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直木賞候補作!島本理生「ファーストラヴ」。読んで初めてタイトルの意味がわかった・・・。

評価:★★★★★

「以前観た映画の中にね、こんな台詞があったの。『奪われたものを取り戻そうとして、さらに失う』。どういう意味か分かる?」
(本文引用)
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 「ファーストラヴ」って、そういう意味だったのかぁ・・・。

 読みながら、私はドンッと衝撃を受けた。

 島本理生さんの小説は、いつも期待の何倍も深み・ふくらみがある。
 だから今回も一筋縄ではいかない作品だろうと、身構えてはいた。

 しかし「ファーストラヴ」というからには、「いつまでも忘れられないあの人を思い続けて・・・」みたいな仮説を立てて(「東大読書」的読み方)、ページを開いた。

 そしてその仮説は、見事に崩れた。
 本書が描く「ファーストラヴ」は、そんな甘いものではない。


  
 初恋や初めての恋愛は、人生に必須のものではない。

 しかしこの「ファーストラヴ」は、人間にとって絶対に必要な愛。
 最初に受けるべき愛で、なおかつ最も優先されるべき愛。

 全てにおいてファーストな愛だ。

 本書を読み、私は一個の人間として、そして大人として・・・この愛だけは絶対守り抜かねばならないと決心した。

 人生を狂わせる本というのはあるが、本書は狂いそうになる人生をグキグキッと正してくれる小説だ。

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■「ファーストラヴ」あらすじ



 臨床心理士の由紀は、夫・我聞と小学生の息子との3人暮らし。
 毎日、メンタルクリニックで心の相談を受けている。

 ある日、由紀のもとにこんな依頼が舞い込む。
 それは、父親を殺した少女のノンフィクションを書くことだ。

 大学生の環菜は就職活動のさなか、画家の父親を包丁で殺してしまう。
 
 由紀は弁護士の義弟・迦葉と共に、環菜の心を解明。
 過去、交友関係、家庭環境・・・あらゆる点から「殺人の動機」を探っていく。

 しかしそのプロセスは、由紀と迦葉、二人の古傷をうずかせるものだった。
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■「ファーストラヴ」感想



 「ファーストラヴ」は恋愛小説・ヒューマンドラマ・ミステリー・法廷小説、すべての魅力を兼ね備えた作品だ。

 終盤は父親刺殺事件の真相を、法廷でじっくり解明。
 ミステリーファンでもどっぷり楽しめる展開となっている。

 そして父親刺殺事件を通して露呈する、登場人物たちの心模様も読み応えたっぷり。

 自分が本当に愛した人、自分が本当に愛したかった人は誰なのか。
 この人が差し出す愛は、なぜこうも歪んでいるのか。
 
 家族、友人、ゆきずりで出会った異性・・・。
 
 真っ当な愛といびつな愛がグチャグチャになった環境で生きてきた由紀、迦葉、環菜。
 
 この3人が交錯することで、「人間にとって絶対ファーストなラヴ」がブワッと浮き上がって来る。

 「真っ当な愛のない人生とは、ここまで恐ろしいものなのか」と、息をすることも忘れ読みふけった。

 本書を読むと、身近な人への接し方が変わってくる。
 なぜなら、自分がファーストラヴを与えないと、大切な人の人生が狂ってしまうとわかったから。

 目の前にいる人を幸せにしたい・・・そう心から願う人に、本書はおすすめだ。

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 それにしても島本理生さんは、誠実な男性を描くのが本当にうまい。
 私は「よだかの片想い」の原田君が大好きなのだが、「ファーストラヴ」の我聞さんもいい!(辻さんも)

 男性不信になりそうになったら、島本理生作品を読もう。
 きっと男性を信じられるようになる。

 最後に、これだけは言っておきたい。
 「ファーストラヴ」、映像化希望!

