武士の家計簿 磯田道史
激動を生きたこの家族の物語を書き終え、人にも自分にも、このことだけは確信をもって静かにいえる。まっとうなことをすれば、よいのである・・・・・・。
(あとがき引用)
_______________________________
それを全身全霊で教えてくれる歴史書・・・いや未来の書なのである。
______________________________________
舞台は金沢(加賀)藩。主人公は、藩の御算用者を務めた猪山家、なかでも八代目・直之に焦点を当てている(2010年に公開された映画では、堺雅人さんが演じている)。
代々優秀な算術の能力・技術をもつ猪山家は、算術を非常に重要視していた加賀前田家に重用された。
しかし、藩での位が上がるほど、出るお金も多くなる。
直之の先代・信之が「加賀百万石の買物係」として江戸詰になった途端に、国との二重生活等から猪山家の財政は逼迫した。
地位が上がり俸禄は増やされても、「由緒」がものいう禄高の世界で、その点が心もとない猪山家は借金地獄に陥ってしまうのだ。
そこで一大決心をした猪山家。借金を整理すべく家計簿をつけ、所持品を売り払い、買いたい物は我慢をし・・・と徹底的な家計管理を始める。
そして時代は、流れ流れて明治維新へ。
猪山家はどうなっていくのか?そして他の士族たちは・・・?
______________________________________
まず、この本の良いところは、限りなく真面目な内容であるだけでなく、表現がユーモラスで大変わかりやすいという点だ。
なぜ武士の間で、算術に長けた人材が不足していたのか。そしてそのような能力に秀でていた者がいる場合、身分制度とどう折り合いをつけていくか。
そしてなぜこれほどまでに藩、武家たちが貧乏になってしまったのか。
なかでも、猪山家を現代にタイムスリップさせて「年収250万円の家庭が住み込みの召使を2人雇っている状況」と表現し、逆に私たちを江戸時代の金沢城下にタイムスリップさせた部分などは秀逸。
読みながら思わず「・・・それは大変だねぇ」などと、私まで青息吐息になってしまった。
さらに、マニアックな知識も実に豊富。
財布を引き締めるなかでも、武家の格を保つために最低限欠かせないものとはいったい何か。
江戸時代の“意外な”結婚と離婚の実態、今でも見ることができる “加賀藩、節約の痕跡”等々。
もちろん映画でも描かれた「絵に描いた鯛」も登場し、思わず人に話したくなる“歴史ネタ”が満載。
「江戸時代が、歴史がこんなに面白いなんて!」と、ページをめくりながら、ついつい興奮してしまう。
・・・実はこの本、面白すぎて私の実家から夫の母まで含めて回し読みをしたのであるが、そのように、みんなで楽しんで読んでほしい本。
もちろん1人でムフフと楽しむのも良いが、何人かで読み「江戸時代って、ああいう風に考えてたんだねー」などとワイワイ意見や感想を語り合うのがオススメ。
ついでに本郷あたりで「武士の家計簿ツアー」などを催行すれば、なお良しかもしれない(すでに行った方もおられるかもしれないが)。
そして最後、いかにして士族たちは時代に翻弄されたか。何が残り、何が亡んだか。
その結論は、それまでコミカルに語られていた雰囲気から一転、私たちに「未来は過去の延長上にある」という、厳しくも揺るぎのない現実を突き付ける。
しかし、その結末を読むことで、改めて「この本を読んだことの意味」を知り、「この本と出会えたことの幸運、幸せ」を心から感じることであろう。
間違いなく「良書」といえる一冊である。
(あとがき引用)
_______________________________
恥ずかしながら、学生時代、あまり歴史を勉強しなかった。
「なぜ歴史を学ばなければならないのか」がわかっていなかったのだろう。今となっては「何と愚かだったことか」と後悔しきりである。
