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時代小説が苦手な方にこそおすすめしたい時代小説!「遠縁の女」青山文平

評価:★★★★★

「でも、あれだけは赦せません」
私はふーと息をついた。
「あれですか」
「はい、あれです」
「あれとはなんでしょう」
「あらっ」
信江はいかにも驚いた。

(本文引用)
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 時代小説は苦手という人、多いですよね。

 特に江戸時代の身分制度や武士の階級・家格、土地、年貢のしくみなどは難解。
 「郡奉行が~」「石高が~」という言葉が出てくるだけで挫折しそうになります。

 でも青山文平さんは別。
 江戸時代独特の制度について細かく書かれていますが、少々理解できなくても大丈夫。

 身分などを引きはがした「素の人間の心模様」が書かれているので、現代小説のような感覚でグイグイ読めます。



 「鬼はもとより」「つまをめとらば」は娯楽色豊かで非常に楽しめましたが、本作「遠縁の女」はこれまた深く豊潤な味わい。

 「鳴かぬ蛍が身を焦がす」「雄弁は銀、沈黙は金」といった古式ゆかしい「美徳」に触れることで、心がスーーッ・・・と落ち着きますよ。

 時代小説が苦手な方も、このただただ麗しい人間ドラマには引き込まれちゃいますよ!
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■「遠縁の女」あらすじ



 本書は3篇からなる短編集。
 表題作「遠縁の女」は、美女が巧みに男心を操るミステリー仕立ての物語です。

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 主人公の片倉隆明は、剣より学問が得意なタイプ。
 そんな隆明に、父が武者修行に出るよう命じます。

 それを聞いた親友・菊池誠二郎は、隆明にあることを告白。
 美人と評判の信江に心を奪われたこと、そして隆明が旅に出ている間に信江を手に入れても良いかということ等々・・・。

 一方、隆明は信江の縁戚であることから、さして信江に興味はない様子。
 誠二郎の念押しを快諾し、武者修行の旅に出ます。

 しかし帰国すると、隆明の周辺の人物は一変。
 一体何があったのかと、隆明は方々から聴取しますが・・・?
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■「遠縁の女」感想



 「遠縁の女」を読むと、「まこと女は恐ろしい・・・」とゾッとします。

 今現在、「異性にモテたい」「意中の男性に振り向いてほしい」と思っている女性は必読。

 本書を読めば、好きな男性の頭の中を、あなたのことでいっぱいにすることができますよ。

 そんじょそこらの「モテ本」を100冊読むのなら、この「遠縁の女」一遍を読んだほうがいいです。

 とはいえ「遠縁の女」は、ただのラブストーリーではありません。

 ヌルッと艶のある駆け引きがさんざん続いた後、ある事実が明かされますが・・・それは意外なほどゴツゴツと男性的。

 女性が思わせぶりなことを言う時は、うんとアサッテの方向に真意が隠されているのかもしれません。
 男性陣はお気をつけを!

 「遠縁の女」は、そんな男と女の心理戦と、武家社会のメカニズムを見事に融合させた傑作です。

 と言いつつ・・・実は、私がいちばん気に入ったのは第一話「機織る武家」。

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 主人公の縫は武家に嫁いだものの、居場所がないためストレスだらけ。

 姑と夫は血がつながっておらず、亡くなった前妻だけが唯一の絆。
 後妻に入った縫に、もはや立ち入る隙などありません。

 ミスを連発する夫のせいで、縫の家はどんどん貧しくなり、縫は機織りをすることに。

 プライドの高い姑の前で、武家らしからぬ仕事をすることに縫は抵抗を覚えますが、そのうち気持ちが変わってきて・・・?

 「機織る武家」は、結婚生活に何かモヤモヤした気持ちを抱えている人に超おすすめ!

 「自分が働いていることに、夫は不満なのでは」
 「姑のせいで気が休まらない」
 「私、家族にとって何なんだろう」

 既婚女性は専業主婦でもワーキングマザーでも、なかなか自分の立場に満足できないもの。
 全部中途半端なのでは・・・なんて悩むこともしばしばです。
 家族に気も遣いますしね。

 今現在まあまあ幸せなんだけど、なんかモヤモヤしてしまう。
 そんな女性の方は、ぜひ「機織る武家」を読んでみてください。

 「人間万事塞翁が馬」といったところでしょうか。
 今まで「悪い方向にとらえていたこと」が、「実は自分にとって良いこと」に思え、気持ちが明るくなりますよ。
 考えようによっては、女性って男性よりもずっと可能性の幅が広いのかもしれません。

 元気を出したい女性に、「機織る武家」は本当におすすめです。

 流麗な文章と、心の奥深ーくにサクッと刺さるストーリー。
 そんな青山さんの小説を読んでいると、心がどんどん浄化されていきます。

 「時代小説を読んでみたいけど、いつも挫折してしまう」
 「家庭での自分の存在意義がわからない」
 「結構幸せだけど、何かスッキリしない」

 そんな女性は、ぜひ本書を。

 機を織る女性や、黒目の大きい遠縁の女が応援してくれますよ。

詳細情報・ご購入はこちら↓

つまをめとらば 青山文平

評価:★★★★☆

女は根拠なしに、自信を持つことができる。
その力強さに、男は惹きつけられる。

(本文引用)
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 「直木賞」平成27年度下半期受賞作。以前、「鬼はもとより」を読んだ際に、「作者の方は、女性に対してずいぶん思うところがあるのだなぁ」と感じたが、本作もまた同様。青山氏の女性観というのは、ある種独特のものがある。
  「鬼はもとより」は(ストーリーは面白かったものの)、その女性の描き方についてやや不快感を抱いたが、私も少々若かったのだろう。女性である私自身、女に対して純粋に清らかさを求めていたのだろう。
 しかし今、それはかなり幻想であることがわかってきた。よって、この短編集「つまをめとらば」の男女の仲の機微、特に女性に潜む“何か”について、大きくうなずきながら読んでしまった。
 それが良いことなのか悪いことなのかはわからないが、この物語を楽しめたという点においては、良かったのかもしれない。



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鬼はもとより 青山文平

 「軀と服とはぴったりと釣り合っていなければならん」(本文引用)
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 2015年1月13日の日本経済新聞朝刊に、こんな記事が載っていた。

 「エコノ探偵団 贈与増えれば景気よくなる? 子世代消費押し上げに期待」

 これは、今年1月に改正された、相続税及び贈与税の税制について触れたものだ。
 この施策の目的は、ずばり景気の活性化。高齢者から若い世代への資産移転を促すことで、個人消費の増加が期待できるとされている。

 そのせいだろう、最近各種メディアで、孫の教育資金の支援をホクホクと語る高齢者の姿をよく見かける。

 そんな彼らの様子を見るたびに、私は心の中で大泉逸郎の「孫」を唄ってしまうのだが、同時にこうも思う。
 喜ぶのは、一部の富裕層だけなのではないか、教育格差が広がるのではないか、と。

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プロフィール

アコチム

Author:アコチム
反抗期真っ最中の子をもつ、40代主婦の読書録。
「読んで良かった!」と思える本のみ紹介。
つまらなかった本は載せていないので、安心してお読みください。

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