 またまた勝手にキャスティングしてみたので、映像関係者の方、何とぞよろしくお願いいたします。

 ・由紀:波留
 ・我聞:鈴木亮平
 ・迦葉:斎藤工
 ・環菜:白石麻衣
 ・那雄人:オダギリジョー
 ・昭菜:木村佳乃
 ・小泉:風間俊介

 
詳細情報・ご購入はこちら↓

結婚相手の決め方がこれ1冊でわかります。島本理生著「わたしたちは銀のフォークと薬を手にして」

評価:★★★★★

 薄々分かっていた。年収じゃない。顔でもない。いや、外見はちょっと大事だけど、それよりも必要なもの。
(本文引用)
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 この小説には、ずばり「結婚の決め手」が書かれています。
 「結婚相手の決め手」といった方がよいかもしれません。

 今、交際中の人と結婚してよいか迷っている人、交際している人はいないがどういう人と結婚すればよいか迷っている人。

 そんな方はぜひ、この小説をじっくりと読んでみてください。
 いっぺんに、「この人と結婚して良いかどうか」「結婚相手の条件に何を挙げればよいか」がわかります。

 そうそう、すでに結婚されている方にもこの小説はおすすめ。
 私は結婚して13年ですが、「今まで意識しなかったけど、夫は確かにこういう人かも!」と非常に腑に落ちました。

 相変わらず、島本理生さんの慧眼ぶりには脱帽です。
 (だから島本理生さんの恋愛ものって、読んじゃうんですよね~)



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ナラタージュ 島本理生 

評価:★★★★★

この人からはなにも欲しくない。ただ与えるだけ、それでおそろしいくらいに満足なのだ。
(本文引用)
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 もう何でもいいから、とにかく「恋」に悩んでいる人に読んでほしい一冊。

 片思い中の人、失恋をした人、両想いのはずなのに相手の気持ちが不安な人、自分の気持ちがわからない人、叶わぬ恋をする人・・・そんな人は皆、この本を読めば苦しみがグンと軽減され、傷も癒えることだろう。

 なぜなら、本書は「恋は素晴らしい」という幻想を盛大に打ち砕く物語だから。

 恋は楽しいはず、恋は幸せなはず。そう思うから苦しくなる。本書を読めば、「恋とはそもそも途轍もない苦行であり拷問である」と思え、現在の苦しみなど「なーんだ」と一笑に付したくなるだろう。



 そして改めて、その胸の苦しみが自分の生きている証と思え、人生が楽しくなってくる。その胸の痛みが自分の息吹と思え、自分という存在が愛おしくなってくる。

 この小説は恋の苦悩を残酷なまでに描きながら、そんな「生身で生きることの喜び」をじっくりと教えてくれる。
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 大学生の工藤泉には、忘れられない人がいた。
 それは、高校時代の演劇部の顧問・葉山だ。

 高校卒業間際に何となく思いが通じ合った二人だが、それから何事もないまま時は過ぎ、また演劇の練習のために再会することとなる。
 泉は、葉山との叶わぬ恋に悩み、何とか距離を置こうとするが、なかなか思いを断ち切ることができずにいる。

 そんな時、同じ演劇の練習で出会った小野玲二に好意を寄せられ・・・。
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 この物語を読んでいると、人間、恋が絡むと何と厄介な存在になるものかと驚嘆する。日頃は素直な善人が、恋をすると、信じられないような「悪」の人格が顔を出してしまう。

 思わせぶりなことを言って相手の一喜一憂を喜んだり、相手を激しく傷つけてしまうことをわかっていながら、自分の心に嘘をついたり、相手を支配しようとしたり・・・。

 本書のなかには、恋で頭がお花畑になっている人間は一人もいない。むしろ、恋のせいで頭が過酷な密林状態になってしまっている。そこには毒草や猛獣も潜んでいる。

 しかしだからこそ、私はこの物語が好きだ。大好きだ。
 恋を叶えて幸せになろうとすればするほど、幸せから遠のく行動ばかりしてしまう。そんな不器用な人間たちの姿を読むうちに、優等生ではない「丸裸の自分の人生」というものが愛おしくて可愛くてたまらなくなってしまったからだ。

 ちなみに本書は、恋に悩む独身者だけでなく、既婚者にもオススメ。
 どうしてこの人と結婚したんだろう? きっかけは? 決め手は? 過去の恋愛と何が違ったんだろう? やっぱり縁?
 そんなことを考えながら、思わずフフフと笑みがこぼれてしまうことだろう。

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イノセント  島本理生

評価:★★★★★

 「だから、頼む。万能の神様じゃなくて、俺を呼んでくれないか」
(本文引用)
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 最後の最後の最後まで、とにかく目の離せない小説だった。

 この物語が、絶望で終わるのか希望で終わるのか。こうして出版されているのだから結末はすでに決まっているのに、「お願いだから幸せになってくれ」と祈るような賭けるような願うような思いで読みふけった。
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 イベント会社を経営する男性・真田は、出張先で一人の若い女性と出会う。
 女性の名は比紗也。子どもを身ごもっているとのことだが、真田は比紗也に心惹かれる。

