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「絶唱」感想。作家・湊かなえ誕生の原点をここに見た!

評価:★★★★★

 小説など何の役に立つのだろうと、ふがいなさに唇をかみしめる日々が続いたけれど、書く手を決して止めることだけはしませんでした。
(本文引用)
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 「作家ってどういう人がなるんだろう?」と思っていた。
 ただ文章を書くのが好き、うまい、というだけでは到底なれない。
 
 「好き」と「上手」プラスアルファがないと、コンスタントに作品を世に出すことなど、なかなかできないだろう。
 
 ではその「プラスアルファ」とは何か。

 プラスアルファとは、体の底から湧き上がるような使命感。
 人は「好きで得意なこと」と、体から湧き上がる使命感が重なったとき、その仕事に就くのだ。

 「絶唱」は、作家・湊かなえの「使命感」を凝縮した一冊。


 24年前の「あの日」、「最後だとわかっていたなら」と、何と多くの人が後悔したことか。
 
 その後悔を糧にした使命感が、ベストセラー作家・湊かなえ誕生のもと。

 湊かなえファンなら必読の一冊。
 ファンでなくても、何冊か湊かなえの本を持ってるなら、ぜひ「絶唱」を読んでから再読してみてほしい。
 
 「この小説をどんな気持ちで書いたのか・・・」と、見方がガラッと変わるはずだ。
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■「絶唱」あらすじ



 本書は4話から成る物語。
 主人公は全員、日常から逃れてトンガにやってきた。

 「良き母」像にとらわれた実母に存在を否定されつづけた、双子の姉。
 自分はほめられたいのに、他人は絶対にほめようとしない・・・そんなくだらないプライドをもつ婚約者に、ストレスを感じる女性。
 必死に育児をしてるのに、偏見で虐待を疑われるシングルマザー等々。

 彼女たちは皆、自分の人生がパンパンになった時、阪神淡路大震災に遭遇。 

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震災なんて起こらなければ、震災なんて起こらなければ、震災なんて起こらなければ・・・・・・。


 彼女たちは何を悔い、そしてその悔いをどう人生に活かし、己の人生を歩むのか。
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■「絶唱」感想



 作家というのは、本当に骨身を削り、人生を削って作品を書いてるんだな・・・。
 「絶唱」を読み、そんな当たり前のことに気づき愕然とした。

 有川浩著「倒れるときは前のめり」で、湊かなえと有川浩の「震災に対する並々ならぬ思い」は知っていた。

 しかし「絶唱」を読み、私の認識が甘かったことを痛感。
 震災がどれほど、ひと1人の人生に大きな影響を与えるか。
 震災に遭った人がどれほど、己の人生だけでなく他者の人生にまで思いをはせ、懸命に生きているか。

 これは実際に被災した人にしか、なかなか想像できない。
 被災していない者は、どんなに努力しても理解しきれない。

 本書から聞こえる叫びに、「被災していない私」は打ちひしがれた。

 特に胸に刺さるのは、第二話「約束」。
 主人公の女性は、恋人から逃げるようにしてトンガに到着。



 恋人は悪い人ではないのだが、支配欲と虚栄心が強い人。
 女性はそんな彼氏に疲れ、婚約の破談を考える。

 しかし恋人はトンガで、女性にある事実を知らせる。
 共通の友人が起こした、「あの日」の行動。

 女性はそれを知った瞬間、激しい後悔にさいなまれることに。
 そして二人の関係に大きな異変が・・・?

