このカテゴリーの最新記事

「スコーレNo.4」スピンオフ掲載!宮下奈都最新刊「つぼみ」

評価:★★★★★

ずれてると思ったら、そのまま進んじゃ駄目なんだよ
(本文引用)
______________________________

 あの名作「スコーレNo.4」のスピンオフ掲載!
 麻子の妹たちや、麻子の母、麻子の父親に思いを寄せていた女性など、心かき乱す心模様が満載。
 「スコーレNo.4」を、また読みたくなること間違いなし、です。

 「スコーレNo.4」は麻子の成長物語で、麻子の苦悩や、突破口の見つけ方などが書かれていました。
 でもこの「つぼみ」を読むと、悩んでいたのは麻子だけではないことがよーくわかります。

 そして読んだ後は、思わずこう口ずさみたくなるでしょう。

 「世界に一つだけの花 一人一人違う種を持つ・・・」

 人と比べることをやめ、自分にしかない何かを見つけた時、不思議なほど世界が明るく見えてくる。

 宮下奈都の最新刊「つぼみ」は、1人ひとり違う花を咲かせることの素晴らしさを教えてくれる、とびきり爽やかな一冊です。
___________________________

 「つぼみ」には「スコーレNo.4」のスピンオフも収められていますが、その他の物語も掲載。

 内容は異なりますが、どれも言いたいことは共通しています。





 私たちは世界に一つだけの花で、その花を咲かせることだけに一生懸命になればいい、と。

 たとえば、私が思わず泣いてしまった物語「なつかしいひと」。
 母親を突然亡くした家族が、新しい土地で不安を抱えながら生活をスタートさせる物語です。

 主人公の「僕」は男子中学生。
 転校先の学校でなかなかなじめずにいます。
 そんなある日、知的で優しい女子高生に声をかけられます。

12e3343e808019bdb24557ec97036d11_s.jpg


 彼女は「僕」に本をプレゼントします。

 「僕」はそれをきっかけに重松清の本を次々と読み(こういう場面に出てくるところに、重松清さんの巨匠ぶりを感じますね)、日々の愉しみが増えていきます。

 そして意外な副産物も。

 学校のリーダー的存在の男子生徒が「僕」に近づき、読んでいる本を教えてほしいと言います。

 「僕」はリーダー的存在である彼を警戒し、しぶしぶ本を紹介。

 ところが後日、彼は「僕」に向かって「サンキュ」と笑顔を向けます。

 生徒たちに慕われている彼と打ち解けたことで、「僕」の学校生活は途端に彩を帯びます。

 さて、ところであの女子高生とはいったい誰だったのか。

 誰にも言ってないはずなのに、どうやら「僕」が母親を亡くしたことを知っている様子。

 果たして彼女は誰なのか・・・?

 この「なつかしいひと」は、心がもう本当にぬくぬく~っと温かくなります。
 母親を失い生きる力を失った家族、そこにどこからともなくやってくる救いの手、さらに主人公の心をパッと明るくした同級生の「サンキュ」。

 「僕」の生活を好転させた女子高生の正体は、わかりません。
 何となくわかるような気もしますが、読むうちに、そんなことどうでも良くなります。

 焦らず腐らず、そして周囲の人間に誠実に接しさえすれば、必ず雨がやみ夜は明ける。

 そんな希望を、「なつかしいひと」は教えてくれます。

 そしていちばん面白かったのは、再手話「ヒロミの旦那のやさおとこ」。
 これはもう、ドラマ化してほしいですね。

 陣内智則さんあたりを主役にして、「もう、こういうこと言うからモテるんだろうなぁ~」というモテオーラをバンバン発揮しながら演じていただきたいです。

 この物語は、女友達の失踪事件です。
 「やさおとこ」の旦那を置いて、突然行方をくらました女友達・ヒロミ。

 主人公の美波は、同じ女友達のみよっちゃんと一緒にヒロミを捜します。

 でもどうやら美波もみよっちゃんも「やさおとこ」がちょっと気になる様子。
 
 「やさおとこ」に心を揺らしたまま、やさおとこの妻を捜す彼女たちの心中とは?

