ナラタージュ 島本理生 

評価:★★★★★

この人からはなにも欲しくない。ただ与えるだけ、それでおそろしいくらいに満足なのだ。
(本文引用)
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 もう何でもいいから、とにかく「恋」に悩んでいる人に読んでほしい一冊。

 片思い中の人、失恋をした人、両想いのはずなのに相手の気持ちが不安な人、自分の気持ちがわからない人、叶わぬ恋をする人・・・そんな人は皆、この本を読めば苦しみがグンと軽減され、傷も癒えることだろう。

 なぜなら、本書は「恋は素晴らしい」という幻想を盛大に打ち砕く物語だから。

 恋は楽しいはず、恋は幸せなはず。そう思うから苦しくなる。本書を読めば、「恋とはそもそも途轍もない苦行であり拷問である」と思え、現在の苦しみなど「なーんだ」と一笑に付したくなるだろう。



 そして改めて、その胸の苦しみが自分の生きている証と思え、人生が楽しくなってくる。その胸の痛みが自分の息吹と思え、自分という存在が愛おしくなってくる。

 この小説は恋の苦悩を残酷なまでに描きながら、そんな「生身で生きることの喜び」をじっくりと教えてくれる。
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 大学生の工藤泉には、忘れられない人がいた。
 それは、高校時代の演劇部の顧問・葉山だ。

 高校卒業間際に何となく思いが通じ合った二人だが、それから何事もないまま時は過ぎ、また演劇の練習のために再会することとなる。
 泉は、葉山との叶わぬ恋に悩み、何とか距離を置こうとするが、なかなか思いを断ち切ることができずにいる。

 そんな時、同じ演劇の練習で出会った小野玲二に好意を寄せられ・・・。
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 この物語を読んでいると、人間、恋が絡むと何と厄介な存在になるものかと驚嘆する。日頃は素直な善人が、恋をすると、信じられないような「悪」の人格が顔を出してしまう。

 思わせぶりなことを言って相手の一喜一憂を喜んだり、相手を激しく傷つけてしまうことをわかっていながら、自分の心に嘘をついたり、相手を支配しようとしたり・・・。

 本書のなかには、恋で頭がお花畑になっている人間は一人もいない。むしろ、恋のせいで頭が過酷な密林状態になってしまっている。そこには毒草や猛獣も潜んでいる。

 しかしだからこそ、私はこの物語が好きだ。大好きだ。
 恋を叶えて幸せになろうとすればするほど、幸せから遠のく行動ばかりしてしまう。そんな不器用な人間たちの姿を読むうちに、優等生ではない「丸裸の自分の人生」というものが愛おしくて可愛くてたまらなくなってしまったからだ。

 ちなみに本書は、恋に悩む独身者だけでなく、既婚者にもオススメ。
 どうしてこの人と結婚したんだろう? きっかけは? 決め手は? 過去の恋愛と何が違ったんだろう? やっぱり縁?
 そんなことを考えながら、思わずフフフと笑みがこぼれてしまうことだろう。

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プロフィール

アコチム

Author:アコチム
反抗期真っ最中の子をもつ、40代主婦の読書録。
「読んで良かった!」と思える本のみ紹介。
つまらなかった本は載せていないので、安心してお読みください。

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