにも来ない状況だ。

 しかし安男だけはどうしても、母親を見捨てることができない。

 そこで安男は一念発起。
 「神の手」を持つ外科医のもとに、母をこっそり運び出す。

 距離はざっと百マイル。
 職場の車にマットを敷き詰め、命をかけた旅に出る。

603ba8170f1ab7fa44a046d2444c464b_s.jpg

 ____________________________

■「天国までの百マイル」感想



 本書がどうにも泣けるのは、ただ「母の命を助ける」という物語ではないからだ。

 この物語の素晴らしさは「誰もが皆、胸いっぱいの愛を秘めている」という点だ。

 羽振りの良かった頃は、母親の容体に見向きもしなかった安男。
 養育費をむしり取るような生活をする前妻。
 悪魔のような高利貸し、ふがいない安男に手を焼く社長、そして浮草のように暮らす安男の恋人・マリ。

 誰も彼も、本当に悪い人などいない。
 「人生の良い時」に気づかなかった愛に、「最悪の時」に気づき、胸いっぱいの愛を開花させる。

 その経緯がどうしようもなく泣けるのだ。

 さらにその人間の不器用さを知るように、「愛」を受け止める母の姿勢が胸を打つ。

 (貧乏なおまえに助けて欲しくはない。金持ちのおまえに見捨てて欲しい。おかあさんはたぶん、そう思っている)

 愛とは何とややこしいものなのか。
 本当に相手を喜ばせる、幸せにするとは、何と難しいことなのか。

 実は私も親を喜ばせているようで、「本当の喜び」にはまだ一マイルも進んでないのかもしれない。

 来年は、夫や子ども、親兄弟、友人やお世話になっている方たちが「本当に嬉しいと思うこと」を、不器用ながら探していきたい。
 
 一年後には、せめて一マイルぐらいは進んでいますように・・・。

詳細情報・ご購入はこちら↓
プロフィール

アコチム

Author:アコチム
反抗期真っ最中の子をもつ、40代主婦の読書録。
「読んで良かった!」と思える本のみ紹介。
つまらなかった本は載せていないので、安心してお読みください。

最新記事
シンプルアーカイブ
最新コメント
最新トラックバック
RSSリンクの表示
QRコード
QR

書評・レビュー ブログランキングへ
にほんブログ村 本ブログへ
にほんブログ村
カテゴリ
広告
記事更新情報
リンク
広告