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 この「約束」ほど、「最後だとわかっていたなら」と思わせる物語はない。
 
 誰しも心のどこかで「これが最後だったら」という恐怖心を秘めている。
 しかし結局、「まさかそんなことはないだろう」と、いい加減な行動・やってはならない行動をとってしまう。
 あとでリカバーすればいいや、と。
 
 だが「約束」を読んでしまうと、「それじゃダメだ」と心底思わされる。
 人間の行動にリカバーなどない、今この一瞬しかない。
 そのことを常に頭におき、常に胸に刻みつけながら、日々生きなくちゃいけないんだ、と改めて決意させられる。

 「絶唱」は4話すべて読みごたえがある。
 しかし「人生に二度はない」というメッセージを痛烈に感じるのは、圧倒的に第二話「約束」。

 「本を読む時間がなかなかとれない」という人は、ぜひ「約束」だけでも読んでほしい。

 作家・湊かなえはなぜ作家になったのか。
 そしてどんな思いで物語を紡ぎつづけているのか。
 どんな後悔があり、どう乗り越え、それを作家としてどう後世に伝えようとしているのか。

 短いながらも、作家としての使命感があふれんばかりに満ちた「絶唱」。
 
 ベストセラー作家の叫びを、ぜひ全身で受け止めていただきたい。

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湊かなえ「ブロードキャスト」。「自分に居場所がない」と思ってる人、読んでみませんか?

評価:★★★★★

 浮いたままの方の僕が問いかける。
 おい圭祐、ここはおまえの居場所なのか?

(本文引用)
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 湊かなえさんはイヤミスよりも、ハートウォーミングストーリーのほうがいい。
 断然いい。

 「山女日記」「物語の終わり」を読んだ時も、まるっきり同じことを思った。
 「ええっ?湊かなえさんって、こんな素敵な小説も書くんだ。・・・イヤミスから転向したほうがいいんじゃ・・・」と(余計なお世話だが)。

 本書「ブロードキャスト」は爽やかさいっぱいの青春小説。
 読んでるだけでグレープフルーツかシトラスの香りがただよってくる、「湊かなえらしからぬ」作品だ。

 イヤミス目当てで湊かなえ作品を読む人は拍子抜けするかも。
 でも純粋に「心洗われる小説を読みたい」と思うなら、ホントにおすすめ。


 そして今もし、「自分の居場所がわからない」「自分が生きてる価値って何だろう」と悩んでるなら、ぜひ読んでみてほしい。
 読み終える頃には、心にサッと光が射しているはず。

 自分の居場所、生きている価値が、霧が晴れたように見えてくるだろう。 
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■「ブロードキャスト」あらすじ



 主人公・町田圭祐は中学時代、陸上長距離の選手だった。
 
 将来を嘱望され、陸上の強豪校に行くつもりだったが、事故で大けがを負い挫折。
 失意のうちに高校に入学する。

 しかしそこで圭祐は、自分では気づかなかった「ある才能」を見出される。

 「おまえの声って、ホント、いいもんな」


 「声がいい」なんて言われたのは、産まれて初めての圭祐。

 圭祐は、ラジオ脚本家を夢見る正也に連れられ、強引に放送部に入れられるが・・・?

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■「ブロードキャスト」感想


 
 「よくできてるなぁ」というのが、本書を読んだ第一の感想。
 「よくできてる」と思った理由は、劇中劇で語らせるから。

 本書が、圭祐たちを描くのではない。
 本書に出てくるラジオドラマが、圭祐ら高校生の姿を描き出しているのだ。

 圭祐たちは全国高校放送コンテストで、ラジオドラマを作っていく。
 内容は、SNSがらみの「いじめ」を描くもの。
 タイトルは「ケンガイ」。
 
 陸上の夢を絶たれ人との接触を拒み、SNSをやらない圭祐。
 同級生に無視され、SNSから完全に遠ざかった女生徒・さくら。
 そんな二人の心情を慮り、脚本を書く正也。

 彼ら放送部員演じるラジオドラマ「ケンガイ」こそが、圭祐とさくらの気持ちを映し出す。

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 いわば「ブロードキャスト」は、ドラマの中にドラマがある「入れ子構造小説」なのだ。 