その気持ちは、この本を読んでいっそう強くなった。
「武士の家計簿」。
タイトルだけ見ると、単に、ある武家の財政状態を分析したに過ぎない書物に思えるが、とんでもない。
「歴史を知ることは、未来を知ること」
「なぜ歴史を学ばなければならないのか」がわかっていなかったのだろう。今となっては「何と愚かだったことか」と後悔しきりである。
その気持ちは、この本を読んでいっそう強くなった。
「武士の家計簿」。
タイトルだけ見ると、単に、ある武家の財政状態を分析したに過ぎない書物に思えるが、とんでもない。
「歴史を知ることは、未来を知ること」
それを全身全霊で教えてくれる歴史書・・・いや未来の書なのである。
______________________________________
舞台は金沢(加賀)藩。主人公は、藩の御算用者を務めた猪山家、なかでも八代目・直之に焦点を当てている(2010年に公開された映画では、堺雅人さんが演じている)。
代々優秀な算術の能力・技術をもつ猪山家は、算術を非常に重要視していた加賀前田家に重用された。
しかし、藩での位が上がるほど、出るお金も多くなる。
直之の先代・信之が「加賀百万石の買物係」として江戸詰になった途端に、国との二重生活等から猪山家の財政は逼迫した。
地位が上がり俸禄は増やされても、「由緒」がものいう禄高の世界で、その点が心もとない猪山家は借金地獄に陥ってしまうのだ。
そこで一大決心をした猪山家。借金を整理すべく家計簿をつけ、所持品を売り払い、買いたい物は我慢をし・・・と徹底的な家計管理を始める。
そして時代は、流れ流れて明治維新へ。
猪山家はどうなっていくのか?そして他の士族たちは・・・?
______________________________________
まず、この本の良いところは、限りなく真面目な内容であるだけでなく、表現がユーモラスで大変わかりやすいという点だ。
なぜ武士の間で、算術に長けた人材が不足していたのか。そしてそのような能力に秀でていた者がいる場合、身分制度とどう折り合いをつけていくか。
そしてなぜこれほどまでに藩、武家たちが貧乏になってしまったのか。
なかでも、猪山家を現代にタイムスリップさせて「年収250万円の家庭が住み込みの召使を2人雇っている状況」と表現し、逆に私たちを江戸時代の金沢城下にタイムスリップさせた部分などは秀逸。
読みながら思わず「・・・それは大変だねぇ」などと、私まで青息吐息になってしまった。
さらに、マニアックな知識も実に豊富。
財布を引き締めるなかでも、武家の格を保つために最低限欠かせないものとはいったい何か。
江戸時代の“意外な”結婚と離婚の実態、今でも見ることができる “加賀藩、節約の痕跡”等々。
もちろん映画でも描かれた「絵に描いた鯛」も登場し、思わず人に話したくなる“歴史ネタ”が満載。
「江戸時代が、歴史がこんなに面白いなんて!」と、ページをめくりながら、ついつい興奮してしまう。
・・・実はこの本、面白すぎて私の実家から夫の母まで含めて回し読みをしたのであるが、そのように、みんなで楽しんで読んでほしい本。
もちろん1人でムフフと楽しむのも良いが、何人かで読み「江戸時代って、ああいう風に考えてたんだねー」などとワイワイ意見や感想を語り合うのがオススメ。
ついでに本郷あたりで「武士の家計簿ツアー」などを催行すれば、なお良しかもしれない(すでに行った方もおられるかもしれないが)。
そして最後、いかにして士族たちは時代に翻弄されたか。何が残り、何が亡んだか。
その結論は、それまでコミカルに語られていた雰囲気から一転、私たちに「未来は過去の延長上にある」という、厳しくも揺るぎのない現実を突き付ける。
しかし、その結末を読むことで、改めて「この本を読んだことの意味」を知り、「この本と出会えたことの幸運、幸せ」を心から感じることであろう。
間違いなく「良書」といえる一冊である。