ヴァラエティ 奥田英朗
評価:★★★★★
人間を書くときに、絶対に縦割りにしない。男だから、女だから、若いから、年寄だから、警察官だから、学校の先生だから、という縦割りには絶対にしないんです。
(本文引用)
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そして7つのショートストーリーを一気に読み、改めて奥田英朗という作家の“すごさ”を認識する。7つも物語があって、しかもどれも何十ページという短さなのに、面白くない話がひとつもないのだ。
「あとがき」を読む限り、編集者に言いくるめられて、わりと渋々書いている様子が目に浮かぶのだが、それでもまるで手品で白いハトを出すように、面白い話が書けてしまう。
対談のなかで、奥田氏は「昔から人を笑わせるのが好きだった」と語っているが、「人を楽しませる」ことにかけては天才的なのだろう。
なかでも連作短編といえる「おれは社長だ!」と「毎度おおきに」には唸った。ストーリーやセリフの面白さはもちろん、物語に時折さしはさまれる小技が何とも粋だ。
大手広告代理店から独立し、一国一城の主となった男の成長物語なのだが、その成長の表現がニクい。
男は最初、「俺は誰よりも偉い社長だぞ」とふんぞり返り、宮仕えの人間や金勘定に細かい人間を小馬鹿にする態度を見せ、妻に諫められる。
ところが、ある社長との出会いが、男を変える。
その社長は、とにかくお金にうるさくお金に汚いのだが、そこから男は「社長として大事なもの」を学んでいく。
そんな社長としての変貌と成長を表すのは、何と子どもの宿題。
「父親の仕事」をテーマとした宿題を持ち込まれた男は、子どものインタビューに答えていくのだが、その態度や答えが如実に変わっていくのが何とも面白い。
人間としての、仕事人としての変化をこのような形で描き切るとは、「さすが奥田英朗!」としか言いようがない。見事だ。
他、訳ありの女たちの集う食堂で、互いに正体を探り合うミステリアスな作品「住み込み可」、メチャクチャハチャメチャなドタバタ劇「ドライブ・イン・サマー」等、いずれもドキドキしながら一気読みできる作品ばかりだが、最終話として「夏のアルバム」が収められているのが、後味の良さを醸し出している。
病に伏す、40歳にも満たない伯母。その娘である従姉妹たち。そんな彼女たちを見つめる幼い少年の物語だが、ラストには思わず涙がこぼれた。
ああ、ドタバタもあるけれど、結局奥田英朗の小説に惹かれるのは、この優しさなんだろうな・・・。この短編集を読み、そんな奥田作品の深い魅力に、改めて触れることができた。
様々な形で「物語の魅力」というものにどっぷり浸からせてくれる、奥田英朗短編集「ヴァラエティ」。
奥田作品のファンでも、そうでなくても、時を忘れて小説に読みふけりたい方には全力でオススメしたい一冊である。
人間を書くときに、絶対に縦割りにしない。男だから、女だから、若いから、年寄だから、警察官だから、学校の先生だから、という縦割りには絶対にしないんです。
(本文引用)
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「奥田英朗の小説なら絶対に読む!」といった熱烈なファンには、超がつくほど贅沢な一冊。そして「奥田英朗って誰?」という方にも、ぜひお薦めしたい一冊。
よほどのことがない限り、面白いに決まっている奥田英朗の小説。本書には、そんな奥田作品の旨味がギュウウッと凝縮されている。
単行本初収録の短編と、奥田英朗氏が影響を受けた人物との対談も収められた、タイトル通りヴァラエティに富みに富みに富みまくったファン垂涎の本だ。
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本書に収められている短編小説は7篇。いずれも「ブフッ」と笑ってしまうような文章と、人の心の複雑さをえぐるようなくすぐるような内容で、思わず吸い込まれる。そう、奥田作品に思わず手が伸びるのは、この「吸い込まれる」感覚がたまらないからなのだ。
よほどのことがない限り、面白いに決まっている奥田英朗の小説。本書には、そんな奥田作品の旨味がギュウウッと凝縮されている。
単行本初収録の短編と、奥田英朗氏が影響を受けた人物との対談も収められた、タイトル通りヴァラエティに富みに富みに富みまくったファン垂涎の本だ。
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本書に収められている短編小説は7篇。いずれも「ブフッ」と笑ってしまうような文章と、人の心の複雑さをえぐるようなくすぐるような内容で、思わず吸い込まれる。そう、奥田作品に思わず手が伸びるのは、この「吸い込まれる」感覚がたまらないからなのだ。
そして7つのショートストーリーを一気に読み、改めて奥田英朗という作家の“すごさ”を認識する。7つも物語があって、しかもどれも何十ページという短さなのに、面白くない話がひとつもないのだ。
「あとがき」を読む限り、編集者に言いくるめられて、わりと渋々書いている様子が目に浮かぶのだが、それでもまるで手品で白いハトを出すように、面白い話が書けてしまう。
対談のなかで、奥田氏は「昔から人を笑わせるのが好きだった」と語っているが、「人を楽しませる」ことにかけては天才的なのだろう。
なかでも連作短編といえる「おれは社長だ!」と「毎度おおきに」には唸った。ストーリーやセリフの面白さはもちろん、物語に時折さしはさまれる小技が何とも粋だ。
大手広告代理店から独立し、一国一城の主となった男の成長物語なのだが、その成長の表現がニクい。
男は最初、「俺は誰よりも偉い社長だぞ」とふんぞり返り、宮仕えの人間や金勘定に細かい人間を小馬鹿にする態度を見せ、妻に諫められる。
ところが、ある社長との出会いが、男を変える。
その社長は、とにかくお金にうるさくお金に汚いのだが、そこから男は「社長として大事なもの」を学んでいく。
そんな社長としての変貌と成長を表すのは、何と子どもの宿題。
「父親の仕事」をテーマとした宿題を持ち込まれた男は、子どものインタビューに答えていくのだが、その態度や答えが如実に変わっていくのが何とも面白い。
人間としての、仕事人としての変化をこのような形で描き切るとは、「さすが奥田英朗!」としか言いようがない。見事だ。
他、訳ありの女たちの集う食堂で、互いに正体を探り合うミステリアスな作品「住み込み可」、メチャクチャハチャメチャなドタバタ劇「ドライブ・イン・サマー」等、いずれもドキドキしながら一気読みできる作品ばかりだが、最終話として「夏のアルバム」が収められているのが、後味の良さを醸し出している。
病に伏す、40歳にも満たない伯母。その娘である従姉妹たち。そんな彼女たちを見つめる幼い少年の物語だが、ラストには思わず涙がこぼれた。
ああ、ドタバタもあるけれど、結局奥田英朗の小説に惹かれるのは、この優しさなんだろうな・・・。この短編集を読み、そんな奥田作品の深い魅力に、改めて触れることができた。
様々な形で「物語の魅力」というものにどっぷり浸からせてくれる、奥田英朗短編集「ヴァラエティ」。
奥田作品のファンでも、そうでなくても、時を忘れて小説に読みふけりたい方には全力でオススメしたい一冊である。