 そのドラマを通じて、圭祐たちは「自分の居場所」を見つけていくのだが、そこはさすがミステリーの女王・湊かなえ。

 ラストで、陸上部時代の「謎」の真相が判明。
 これはちょっと読めなかったから、最後の10ページで面白さがさらにアップ。

 同じミステリーでも「イヤじゃないミステリー」というものは、心にしみいるものだなぁ・・・と新たな発見をした。

 「ミステリーじゃない湊かなえなんて・・・」と思う人でも、最後10ページを読めば「なーるほど!」と膝を打って満足するだろう。 
 
 レモンのような爽やか味で、「湊ミステリーの妙味」も味わえる「ブロードキャスト」。

 「自分に居場所がない」と悩んでる人は、ぜひ読んでみてほしい。
 紆余曲折の展開に没頭しているちに、「自分の居場所はここじゃない」「一歩歩き出してみよう」と心が動き出すはずだ。
                                                                     
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湊かなえ「物語のおわり」ってこういう意味だったんだ!登場人物と読者がコラボする奇跡の小説です。

評価:★★★★★

山を越えても、その先にはまだ砦がある。日本の最果てまで来ても、砦はある。逃げ出すことはできないんだから、その中で戦いなさい。
(本文引用)
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 「短編集はこうでなくっちゃ!」
 ページをめくりながら、私は思わずガッツポーズ。

 短編集は、一話一話が完全に独立しているものも面白いですが、全てが絶妙につながっていると面白さ倍増ですよね。

 その意味で、「物語のおわり」の読み応え・面白さはパーフェクト。
 連作短編集というものを越え、さらにハイレベルな「入れ子構造」にグレードアップ。

 どこまでが本当で、どこからが嘘かわからないんだけど、全てを覆っているのは真実。
 そして、入れ子の最後の箱を開けてみると、そこにあるのも真実。



 「すっかり騙された!」という痛快さと、「本当に大切なものを見つけられた」という爽快感が心の中をフワーッと駆け抜けます。

 しかも「物語のおわり」は、ある意味「登場人物と読者がコラボする」小説。

 湊かなえさんの構成力には、ただただ脱帽です。 
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■「物語のおわり」あらすじ



 本書は8編からなる短編集。

 第一話は、小説家を目指す少女のお話です。

 主人公・絵美の実家はパン屋さん。
 絵美は毎朝、学校に行く前にお店を手伝いますが、そこで釣銭を少なく渡してしまうトラブルが。

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 相手は男子高校生で、いつもハムサンドやハムロールを購入。
 絵美が密かに「ハムさん」と呼ぶお客さんです。

 絵美はハムさんに釣銭を渡すため、ハムさんが降りるバス停で待機。
 それ以来、二人は頻繁に会うようになり、愛情を深めていきますが・・・?

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■「物語のおわり」感想



 「物語のおわり」というタイトルと、「湊かなえ作品」であることから、多くの人はこんなイメージを持つのではないでしょうか。

 「ふっふっふ、ここからはあなたが考えてね」という、挑戦的かつ不穏な空気を。

 もし、そんな物語を想像しているのなら、読んで驚くこと必至。

 「あ、物語のおわりってこういう意味だったの? やられた!」と膝を打つこと間違いなしです。

 「物語のおわり」を考えるのは、次々と現れる登場人物たち。

 彼らにはある共通点があるために、物語をバトンリレーのように渡され、人生そのもので「おわり」を考えるよう託されます。

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 「えっ? じゃあ我々読者は読むだけってこと? 何もすることないの?」

