カラスの親指 道尾秀介

 「あのですね。理想的な詐欺はですね、相手が騙されたことに気づかない詐欺なんですよ」
(本文引用)
______________________________________

 以前、育児や仕事で猛烈にストレスがたまったことがあった。
 そんなとき、家族があるクイズを出してきた。

 「あなたはイタリアンレストランを経営しています。そのレストランは客席が30ほど。基本的に全席予約制をとっています。
 オススメは自家製のパンチェッタと、石釜手作りピッツァ、本場マンマの味のトマトソースが評判のパスタ。ランチにはドリンクとサラダ、ジェラートもついてきます。ディナーのデザートはワゴンサービスとなっています。
 最近グランシェフが家族の介護で帰郷するために退職し、新しいグランシェフとしてアントニオを迎えました。そのアントニオは29歳という若さですが、ミラノの一流レストランで修業を積み、腕は確かと言われています。彼の手打ちパスタは絶品です。
 レストランの評判は上々で、今やイタリアで一番予約の取れない店と言われています。さて、このレストランの経営者は何歳でしょう?」



 ・・・すぐに答がわかった方もおられるだろうが、私は初めてこの問題を聞いたとき、それまでのストレスも手伝って「そんなこと、わかるわけないでしょ!」と怒りすら感じてしまった。しかし、答を聞いてビックリ。

 「あ~~~!そういうことか~!!」

 あまりに華麗に騙されてしまい、不思議と心がスッキリ。コロッと騙されたことで、驚くほど心が軽くなってしまったのである(まあ、金銭を騙し取られるなどの実害が伴っていた場合は、さらにストレスは倍増したであろうが)。

 前置きが長くなってしまったが、今回ご紹介する本は、そんな「スッキリ!」を存分に与えてくれるミステリー「カラスの親指」
 俊英・道尾秀介が放つ「どこまでホントでどこからがウソかわからない」・・・まるでマジックを見ているような不思議で素敵な物語である。
_______________________________

 主人公の武沢、通称タケさんは、相棒のテツさんと一緒に詐欺をしながら暮らしている。
 たとえば銀行で、大金をおろした客にタケさんが言葉巧みに近づき、さらにそれを「詐欺ではないか」と追い払いながらテツさんが近づく。そうして2人一組「嘘×嘘=本当(に見える)」のダブル攻撃で、日銭を稼いでいく。

 しかし2人には、途轍もなく壮絶な過去があった。
 薬漬けにされた妻、娘の死、借金取り立てによる債務者の自殺、今なお追いかけてくる債務整理屋・・・。
 2人は過去と帳尻を合わせるように、日々詐欺を繰り返しながら生計をたてる。

 そんなある日、2人は可憐な少女と出会う。
 しかし実は、彼女も詐欺師。スリをはたらいたり、中年男性からお金を騙し取ったりして過ごしているが、今現在は住むところにも困っているという有様だ。
 そこで武沢が仏心を出したばかりに、何と一戸の家に、5人と1匹が住むことになる。

 お金に痛めつけられた彼らは、ある大仕事を計画する。
 それは、タケさんを追い詰める債務整理屋から、大金を頂戴しようというものなのだが・・・?
_________________________________

 簡単に言ってしまえば、これは詐欺師の本だ。
 しかし、これは詐欺師を描いた本ではない。
 この小説自体が詐欺師。ページを開いたその瞬間から、読者とのゲームがすでに始まっているのだ。

 債務整理屋から大金を騙し取る仕事だけが、この小説の正念場だと思ったら大間違い。

 タケさんとテツさんとの出会い、少女との遭遇、家族にあてた手紙、登場人物の名前・・・全部が全部、登場する詐欺師たちによる一世一代の大仕事。
 真相が一枚一枚剥がされていくプロセスは、もう雷に打たれたような衝撃だ。
 しかもそれは雷だけではなく、雨も伴う。そのマジックの裏には、涙なしでは語れない秘密が隠されているのである。

 謎解きだけでなく、登場人物たちそれぞれの思いも入念に描かれており、帯に書かれた言葉通り、まさに「泣いて笑って驚いて」といった小説であった。う~ん、これはよくできてるねぇ・・・道尾さん、やっぱりすごいわ。

 ちなみに冒頭で挙げた引用は、マジックを得意とする同居人・貫太郎の言葉だ。
 さらに貫太郎は、詐欺とマジックの違いについて、こう続ける。

「マジックでは、相手が騙されたことを自覚できなければ意味がないのですよ」


 さて、この小説は、詐欺なのか?マジックなのか?私は騙されたことに気づいているのか?いないのか?
 読み終えて実に気分爽快になったものの、実はまだ真相が隠されているのではないかとモヤモヤしている。どうなの?道尾さん!


詳細情報・ご購入はこちら↓
【送料無料】カラスの親指 [ 道尾秀介 ]

【送料無料】カラスの親指 [ 道尾秀介 ]
価格:780円(税込、送料込)



映画もあります。↓

プロフィール

アコチム

Author:アコチム
反抗期真っ最中の子をもつ、40代主婦の読書録。
「読んで良かった!」と思える本のみ紹介。
つまらなかった本は載せていないので、安心してお読みください。

最新記事
シンプルアーカイブ
最新コメント
最新トラックバック
RSSリンクの表示
QRコード
QR

書評・レビュー ブログランキングへ
にほんブログ村 本ブログへ
にほんブログ村
カテゴリ
広告
記事更新情報
リンク
広告