ブラック企業のリアリティに涙が止まらず一気読み。「風は西から」村山由佳
評価:★★★★★
「あの会社は、いくらなんでも尽くし甲斐がなさ過ぎますよ。一生懸命になればなるほど、その気持ちをとことん利用されて、全部まとめて仇で返される感じがする」
(本文引用)
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村山由佳さんの最新刊「風は西から」は、真面目で優しく誠実であればあるほど、社会のいじめっ子の標的になることがよくわかる一冊。
ブラック企業の、あまりにリアルな描写は、読んでいてかなり辛いです。
でも目をひんむいてでも読まなければならない・・・そう感じさせる、迫力ある小説です。
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主人公の千秋は、大手食品メーカーに勤める女性。
結婚を考えている恋人・健介がいます。
健介の夢は、実家の事業を大きくすること。
広島の実家は料理屋を営んでおり、毎日繁盛していますが、健介は跡を継ぎ、2号店、3号店と展開させたいと考えています。
そんな健介が就職したのは、最大手の居酒屋チェーン「山背」。
本部で営業などを経験した後、いよいよ現場での仕事となり、夢を膨らませる健介。
しかしそこにあったのは、体も心も完膚なきまでに叩きのめされる現実でした。
睡眠時間もほとんどとれず、日に日に憔悴する健介。
千秋は心配し、健介に「あなたの会社はおかしい」と訴えますが、社長に心酔している健介は聞く耳を持たない様子。
そしてある日、千秋のスマホに健介からこんなメッセージが届くように。
それから数日後に送られたメッセージは、
千秋があわてて健介の部屋を訪れたところ、外では騒ぎが。
健介は自宅マンションから飛び降り、帰らぬ人に・・・。
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タイトル「風は西から」のもとは、音楽ファンならだれもが思い浮かべる「あの曲」。
健介が広島出身ということで、千秋と健介の二人を励ます曲として登場します。
しかし、作中で用いられる「風は西から」のメッセージは、ただ千秋と健介を前進させるだけのものではありません。
骨の髄まで疲れ切り、自分という人間の尊厳を打ち砕かれたとき、人はいったいどんな言葉を求めるのか。
明日はもっといいことがある、だから走れなのか。
それともゆっくり行こうぜなのか。
本書は、労災認定までの戦いも描いていますが、それ以上に「ブラック企業で疲れ果てた人に、本当に必要なものは何か」をとことん考えさせる内容となっています。
よって、ビジネス小説や法廷小説のような「企業との闘い」を期待して読むと、ちょっと物足りないかも。
企業との闘いといったビジネス路線ではなく、もっと人間ドラマ路線というのでしょうか。
「あなたの大切な人が、異常な働き方をしていたら、あなたはどうしますか?」と、世の人に、それはそれはじっくりと考えさせる小説となっています。
最近、家族や恋人が仕事で疲れているみたい・・・と感じている人は必読です。
また、これから社会に羽ばたいていくフレッシュマンにも、ぜひ読んでほしい一冊。
こう言ってはなんですが・・・カリスマ的な社長の理念に心酔して入社しようとしている人は、一応読んでおいたほうがいいでしょう。
今はまだ「健介の働き方、健介の会社の異常さ」が客観的に認識できると思います。
でもこれが、中に入ってしまうとなかなか気づかないものなんです。
後を絶たない過労自殺。
第三者は「死ぬぐらいなら辞めればよかったのに」といくらでも言うことができます。
でも「中の人」になった瞬間、そういった判断力はほぼゼロにまで低下します。
ブラック企業の「ブラックたるゆえん」は、従業員の思考力・判断力を鈍らせるよう巧みに運営されている点にあるのです。
働いていくなかで「これってちょっとおかしくないか?」と思える感覚を保つためにも、部屋の本棚に置いておきましょう。
仕事に人生をつぶされることを予防できる可能性大です。
「自分の働き方、おかしくない?」
「家族や恋人の仕事の仕方、それって普通?」
ほんの一滴でもそんな疑問が出てきたら、「風は西から」をご一読を。
そうすれば、大切な人にこんなことを言わせずにすみますよ。
「あの会社は、いくらなんでも尽くし甲斐がなさ過ぎますよ。一生懸命になればなるほど、その気持ちをとことん利用されて、全部まとめて仇で返される感じがする」
(本文引用)
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書店で見た瞬間、「これは一気読みする気がする」と直感。
400ページ超の長編なのに、昼過ぎに買い、夕方には読み終えてしまいました。
ブラック企業による過労自死。