 そうつまらなく思う人も、いるかもしれません。

 でも読むうちに、読み手も物語を渡され、自分自身で「おわり」を考えるよう任されていることに気づきます。

 作中、ある人物がこんな言葉を胸の内につぶやきます。 

絵美と自分が人生の一点で交わったことは間違いではなかったのだ

 登場人物だけでなく、きっと読者も「絵美との交叉」には胸が震えることでしょう。

 夢か現かわからないけど、とにかく絵美と会えて良かった、絵美と人生の一点で交わった「彼ら」と会えて良かったと、心から思えることでしょう。

 そんな「人と人、夢と現実の交叉」が本書の魅力。

 微妙に異なる物語で、違う人物が、いつかどこかで重なり合う。
 「物語のおわり」は、そんな短編集の醍醐味がとくと味わえる小説です。

 しかもその「人物たち」に読者まで巻き込んでしまうのですから、湊かなえさんの筆力・構成力・アイデア力には舌を巻きます。

 「面白い短編集はないかな~」とお思いなら、今いちばん推したいのは「物語のおわり」。

 短編集の魅力に、頭のてっぺんから足の先までつかることができますよ。

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ドラマスタート!湊かなえ「リバース」。原作の結末と真犯人は?

評価:★★★★☆

 コーヒーを淹れる。自分にできる精一杯のこと。
 後悔という闇の中に、たった一筋差し込む光--。

(本文引用)
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 湊かなえの「リバース」が、いよいよTBSでドラマ化されます。

 「最後の1行に驚愕!」という噂は聞いていたのですが、そこまで待たなくても大丈夫。
 その何行か前で「ええっ? もしかするとこれは・・・!?」と驚愕することができました。

 しかも、その「驚愕」は二段階構造。

 人間は、知らず知らずのうちに取り返しのつかない罪を犯してしまうものなんですね。
 時には、そんなことに思いおよばず傲慢な行動に出てしまうことも。

 ただのドッキリどんでん返しミステリーと侮るなかれ!




 実際にある迷宮入り事件も、案外こういう理由で解決できないのかも・・・なんて考えちゃいました。

 これ、ドラマの最終回の視聴率がグワッと上がりそうだなぁ。楽しみ!
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●「リバース」のあらすじ

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山女日記  湊かなえ

評価:★★★★★

  雨が降っても一緒にいたいと思える人であることを、誇りに思う。
(本文引用)
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 「いいじゃない、これ!ミステリーよりも、いいよ、絶対!これからはこの路線で行ってみたら?」
 もし私が湊かなえ氏の友人だったら、興奮して、思わずこう声をかけてしまいそうだ。

 今や「嫌な気持ちになるミステリー」=「イヤミス」の女王であり代名詞的存在である湊かなえだが、ここまでスコーンと気持ちの良い作品も書けるのか、と心から惚れ直した。

 山に登る女性たちの姿を描いた連作短編集「山女日記」。この物語を読めば、まず間違いなく山に登りたくなる。そして、人が好きになる。いや、山に登ることも人を好きになることも通り越して、生きることそのものが好きになりそうだ。



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 この物語に登場する「山女」は、様々な事情を抱えている。

 結婚間近かと思いきや、婚約者から思わぬ事実を聞かされ、山で大きな決断をしようとする女。
 そんな彼女に付き添う、恐ろしく無神経な女友だち。
 本人は地味なつもりなのに、「バブルを引きずっている」と周囲に距離を置かれてしまう女。
 姉とその夫に見下されつづける妹。そんな妹を実は心のよりどころとする、家庭崩壊寸前の姉etc.
 皆、荷物と一緒に心の鬱積も抱えながら、目の前の山に登り、足元の小さな花に目を止め、何かを整理し吐き出そうとしている。

 なかでも面白かったのは、第三話「槍ヶ岳」だ。

 幼い頃から父親に山に連れられてきた主人公は、山に登るのはお手の物だが、とにかく集団行動が嫌い。今回もひとりで槍ヶ岳に登っている。
 しかしそこで、年配の男女と出会い、いつの間にか一緒に登ることとなる。
 次第に、女性の方に明らかに疲れが見え始め、主人公はアミノ酸のサプリメントや、登るのが楽になるグッズを次々と出す。しかし世代故か、「そんなものに頼るなんて」と拒まれてしまう。さらに主人公が花の名前を知らないでいると、ここぞとばかりに責め立てる。
 3人はギクシャクとした心境で山に登り続けるが、年配女性の意外な“思い”が明かされて・・・?

