「小澤征爾さんと、音楽について話をする」

「あのね、あなたとこういうことを話していて、それでだんだんわかってきたんだけど、僕ってあまりそういう風にものを考えることがないんだね。僕はね、音楽を勉強するときには、楽譜に相当深く集中します。だからそのぶん、というか、ほかのことってあまり考えないんだ。音楽そのもののことしか考えない。」(本文引用)
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 対談というのは、しばしば化学変化、ケミストリーを起こすといわれる。
 しかしこの対談は、そんなものではない。
 村上春樹氏と小澤征爾氏。芸術分野で世界を代表する2人の対談だ。

 それはまるで、陸と海とが対峙し、時に融合し、時に反発しあってひとつの星を形成するようなスケールの大きさである。

 形式は主に、村上氏が、所有するレコードをかけながら小澤氏にインタヴューするというものだ。
 一見、音楽がわからないとつまらないのではないかと思いがちだが、村上氏が前書きで、小澤氏を「人なつっこい」と語っているように、小澤氏の話がかなり舞台裏に迫った赤裸々なものなので、音楽のことを知らなくても充分楽しめる。



 まだアシスタント指揮者でお金がなかった頃の苦労話、
 一流指揮者や演奏者の意外なプライベート、
 小澤ファミリーとの触れ合い、
 演奏上のあんなことこんなこと(指揮の最中に指を骨折(!)した等というエピソードも)・・・。

 そして、世界に名だたるマエストロとしての悩み。

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 ・・・指揮者とは、いわばオーケストラという豪華客船の船長であり、全ての舵を取る役割を担っている。
 それには「良い音楽」を作るためのリーダーシップから団員の教育、そして当然、人事権も含まれる。

 インタヴューのなかで、小澤氏は、楽しいミーティングはプログラム作りやゲストを選ぶ話し合いだが、「反対にいちばんいやだったのは、楽団員の待遇についての協議」だと語っている。殊に、個人的に仲良くなった人へのリタイア勧告は辛い、と。



 そういった言葉の端々に、小澤氏の人間性が垣間見られ、また芸術といえどもやはり人間同士が集まって作るものであるかぎり、スポーツや企業経営などと悩みは変わらないのだなという、ある種、安堵にも似た身近な印象をもった。

 しかしそこまで小澤氏から深い話を聴くことができたのは、やはり村上氏の音楽に対する造詣の深さに他ならないであろう。
 小澤氏も驚くほど村上氏の音楽知識は広く深く、かといってそれをひけらかすような嫌味な感じが全くしない。それは、音楽に対する愛情が生半可なものではないからであろう。

 そんな二人の対談である故、小澤氏という陸と、村上氏という海は、時に陸が広くなったり海が勢いを増したりとお互い拮抗しながらも、概ね静かに対談は進んでいく。
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 しかし、対談第4回「グスタフ・マーラーの音楽をめぐって」にて、その姿に少し変化が起こる。
 それが冒頭で引用した小澤氏の言葉だ。

 この部分で、村上氏が小澤氏の言わんとする感覚を必死に言葉で表現しようとするが、それに対して小澤氏は「そういうんじゃないね、ぜんぜん」と答えている。ここが個人的には非常に面白く、胸躍る場面であった。

 海があらゆる方面に流れていくように、世相、スポーツ等文学以外の事柄にもアンテナを張り巡らせていく作家と、ひたすら音楽という核を中心としてジッとしている陸との違いが、ここで露わになった。
 そんな気がした大きな地殻変動である。

 このようにして、徐々に互いの「我」が絡み合い形を変えていく対談は、約400ページにもわたる長尺であるにも関わらず、全く飽きることなく読み終えることが出来た。

 楽屋落ちになったり、門外漢の人間をはねつけたりすることなく、一流の仕事をしている生身の人間同士を見せてくれるこの対談集。
 ぜひ、第2巻を望みたい。 

(蛇足ながら・・・宇多田ヒカルについて聞かれた際の、小澤氏のコメントには、誠に失礼ながら吹き出してしまった。)

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プロフィール

アコチム

Author:アコチム
反抗期真っ最中の子をもつ、40代主婦の読書録。
「読んで良かった!」と思える本のみ紹介。
つまらなかった本は載せていないので、安心してお読みください。

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