国がいくら「働き方改革」と提唱しても、撲滅されることも根絶されることもないのでしょう。
それは「いじめ」がなくならないのと同じなのかもしれません。
「仕事」という大義名分で、一個の人間の肉体も精神もこてんぱんに痛めつけ、「いじめの認識はなかった」と言い逃れようとするのですから。
400ページ超の長編なのに、昼過ぎに買い、夕方には読み終えてしまいました。
ブラック企業による過労自死。
国がいくら「働き方改革」と提唱しても、撲滅されることも根絶されることもないのでしょう。
それは「いじめ」がなくならないのと同じなのかもしれません。
「仕事」という大義名分で、一個の人間の肉体も精神もこてんぱんに痛めつけ、「いじめの認識はなかった」と言い逃れようとするのですから。
村山由佳さんの最新刊「風は西から」は、真面目で優しく誠実であればあるほど、社会のいじめっ子の標的になることがよくわかる一冊。
ブラック企業の、あまりにリアルな描写は、読んでいてかなり辛いです。
でも目をひんむいてでも読まなければならない・・・そう感じさせる、迫力ある小説です。
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■「風は西から」あらすじ
主人公の千秋は、大手食品メーカーに勤める女性。
結婚を考えている恋人・健介がいます。
健介の夢は、実家の事業を大きくすること。
広島の実家は料理屋を営んでおり、毎日繁盛していますが、健介は跡を継ぎ、2号店、3号店と展開させたいと考えています。
そんな健介が就職したのは、最大手の居酒屋チェーン「山背」。
本部で営業などを経験した後、いよいよ現場での仕事となり、夢を膨らませる健介。
しかしそこにあったのは、体も心も完膚なきまでに叩きのめされる現実でした。
睡眠時間もほとんどとれず、日に日に憔悴する健介。
千秋は心配し、健介に「あなたの会社はおかしい」と訴えますが、社長に心酔している健介は聞く耳を持たない様子。
そしてある日、千秋のスマホに健介からこんなメッセージが届くように。
疲れた。
疲れた。
それから数日後に送られたメッセージは、
ごめん。
千秋があわてて健介の部屋を訪れたところ、外では騒ぎが。
健介は自宅マンションから飛び降り、帰らぬ人に・・・。
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■「風は西から」感想
タイトル「風は西から」のもとは、音楽ファンならだれもが思い浮かべる「あの曲」。
健介が広島出身ということで、千秋と健介の二人を励ます曲として登場します。
しかし、作中で用いられる「風は西から」のメッセージは、ただ千秋と健介を前進させるだけのものではありません。
骨の髄まで疲れ切り、自分という人間の尊厳を打ち砕かれたとき、人はいったいどんな言葉を求めるのか。
明日はもっといいことがある、だから走れなのか。
それともゆっくり行こうぜなのか。
本書は、労災認定までの戦いも描いていますが、それ以上に「ブラック企業で疲れ果てた人に、本当に必要なものは何か」をとことん考えさせる内容となっています。
よって、ビジネス小説や法廷小説のような「企業との闘い」を期待して読むと、ちょっと物足りないかも。
企業との闘いといったビジネス路線ではなく、もっと人間ドラマ路線というのでしょうか。
「あなたの大切な人が、異常な働き方をしていたら、あなたはどうしますか?」と、世の人に、それはそれはじっくりと考えさせる小説となっています。
最近、家族や恋人が仕事で疲れているみたい・・・と感じている人は必読です。
また、これから社会に羽ばたいていくフレッシュマンにも、ぜひ読んでほしい一冊。
こう言ってはなんですが・・・カリスマ的な社長の理念に心酔して入社しようとしている人は、一応読んでおいたほうがいいでしょう。
今はまだ「健介の働き方、健介の会社の異常さ」が客観的に認識できると思います。
でもこれが、中に入ってしまうとなかなか気づかないものなんです。
後を絶たない過労自殺。
第三者は「死ぬぐらいなら辞めればよかったのに」といくらでも言うことができます。
でも「中の人」になった瞬間、そういった判断力はほぼゼロにまで低下します。
ブラック企業の「ブラックたるゆえん」は、従業員の思考力・判断力を鈍らせるよう巧みに運営されている点にあるのです。
働いていくなかで「これってちょっとおかしくないか?」と思える感覚を保つためにも、部屋の本棚に置いておきましょう。
仕事に人生をつぶされることを予防できる可能性大です。
「自分の働き方、おかしくない?」
「家族や恋人の仕事の仕方、それって普通?」
ほんの一滴でもそんな疑問が出てきたら、「風は西から」をご一読を。
そうすれば、大切な人にこんなことを言わせずにすみますよ。
失うものなんか何もない。いちばん大事なものは、すでに失ってしまったのだから。