 この「ヒロミの旦那のやさおとこ」も、やはり「世界に一つだけの花」を彷彿とさせる物語。

 ライフステージの異なる3人が、それぞれ「隣の芝生は青い」気持ちになり、ちょっとした嫉妬心を持ちながら友情を確かめていきます。

445c58938c12a5200432630398efbb62_s.jpg


 結局、自分を誰かと比較しても仕方がない。

 どんなに親しい友だちでも、私は私、人は人。

 そう思えると、友だちってずっと友だちでいられるよね・・・なーんてことを教えてくれます

 他人の人生も自分の人生も決して否定せず、尊重する。

 難しいことかもしれませんが、それが幸せになるいちばんの近道なんですよね、きっと。

 宮下奈都の最新刊「つぼみ」は、これから幸せになりたいと思っている「つぼみ」さんにオススメの一冊。

 読んだ後にはきっと、硬かったつぼみが少しだけ花開いていますよ。
  
詳細情報・ご購入はこちら↓

自信が持てない女性のバイブル!宮下奈都「スコーレNo.4」

評価:★★★★★

 愛せるものが欲しくて焦った。間違ったこともあった。愛するふりをして傷つけた人もいた。だから私も、誰にも愛されることがない。きっとこのままいくんだろうと思っていた。
(本文引用)
______________________________

 本屋大賞受賞作「羊と鋼の森」で、一気に脚光を浴びた感のある宮下奈都さん。

 私も宮下さんの小説は好きですが、今のところ、この「スコーレNo.4」がいちばん好きかも。

 なぜなら「スコーレNo,4」は、臆病でいることを肯定してくれるから。

 多くの小説が前に進む勇気を促すなかで、この「スコーレNo.4」は「前に進もうとしない勇気」というものを教えてくれます。

 だからこの小説を読むと、心からホッとします。
 ああ、焦ることないなって。



 たとえば誰かを好きになった時、話しかける勇気がなくてもいい。
 誰かに好かれ、それがたとえ嬉しかったとしても、無理に応える必要はない。
 誰かともめた時、自分の意見を引っ込めてしまってもいい。
 自分の能力が認められそうでも、それを主張しなくてもいい。
 何かを疑われて、うまく弁解できなくてもいい。静かに正しい道を歩めばいい。

 傷つかないために臆病になってしまうのは、決して悪いことではない。

 そんなことを素直に教えてくれる小説って、ありそうでなかった気がします。
 生来の性格を押し込めてまで、前向きに生きるのって、時として辛いものですよね。

 だから「スコーレNo.4」を読むと、ものすごく心が落ち着きます。
 臆病な自分に発破をかけるのではなく、臆病な自分をそのまま長い目で見て包み込むように受け入れてくれる。
 「スコーレNo.4」は、これから何回も何十回も繰り返し読みたいバイブルです。
____________________________

「スコーレNo.4」あらすじ



 主人公の津川麻子は中学生。
 波風を立てたがらない性格で、常に周囲の人に対して距離を置いてしまうタイプです。

 妹の七葉は、麻子とは正反対。
 思ったことをポンポンと口に出し、争うことも厭いません。
 麻子は、そんな七葉を時に羨ましく思いますが、それは七葉の特権であると認め姉妹仲良く暮らします。

 七葉は顔がかわいいから、何を言っても許される。
 でも私は平凡だから許されない。

 麻子は、顔の可愛い七葉に対してコンプレックスを抱き、人を好きになることにも臆病になります。

15006c5dc132ef13500c614ba09a9584_s.jpg


 ところが突然、臆病でいられなくなる日がやってきます。

 唯一の友だち・真由が好きになった少年を、麻子も雷に打たれたように好きになってしまうのです。

 その後、高校、大学、就職と麻子は、そのまま自分に自信を持てないまま成長していきますが、そんな麻子を認めてくれる男性が現れて・・・?
______________________________

「スコーレNo.4」感想



 「スコーレNo.4」は津川麻子の成長物語・・・と言いたいところですが、特に成長していなさそうなところが本書の魅力。

 常に人より二歩も三歩も引っ込んでいる麻子は、そのまま二歩も三歩も引っ込んだ女性のまま大人になっていきます。

 それでもこの物語は光に満ちています。
 なぜなら周囲が大人になり、麻子の良さを認め、応援してくれるからです。

 いつまでたっても「自分は冴えないなぁ」とため息をつきつつも、ひたすら地道に真面目に仕事をする麻子。
 本当は魅力的な面がたくさんあるのに、わざと目をつぶるかのように、自分の長所に気づこうとしない麻子。
 異性からの好意を全力で避けようとする麻子。

 そんな麻子の性格は変わらないのですが、麻子の全身からは誠実さがあふれています。

 だからいつの間にか、麻子には強い味方がついてくれます。
 そのプロセスが何とも気持ちよく、「自分をわざわざ変える必要はない。目立たずとも一生懸命生きていれば、誰かが見ていてくれるんだ」と希望が湧いてきます。

 特に最終章がいいですねー。
 最終章の茅野さんを瑛太さんか永山絢斗さん(あ、兄弟か)が演じてくれたら、悶絶するほど胸キュンなドラマになりそう!