 そしてもう一人、司祭として神に仕える男・歓も比紗也を守りたいと考えていた。



 人間と人生に絶望しつづけてきた比紗也と、彼女を愛し救おうとする真田と歓。
 彼女に希望を与えることができるのは、いったいどちらなのか。

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よだかの片想い 島本理生

 「僕は、君の真剣さが怖かった。でも、本当は、見たくないものから逃げるためにへらへら笑って生きてきた自分が、嫌だったんだと思う」
 (本文引用)
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 世の中、不思議なことがあるものだ。

 新聞の書評を読み、すぐ本書を注文したのだが、その時ふと思いつき、ショパンの「別れの曲」の楽譜も一緒に注文した。無性に、また弾きたくなったのだ。

 共に梱包されて届き、まずピアノで「別れの曲」をひと通り弾き、夜、本書を読み始めた。

 そこで驚いた。
 主人公が恋人に、喫茶店でこう話すのだ。


「今流れてるの、こんなに温かくて優しい感じがするのに、タイトルが『別れの曲』なんです」


 そしてさらに驚いたのは、この小説自身が、まるで「別れの曲」のような物語だったのだ。

 温かくて優しくて、時に辛くて厳しくて、どうしようもないぐらい悲しくて・・・でも最後はやはり温かくて優しくて、そして果てしなく美しい。

 世界一美しい曲といわれる「別れの曲」。
 「よだかの片想い」は、そんな名曲が登場するにふさわしい作品。
 読みながら、全身が涙で溶けてしまいそうなほど心震わせる、素晴らしい小説だ。
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 主人公のアイコは、24歳の大学院生。
 彼女には、ある特徴があった。顔の左半分が大きなアザで覆われているのだ。
 そのために、アイコはなるべく目立たぬように体を縮め、ひたすら勉学に励んできた。

 そんなある日、アイコを題材とした映画が作られることになる。
 戸惑うアイコだったが、そこで彼女は映画監督の飛坂に恋をする。
 そして飛坂も、不器用なほど何に対しても真剣に生きるアイコに心惹かれ、二人は付き合うようになるのだが・・・。
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 ああ、こうしてストーリーを思い返すだけでも涙がこぼれる。
 それは、アイコのアザのためでは全くない。
 純粋に、アイコと飛坂の姿を通じて、人を愛しつづけるということの貴さと厳しさに心打たれたからである。

 人を求め、求めるほどに自分の弱さと向き合わざるを得なくなり、怖くなる。
 そうして怖くなった者同士が磁石のように寄り添ったり反発しあったりしながら、相手を思う気持ちを継続させていく。
 誰でもやっているように見えて、実は非常に難しいということを、この作品は繊細な言葉で力強く教えてくれる。

 またこの物語の肝として、飛坂の弱さがあるが、それが露呈していくにつれて、「アイコにとって本当に必要な人間」があぶり出されてくる過程は読み応え十分。

 アイコの両親、研究室の教授、大学時代からの親友、尊敬する女の先輩・・・。

 なかでも、同じ研究室の原田君が良い。

「アイコ先輩の普通がなにを指すのかは知りませんけど、そんなに素晴らしいもんでもないと思いますよ」


 華があり、情緒的で女性を絶やさない飛坂とは正反対。
 容姿も微妙、冷静沈着でちょっと変わり者の原田君の存在は、この物語の大いなる光となっている。

 「別れの曲」の序盤を飛坂とすれば、緊張感あるメロディーが続いた後のラストは、原田君といったところか。
 そんな、アイコの前を通り過ぎる人間たちの交差は、「別れの曲」の抑揚のごとく目が離せず、面白い。いや見事である。

 実は私は、恋愛小説というものをほとんど読まない。
 しかしこれを読み、恋愛小説ってこんなに「人として大切なことを教えてくれるのか」、と開眼した。
 もう恋愛小説なんて似合わない年と思っていたが、こんな作品が読めるのなら、どんどん挑戦していきたい。
 これはもう、作者の島本理生さんに感謝するしかあるまい。

 島本理生さん、ありがとう。
 本当に、本当にありがとう。

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プロフィール

アコチム

Author:アコチム
反抗期真っ最中の子をもつ、40代主婦の読書録。
「読んで良かった!」と思える本のみ紹介。
つまらなかった本は載せていないので、安心してお読みください。

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