AIに勝てるのは「あの能力」がある人だけ!?新井紀子著「AI VS. 教科書が読めない子どもたち」
評価:★★★★★
今や、格差というのは、名の通る大学を卒業したかどうか、大卒か高卒かというようなことで生じるのではありません。教科書が読めるかどうか、そこで格差が生まれています。
(本文引用)
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AIにとって代わられないようにするためには、AIができないことを人間ができないとダメ。
AIの得意分野は人間では所詮かなわないのですから、AIが苦手なことを、人間が得意になっていないといけないんです。
せっかく人間のために座席がたくさん空けてあるのに、そこに座れないのでは意味なし。
このまま「ある能力」の低下が進めば、「求人はたくさんあるのに、その仕事ができる能力がないため職に就けない」という過酷な現実が待ち受けています。
さて、その「ある能力」とは一体何でしょうか。
「東ロボくん」でおなじみ、数学者・新井紀子さんが痛快な筆致でスパッと解説。
(※「ロボットは東大に入れるか」のレビューはこちら。)
若者たちの深刻な状況を具体的に解説しながら、「AIに打ち勝つ処方箋」を示してくれています。
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本書ではまず、人工知能の限界を詳しく解説。
「東ロボくん」に焦点を当て、大学入試に絞って検証していくことで、AIの致命的な欠点をあぶり出していきます。
それは読解力と常識力。
まとめて自然言語処理能力といったところです。
たとえば英語の穴埋め問題。
ある人が「この暑いのに、歩いて行ったの?」と聞き、相手は「うん。だからすごく喉が渇いたよ」と返答します。
さて、そこからが問題。
次に続く適切なセリフを、単語を並べ替えてつくらなければなりません。
列挙された単語からは、2通りの文章を作ることができます。
ひとつは「寒くて、何か飲み物を頼んだ」。もうひとつは「何か冷たい飲み物を頼んだよ」です。
人間が考えると「暑いなか歩いた→喉が渇いた→冷たい飲み物を頼んだ」とあっさり答えられますよね。
でも人工知能は、それができない。
「暑いから冷たい飲み物がほしい」という常識がインプットされていないため、「寒くて飲み物を頼んだ」と答えてしまうのです。
人間とAIの大きな違いは、まずこの「常識の壁」にあります。
まあ、これぐらいならまだまだ「AIに乗っ取られることはない」と安心できるでしょう。
問題なのはもうひとつの能力、「読解力」です。
最近、たまに新聞でこんな記事を見かけませんか?
「若者の読解力低下」と題し、ある一文を紹介。
その短い一文を、今の若者は理解できないと嘆く記事です。
たとえば本書では、こんな文章が紹介されています。
たいてい、読んだ瞬間に「いやいや、警備を命じたのは幕府で、命じられたのは大名でしょ? 立場が逆転してるよ。だから正解は×!意味が異なる!」と答えられると思います。
でもこれが、AIには結構難しいとのこと。
本書によると、文章に登場する単語がほとんど同じだと、AIは違いを判断するのが困難になるようです。
ところがこれが現在、人間にとっても難しくなっているんです。
何と中学3年生の約半数が誤答。
高校生も3割近くが不正解となっています。
この結果について、著者・新井紀子氏は「慄然とせざるを得ない」と語っています。
確かに、この文章の意味を正しくとらえられないということは、読解力が低いと言わざるを得ませんね。
たとえ一瞬戸惑ったとしても、少し考えれば命令関係が逆になっていることがわかるはず。
「AさんはBさんに●●を命じた」が、「AさんはBさんに●●を命じられた=BさんはAさんに●●を命じた」という文章に変わっているのですから、意味が異なるのは明白です。
AIにとっては難しくても、人間にとっては簡単なはずの問題。
それを中高生の多くが間違えてしまうというのは、危機的状況といえるんです。
さらに興味深いのが、「イメージ固定」の問題。
問いは、この文章を正しく表した円グラフを選ばせるというものです。
素直に考えれば、ドミニカ共和国出身の選手の割合は、28%×35%=9.8%とわかります。(0.28×0.35=0.098)
つまり、アメリカ合衆国が72%で、ドミニカ共和国が9.8%と書かれた円グラフを選べばよいのです。
でもこの問題の正答率は、何と中学生12%、高校生は28%。
しかも誤答で多いのが、「メジャーリーグの選手の35.4%がドミニカ共和国出身で、アメリカ合衆国出身の選手が28.0%」というグラフを選んだものです。
この結果について著者は、「メジャーリーグの選手のうち」の「うち」や、「アメリカ合衆国以外の」の「以外の」を読めていないのではないかと分析。
さらに著者は、この結果について
このままではなるほど、AIの苦手分野と人間の苦手分野が重なるのは火を見るよりも明らか。
