ホテルローヤル 桜木紫乃

 「幸せなんてね、過去形で語ってナンボじゃないの」
(本文引用)
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 なっかなか手に入らなかった直木賞受賞作「ホテルローヤル」。
 図書カードを持っているため、なるべく書店で買いたいと思い職場や自宅近くの書店を回ったが、どこにもなし。
 観念して通販で注文しても、待てど暮らせど届かない。
 それだけに、封筒を破り、本作品を両手に持った時の感慨はひとしおであった。

 そして読み終えた今、改めてこの本を両手で持つ。
 読む前よりいっそう、いとしい気持ちで。
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 ホテルローヤルは、北海道の湿原に建つホテルの名称だ。
 ある特定の目的で建てられたホテルなのだが、今はすっかり廃墟となっている。


 挫折という言葉を繰り返し、今度こそ本当の男になるとうそぶく1人の男から始まり、全く同じような1人の男によって終わりを迎えるホテルローヤル。
 ホテルが吸い込んできた、人間たちの姿とは。
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 まずこの作品は、7編からなる群像劇となっている。
 しかも面白いことに、廃墟→社長の死亡→店じまい→従業員も雇えていた時代→ホテル開業期と逆回転しながら進んでいく。
 そのため、1つひとつの物語を読みながら「あらー、さっきの話ではこうなってたけど、こんな時代もあったのねえ」、「この頃は夫婦、仲良かったんだねえ」などと、まるで自分までホテルローヤルが建つ地元の人間のような気持ちで愛着をもって回想できる。

 さらに、私の感じた本書最大の魅力は、ずばり「この本に関わる人たちの一体感」だ。

 まず何と言っても、登場人物たちの一体感だ。
 舞台が舞台だけに、そろいもそろって人生の裏街道を走る人間たちばかりで、一般的な尺度からはあまり幸せといえない。やっと安定した仕事をする人が出てきたかと思ったら、人生の伴侶に、長年手ひどいかたちで裏切られている。
 なかでもホテルローヤル開業の経緯が語られた最終話「ギフト」は人間の愚かさや脆さ、さらに言えば不正確さが全開。傍から見れば判断ミスの連続であるにも関わらず、能天気にズンズンと誤った道に入って行ってしまう。
 そんな、やや理知的という言葉からは遠く離れた、身もフタもない様子の登場人物たちだが、そんな彼らだからこそ、ストーリーの境界を越えて互いに手を取り、人生を歩いている姿は健気でいじらしい。

 そして特筆すべきは、まさにこの本を作った人たちの一体感だ。
 本書を手に取れば、誰もが目を留める「ホテルローヤル」の書体。
 なぜ「ホテルローヤル」のタイトルを、いや「ホテルローヤル」というホテルの看板文字をこの書体にしたのかが、ストーリーの中で語られている。

 その部分の意図をくんだ書体で、「ホテルローヤル」と表紙に書かれているのを見て、本書の製作に携わった人たちの愛をヒシヒシと感じた。
 いわばチーム「ホテルローヤル」といったところであろうか。内容と外装とをピッタリ合わせてくるあたり、「ホテルローヤル」を世に送りこもうとした人々のまとまりの良さが強く感じられ、たいへん好感がもてた。
 本は、装丁や書体もすべて含めて一個の作品である、ということを改めて認識した。

 そして思う。
 この一体感を保たせるために、本書の製作に携わった人たちは、決して軽々しい気持ちで「成功」や「●●賞受賞」や「ベストセラー」という言葉を口にしなかったのではないか、と。

「幸せにするなんて無責任な言葉、どこで覚えたの」


 心地好い言葉を吐いて、バラバラになってしまった人たちを描いた小説だ。だからこそ、製作者達は結束して、あえて厳しい態度で本書と向き合ったのではないか。

そんな真摯な気持ちが伝わってくる好著であった。

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プロフィール

アコチム

Author:アコチム
反抗期真っ最中の子をもつ、40代主婦の読書録。
「読んで良かった!」と思える本のみ紹介。
つまらなかった本は載せていないので、安心してお読みください。

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