 身近に自信満々で押しの強い人を見ると、つい羨ましいと思ってしまう人。
 気がつけば「私なんて・・・」と後ろ向きに考えてしまう人。

 それじゃいけないと思いつつも、なかなか考えるクセって治りませんよね。

 そんな「自信を持てずにいる女性」は、ぜひ「スコーレNo.4」を読んでみてください。
 自信のないあなた自身を、自信をもって受け止めることができますよ。

詳細情報・ご購入はこちら↓

「静かな雨」宮下奈都 感想

評価:★★★★☆

 「あたしの世界にもあなたはいる。あなたの世界にもあたしがいる。でも、ふたつの世界はおなじものではないの」
(本文引用)
______________________________

 「羊と鋼の森」で本屋大賞を受賞した、宮下奈都氏のデビュー作である(「羊と鋼の森」の感想はこちら)。

 「ああ、これが宮下奈都さんの文章だ、言葉だ、テンポなんだ・・・」と、信用できる品質の水をゴクゴクと飲むように読んだ。

 そのおかげで、主人公にどっぷりと感情移入することができた。

 自分だったらどうするだろう?自分だったら、割り切れる?割り切れない?

 そんな問いかけを、自分に何度もしているうちに読み終えていた。サラッとしつつも、心にのしかかるもの、残るものの大きい物語だ。
_______________________



続きを読む

田舎の紳士服店のモデルの妻  宮下奈都

評価:★★★★★

 どんなに自分が特別だと思いたくたって無理がある。
(本文引用)
__________________________________

  「羊と鋼の森」で本屋大賞を受賞し、がぜん注目を浴びている宮下奈都氏。
 各書店で宮下作品が平積みになっているが、その中で目を引いたのがこの小説。

 高級陶器人形リヤドロを思わせる、美しくもどこか悲しい装丁とタイトル。この、どこか触れてはいけないような不穏な空気に吸い寄せられて、本書を購入した。
 で、読み終えた今、私はこう叫びたい衝動に駆られている。

 「宮下奈都さん、いいよ!いいよ!いいじゃない!!」
__________________________

 主人公の竜胆梨々子は、東京でちょっと良い暮らしをしている専業主婦。子どもは男の子が2人おり、上の子はいわゆる評判の良い幼稚園に通わせている。



 しかし夫がうつ病になったため、急きょ夫の故郷で暮らすことに。
 梨々子は都落ちした気分で悶々とするが、自慢の美貌を誉められることで何とか自分を保とうとする。

 そんなある日、竜胆家にモデルの依頼が舞い込む。
 まんざらでもない思いで喜びを押し殺そうとする梨々子だが、何とそれは、夫への依頼だった。

続きを読む

羊と鋼の森  宮下奈都

評価:★★★★★

「ばあちゃん言ってたよ。ピアノのことも音楽のこともわからないけど、あの子は小さい頃から森が好きで、迷っても必ずひとりで帰ってきたから、きっとだいじょうぶだって」
(本文引用)
_______________________________________

 小さい頃、年に1回、ピアノの調律師さんが来るのが嬉しくて仕方がなかった。
 母や私に背を向けて、骨と神経が露わになったピアノと格闘している調律師さんの姿が輝いて見え、私はその様子を絵に描いたことがある。
 ちなみに、その調律師さんはピアノの椅子の調節方法についても教えてくれ、「座る部分をきっちり固定しないで手を離すと、(座る部分が)落ちてきて、指の骨が折れます」と解説。幼い私によほど言い聞かせたかったのだろう。調律師さんはその後さらに2回続けて「はい、指の骨折れます。はい、指の骨折れます」と言った。その恐怖に慄いた私は、幼稚園から大学生になるまで、一度もピアノの椅子の高さを変えることはなかった。

 ピアノを弾く人間にとって、調律師さんの影響力というのは存外大きいものなのである。



 個人的な話はここまでとして、この「羊と鋼の森」の話に移ろう。
 直木賞候補作であり、2016年の本屋大賞にもノミネートされている話題作というだけあり、非常に上質な小説だった。小説だけにしておくのはもったいないので、絵のきれいな漫画家さん(亜樹直さんとか)にコミック化してもらい、「モーニング」あたりで連載していただきたい。爆発的にヒットすること間違いなしだろう。

続きを読む

プロフィール

アコチム

Author:アコチム
反抗期真っ最中の子をもつ、40代主婦の読書録。
「読んで良かった!」と思える本のみ紹介。
つまらなかった本は載せていないので、安心してお読みください。

最新記事
シンプルアーカイブ
最新コメント
最新トラックバック
RSSリンクの表示
QRコード
QR

書評・レビュー ブログランキングへ
にほんブログ村 本ブログへ
にほんブログ村
カテゴリ
広告
記事更新情報
リンク
広告