本書ではさらに、読解力不足が招くさらに大きな危機に言及。
一見、子どもの頭に良さそうなディープラーニングが、読解力不足のまま行なわれると却って弊害を生むことを指摘しています。
読解力のちょっとした不足は、今はまだ小さなダムの穴かもしれません。
でもAIが進化し、ディープラーニングがもてはやされるにつれ、その穴はどんどん拡大。
気がつけば人間は、とんでもないところに流され、途方に暮れるかもしれません。
本書終盤では、そんな不安を(少し)払拭する手段を紹介。
人間の未来をとことん脅かす内容になっていますが、後味の良い読後感となっています。
現在子育て真っ最中の方、将来が不安な中高生の皆さま、社会人として生き残れるかどうか不安な大学生やフレッシャーズの方々・・・。
「AI VS. 教科書が読めない子どもたち」は、少しでも自分の将来を明るくしたい方に、全力でお薦めしたい一冊です。
今や、格差というのは、名の通る大学を卒業したかどうか、大卒か高卒かというようなことで生じるのではありません。教科書が読めるかどうか、そこで格差が生まれています。
(本文引用)
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いきなりですが、前言撤回。
先日紹介した「人間の未来 AIの未来」で、「な~んだ、人間とAIってうまく共存できるんじゃない!」と書きました。
でも、どうやらそうでもない様子。
「AI VS. 教科書が読めない子どもたち」を読む限り、到底そんな楽観視はできないことがわかりました。
AIと上手に共存し、きちんと稼ぎながら社会生活を全うできるのは、山中伸弥先生や羽生善治永世七冠のような人-もう少し広く言えば、「ある能力」において一定以上の力を持っている人だけなんです。
現在、中高生の間で著しく低下している「ある能力」は、AIにとっても苦手な分野。
つまりこのままでいくと、AIが不得手なことと、人間が不得手なことが見事に重なってしまうんです。
先日紹介した「人間の未来 AIの未来」で、「な~んだ、人間とAIってうまく共存できるんじゃない!」と書きました。
でも、どうやらそうでもない様子。
「AI VS. 教科書が読めない子どもたち」を読む限り、到底そんな楽観視はできないことがわかりました。
AIと上手に共存し、きちんと稼ぎながら社会生活を全うできるのは、山中伸弥先生や羽生善治永世七冠のような人-もう少し広く言えば、「ある能力」において一定以上の力を持っている人だけなんです。
現在、中高生の間で著しく低下している「ある能力」は、AIにとっても苦手な分野。
つまりこのままでいくと、AIが不得手なことと、人間が不得手なことが見事に重なってしまうんです。
AIにとって代わられないようにするためには、AIができないことを人間ができないとダメ。
AIの得意分野は人間では所詮かなわないのですから、AIが苦手なことを、人間が得意になっていないといけないんです。
せっかく人間のために座席がたくさん空けてあるのに、そこに座れないのでは意味なし。
このまま「ある能力」の低下が進めば、「求人はたくさんあるのに、その仕事ができる能力がないため職に就けない」という過酷な現実が待ち受けています。
さて、その「ある能力」とは一体何でしょうか。
「東ロボくん」でおなじみ、数学者・新井紀子さんが痛快な筆致でスパッと解説。
(※「ロボットは東大に入れるか」のレビューはこちら。)
若者たちの深刻な状況を具体的に解説しながら、「AIに打ち勝つ処方箋」を示してくれています。
________________________________
本書ではまず、人工知能の限界を詳しく解説。
「東ロボくん」に焦点を当て、大学入試に絞って検証していくことで、AIの致命的な欠点をあぶり出していきます。
それは読解力と常識力。
まとめて自然言語処理能力といったところです。
たとえば英語の穴埋め問題。
ある人が「この暑いのに、歩いて行ったの?」と聞き、相手は「うん。だからすごく喉が渇いたよ」と返答します。
さて、そこからが問題。
次に続く適切なセリフを、単語を並べ替えてつくらなければなりません。
列挙された単語からは、2通りの文章を作ることができます。
ひとつは「寒くて、何か飲み物を頼んだ」。もうひとつは「何か冷たい飲み物を頼んだよ」です。
人間が考えると「暑いなか歩いた→喉が渇いた→冷たい飲み物を頼んだ」とあっさり答えられますよね。
でも人工知能は、それができない。
「暑いから冷たい飲み物がほしい」という常識がインプットされていないため、「寒くて飲み物を頼んだ」と答えてしまうのです。
人間とAIの大きな違いは、まずこの「常識の壁」にあります。
まあ、これぐらいならまだまだ「AIに乗っ取られることはない」と安心できるでしょう。
問題なのはもうひとつの能力、「読解力」です。
最近、たまに新聞でこんな記事を見かけませんか?
