路-ルウ- 吉田修一
歩き出したエリックの一歩後ろを春香も歩く。九年という月日を切り取って、九年前と今が繋がっているようだった。もしも時間がリボンのようなものなら、九年分を切り取って、昔と今を結び合わせたような感じだった。でも切り取られた九年分のリボンはどこにあるのか。
(本文引用)
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商社で台湾新幹線事業に情熱を注ぐ日本人社員、台湾で生まれ、戦後日本に引き揚げてきた老人、日本で建築家として働く台湾人青年・・・。
ある者は日本人として台湾で暮らし、ある者は台湾人として日本で生活する。
そんな彼らは皆、台湾で様々な出会いや別れを経験し、忘れがたい思い出を胸に秘めながら生きている。
1日だけ共に過ごしたあの人にもう一度会いたい、決して言ってはいけない言葉で傷つけてしまった親友に、生きているうちに謝りたい。
その2つの出会いと別れを主軸に、日本と台湾の遠距離恋愛、台湾の水が合わず心身ともに疲弊する社員とその家族、幼馴染の女の子と意外な形で幸せを手にする車輛工場員など、様々な人間模様が繰り広げられる。
一見、普通では考えられないような偶然や、「世の中そんなにうまくいかないのでは?」と思ってしまいそうな部分もあるが、これが不思議と丸ごと全部許してしまえるのだ。
それはきっと、穏やかな台湾の風土のせいだろう。
強い日差し、勢いよく走り抜けるスクーターの群れ、効きすぎる冷房、いつでも泳ぐ人を待っている海、ガジュマルの葉、いくら食べても食べつくせないおいしい食事・・・。
そして日本人に比べて圧倒的におおらかな台湾人の気質。
台湾新幹線の工事の遅れに対して、日本人社員は胃をキリキリさせるが、台湾人は違う。
「予定が遅れれば遅れるほど、きっと綿密に丁寧にやったんだなって思うし、逆に予定通りに開業なんかされちゃうと、どこを手抜きしたんだろうって疑うのが落ちだからね」
といった具合だ。
そんな意識のギャップに最初は頭を痛めていた日本人社員だが、そのうち「これもいいかも」と台湾のスピードに染められていき、気がつけば時計を見なくなっている。
かといってこの小説、台湾の良いところを誉めて、日本を批判しているというわけではない。
日本で建築家として活躍する台湾人青年は、建築を通して日本の素晴らしさにも目覚め、それを台湾人なりに活かしながら仕事にいそしむ。
この「お互い相手を心から尊敬し、認め合う」という姿勢が、本作品には貫かれている。だから読んでいて、とにかく気持ちが良いのだ。
これを読んだら、台湾にも行きたくなったし、日本の古都にも行きたくなった。
そして落ち葉でも踏みしめながら「人間って、いいものだな」と感慨にふけりたい思いでいっぱいである。
(本文引用)
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「こういう小説って、いいなあ」。
読みながら、私は顔を緩めながら、何度もこの本を抱きしめてしまった。
それはもちろん、この作品が心から「良い!」と思えるものだったからだ。
吉田修一といえば、前作品「太陽は動かない」が、読んでいるだけで寿命が縮みそうな血生臭いアクション小説だったため、今回もそんなハラハラドキドキを想像していた。
ところがこの「路」は、逆に読んでいるだけで寿命が延びそうな、とても、とても温かい物語だった。
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この小説に出てくる人物は、全て台湾に関わっている。
読みながら、私は顔を緩めながら、何度もこの本を抱きしめてしまった。
それはもちろん、この作品が心から「良い!」と思えるものだったからだ。
吉田修一といえば、前作品「太陽は動かない」が、読んでいるだけで寿命が縮みそうな血生臭いアクション小説だったため、今回もそんなハラハラドキドキを想像していた。
ところがこの「路」は、逆に読んでいるだけで寿命が延びそうな、とても、とても温かい物語だった。
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この小説に出てくる人物は、全て台湾に関わっている。
商社で台湾新幹線事業に情熱を注ぐ日本人社員、台湾で生まれ、戦後日本に引き揚げてきた老人、日本で建築家として働く台湾人青年・・・。
ある者は日本人として台湾で暮らし、ある者は台湾人として日本で生活する。
そんな彼らは皆、台湾で様々な出会いや別れを経験し、忘れがたい思い出を胸に秘めながら生きている。
1日だけ共に過ごしたあの人にもう一度会いたい、決して言ってはいけない言葉で傷つけてしまった親友に、生きているうちに謝りたい。
その2つの出会いと別れを主軸に、日本と台湾の遠距離恋愛、台湾の水が合わず心身ともに疲弊する社員とその家族、幼馴染の女の子と意外な形で幸せを手にする車輛工場員など、様々な人間模様が繰り広げられる。
一見、普通では考えられないような偶然や、「世の中そんなにうまくいかないのでは?」と思ってしまいそうな部分もあるが、これが不思議と丸ごと全部許してしまえるのだ。
それはきっと、穏やかな台湾の風土のせいだろう。
強い日差し、勢いよく走り抜けるスクーターの群れ、効きすぎる冷房、いつでも泳ぐ人を待っている海、ガジュマルの葉、いくら食べても食べつくせないおいしい食事・・・。
そして日本人に比べて圧倒的におおらかな台湾人の気質。
台湾新幹線の工事の遅れに対して、日本人社員は胃をキリキリさせるが、台湾人は違う。
「予定が遅れれば遅れるほど、きっと綿密に丁寧にやったんだなって思うし、逆に予定通りに開業なんかされちゃうと、どこを手抜きしたんだろうって疑うのが落ちだからね」
といった具合だ。
そんな意識のギャップに最初は頭を痛めていた日本人社員だが、そのうち「これもいいかも」と台湾のスピードに染められていき、気がつけば時計を見なくなっている。
かといってこの小説、台湾の良いところを誉めて、日本を批判しているというわけではない。
日本で建築家として活躍する台湾人青年は、建築を通して日本の素晴らしさにも目覚め、それを台湾人なりに活かしながら仕事にいそしむ。
この「お互い相手を心から尊敬し、認め合う」という姿勢が、本作品には貫かれている。だから読んでいて、とにかく気持ちが良いのだ。
これを読んだら、台湾にも行きたくなったし、日本の古都にも行きたくなった。
そして落ち葉でも踏みしめながら「人間って、いいものだな」と感慨にふけりたい思いでいっぱいである。