「ステップ」

「家庭的な雰囲気」というものは、僕にもよくわかる。それはつまり、両親がそろっていて、できればお母さんがウチにいて、子どもが二人以上いることを前提としている「家庭的」なのだ。一人っ子は「寂しくてかわいそう」と言われ、両親が働きに出ていて子供が自分で鍵を開けて帰宅するのもやはり「寂しくてかわいそう」と言われて、両親がそろっていない子どもや、子どものいない夫婦は、たとえ口に出しては尋ねなくても「なんで?」というまなざしをこっそり向けられてしまう-そんな「家庭的な雰囲気」は、僕も苦手だし、嫌いだ。(本文引用)
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 「正論は人を支配し、傷つける」

 山田ズーニー氏の著書「あなたの話はなぜ『通じない』のか」の中に、こんな一文がある。そして、「望んでもいない相手に、正論をふりかざすのは、道行く人の首根っこをつかまえるような暴威だ」とも。 ここに、その正論に傷つき、戦いながら、力強くゆっくり歩く人たちがいる。

 30歳で妻を亡くした男、1歳半で母親を亡くした少女、そして、30歳で夫と幼い娘を遺して世を去らねばならなかった女。

 小説「ステップ」
 これは、「父子家庭」というマイノリティの立場であるがゆえに、世間の大勢に打ちのめされそうになる者たちの、前進を描いた物語である。


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 会社員の武田健一は、2歳の娘・美紀と二人暮らしをしている。妻・朋子は結婚三年目、まだ一歳半だった美紀を遺してこの世を去った。風邪をこじらせて、あっという間だった。

 それから健一は、双方の両親やベビー・シッター、そして保育園に助けてもらいながら、何とか美紀を育て上げようとする。
 しかし、道は想像以上に険しかった。

 「男親だけだと、愛情が足りないのではないか」
 「やっぱりママが欲しいのではないか」
 「ママに抱っこしてもらっている友達が、羨ましいのではないか」


 健一は、美紀を懸命に育てながらも日々悩み、しばしば再婚の文字もちらつく。
 とはいえその一方で、娘の忘れ形見として孫を可愛がる義父母のことを思うと、なかなか再婚に踏み切れない。

 精一杯の愛情で美紀を育てる健一、そしてそれに応えるように優しく朗らかに育っていく美紀。
 しかし世の中は、この二人に容赦なく逆風を吹き付けてくるのである・・・。
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 この本を読み、改めて「正論は人を支配し、傷つける」ものだと感じた。

「たまにはのんびり抱っこしてあげてください」
「美紀ちゃん、ママにもっと抱っこしてもらいたかっただろうなって思うし、ママだって、もっともっと美紀ちゃんのことを抱っこしてあげたかっただろうなって・・・」
「もう小学生だぞ、美紀ちゃんは。いつまでも親がべたべたしてるのもアレじゃないか?」
「美紀ちゃんには、やっぱりママが必要なんじゃないか?女の子なんだから」


 ・・・どれもこれも正論かもしれない。しかし、これらの言葉のどれが健一親子を和ませ、心を軽くするだろうか?ひとつとしてないのではないか?どの言葉も、健一たちを傷つけ、苦しめることはあっても、健一と美紀の涙を拭ってくれることはないだろう。

 この物語には、他にも多くの「マイノリティ」に属する人たちが登場し、誰もが正論に苦しんでいる。

 幼い頃に両親が離婚・再婚し、小学生のときに「お父さんたち、お元気ですか」と手紙を書いたところ、お父さんの複数形はおかしいから「今の父親に宛てて書き直しなさい」と教師に怒られたという喫茶店の店員。

 「子どもがいないこと」へのプレッシャーから心を病み、多種多様な人が住む都心のマンションに引っ越した義兄夫婦。

 2歳近くの子供を事故で失い、家を追い出される形で離婚をした女性。

 有能でありながら、日本人の輪に溶け込もうとせず、職場で浮いてしまっている外国人従業員。

 どの人も、一所懸命生きているのにもかかわらず、世の中のいわゆる正論に脅かされ、不当に肩身の狭い思いをして生きている。

 読みながら、私は腹が立ち、とめどなく涙があふれてきた。

 「一般」とは何だろう。「常識」とは何だろう。「普通」とは何だろう。

 世間の大勢という物差しで勝手に計られて、人生を闊歩できない人がいる。
 こんなに理不尽なことがあるだろうか。こんなに悲しいことがあるだろうか。
 このような苦行を強いるなど、「首根っこをつかまえる」どころの話ではない。

step.jpg
 だからこそ、私は応援したい。健一と美紀の人生を。
 正論に負けるな。「普通」に負けるな。いつまでもいつまでも、大きく一歩一歩を踏み出していけ、と。

 そしてそれと同時に、私の内なる「常識」や「普通」を見つめなおし、誰かに一方的な正論を吐いていないか、誰かを世間の色眼鏡で見ていないか、誰かの人生の歩みを阻んでいないか、を問うていかねばなるまい。


 小説「ステップ」
 これは、逆境を乗り越えていく者たちの前進を描いただけではない。
 逆境を作ってしまう者たちの前進を促す一冊でもあるのだ。

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ステップ 中公文庫 / 重松清 シゲ...

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プロフィール

アコチム

Author:アコチム
反抗期真っ最中の子をもつ、40代主婦の読書録。
「読んで良かった!」と思える本のみ紹介。
つまらなかった本は載せていないので、安心してお読みください。

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