「若者の読解力低下」と題し、ある一文を紹介。
その短い一文を、今の若者は理解できないと嘆く記事です。
たとえば本書では、こんな文章が紹介されています。
さて、この文章と次の文章は、意味が同じでしょうか? それとも異なるでしょうか?「幕府は、1639年、ポルトガル人を追放し、大名には沿岸の警備を命じた」
「1639年、ポルトガル人は追放され、幕府は大名から沿岸の警備を命じられた」
たいてい、読んだ瞬間に「いやいや、警備を命じたのは幕府で、命じられたのは大名でしょ? 立場が逆転してるよ。だから正解は×!意味が異なる!」と答えられると思います。
でもこれが、AIには結構難しいとのこと。
本書によると、文章に登場する単語がほとんど同じだと、AIは違いを判断するのが困難になるようです。
ところがこれが現在、人間にとっても難しくなっているんです。
何と中学3年生の約半数が誤答。
高校生も3割近くが不正解となっています。
この結果について、著者・新井紀子氏は「慄然とせざるを得ない」と語っています。
確かに、この文章の意味を正しくとらえられないということは、読解力が低いと言わざるを得ませんね。
たとえ一瞬戸惑ったとしても、少し考えれば命令関係が逆になっていることがわかるはず。
「AさんはBさんに●●を命じた」が、「AさんはBさんに●●を命じられた=BさんはAさんに●●を命じた」という文章に変わっているのですから、意味が異なるのは明白です。
AIにとっては難しくても、人間にとっては簡単なはずの問題。
それを中高生の多くが間違えてしまうというのは、危機的状況といえるんです。
さらに興味深いのが、「イメージ固定」の問題。
「メジャーリーグの選手のうち28%はアメリカ合衆国以外の出身の選手であるが、その出身国を見ると、ドミニカ共和国が最も多くおよそ35%である」
問いは、この文章を正しく表した円グラフを選ばせるというものです。
素直に考えれば、ドミニカ共和国出身の選手の割合は、28%×35%=9.8%とわかります。(0.28×0.35=0.098)
つまり、アメリカ合衆国が72%で、ドミニカ共和国が9.8%と書かれた円グラフを選べばよいのです。
でもこの問題の正答率は、何と中学生12%、高校生は28%。
しかも誤答で多いのが、「メジャーリーグの選手の35.4%がドミニカ共和国出身で、アメリカ合衆国出身の選手が28.0%」というグラフを選んだものです。
この結果について著者は、「メジャーリーグの選手のうち」の「うち」や、「アメリカ合衆国以外の」の「以外の」を読めていないのではないかと分析。
さらに著者は、この結果について
と語ります。「『イタリア料理以外のレストラン』を理解できないSiriと似たような文の読み方をしているらしい」
このままではなるほど、AIの苦手分野と人間の苦手分野が重なるのは火を見るよりも明らか。
という未来像は、容易に想像できます。企業は人不足で頭を抱えているのに、社会には失業者が溢れている
本書ではさらに、読解力不足が招くさらに大きな危機に言及。
一見、子どもの頭に良さそうなディープラーニングが、読解力不足のまま行なわれると却って弊害を生むことを指摘しています。
読解力のちょっとした不足は、今はまだ小さなダムの穴かもしれません。
でもAIが進化し、ディープラーニングがもてはやされるにつれ、その穴はどんどん拡大。
気がつけば人間は、とんでもないところに流され、途方に暮れるかもしれません。
本書終盤では、そんな不安を(少し)払拭する手段を紹介。
人間の未来をとことん脅かす内容になっていますが、後味の良い読後感となっています。
現在子育て真っ最中の方、将来が不安な中高生の皆さま、社会人として生き残れるかどうか不安な大学生やフレッシャーズの方々・・・。
「AI VS. 教科書が読めない子どもたち」は、少しでも自分の将来を明るくしたい方に、全力でお薦めしたい一冊です。