 これは、登山の醍醐味を存分に抽出した物語ではないだろうか。
 その場で出会った人と共に、厳しい自然を相手に闘い、他人を通して自分を見つめなおす。主人公の若い女性と、年配男女とがどうにも溶け合わない会話には、「あるある」と苦笑しながらも悶絶するほどイライラした。しかしその分、それが溶け合っていく過程には猛烈に心を揺さぶられた。
 人間って、こんなに頑固でややこしくて、でも憎めない存在なのだなぁ・・・と、純粋に笑みがこぼれた。

 第二話「火打山」も大好きだ。
 美津子は、その華やかな容貌から「バブリー」な女性と見られているのが悩み。山に誘ってくれた男性・神崎からも、チョコレートはゴディバしか食べない女と思われているようだ。
 神崎はおやつ一つを出すにも自嘲気味で、終始美津子に気を遣っている様子だ。
 しかし最後に、美津子の意外な過去が明かされる。

 この本の醸し出す何とも言えない温かさは、この美津子と神崎の存在あってこそ。
 いつどこで、この二人が登場するか。宝探しのような気持ちで後半を読み進めるのも一興だ。
 
 ちなみにこの小説、湊氏のある作品が、カメオ出演のような形で登場している。
 こんなユーモアも、本書の読みどころだ。

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ポイズンドーター・ホーリーマザー  湊かなえ

評価:★★★☆☆

 あなたは優しい人じゃない――。でも、それは決して悪いことじゃない。
(本文引用)
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 「意味がわかると本当は怖い」という話がある。
 たとえば、2階の部屋で友だちとトランプ遊びをしていたら、窓の外からおばあさんが挨拶をしてきたとか、自宅で家族写真を撮ったら知らない人の顔が背後に映っていて、心霊写真かどうかを鑑定してもらったら違ったので安心したとか・・・。

 そんな小さな虫が背筋を這うような恐怖感を、世の中に提供しつづけてくれる湊かなえ作品。
 さて、そこに「女同士の憎悪」がたっぷりと混ぜられると一体どうなるのか。
 母と娘、姉妹、女友達との関係で神経をすり減らしている人は、一読することをお薦めする。「毒をもって毒を制す」とばかりに、湊かなえ劇場があなたの心の中の毒を浄化してくれるかもしれない。



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望郷  湊かなえ

評価:★★★★☆

どんな船だって、他の船を沈めることは許されない。(本文引用)
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 日本推理作家協会賞受賞ということで、どんなどんでん返しや驚きの真相が現れるかと期待したが、読んでいる間に、そんなことは忘れて没入してしまった。
 いや、そんなことはどうでも良くなってしまった、と言ったほうが近いかもしれない。

 確かにミステリー小説ではあるのかもしれないが、この小説が指すミステリーとは、偽装工作やトリックではない。ただただ正直でまっさらな、人の心なのだ。
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 本書は6編からなる短編集。舞台はいずれも、温暖な離島・白綱島だ。



 有名作家となって島に戻ってきた女性が、かつて島を捨てた本当の理由を描いた「みかんの花」、大地主の家に生まれたばっかりに、大型テーマパークに行かれなかった女性を描く「夢の国」、かつて住人全員に無視されていたにも関わらず、人気歌手となった途端にちやほやされ、追いつめられる男性を描く「雲の糸」・・・。
 いずれも、閉鎖的な空間から抜け出そうにも抜け出せない人間たちの物語で、読んでいるだけで、その濃密すぎる人間関係には息が詰まってくる。湊かなえ作品というだけで、心が暗~く重~くなることは覚悟していたが、それを6連投されると正直、かなり消耗する。

 それでも一気に読めてしまうのは、何とも後味が良いためだ。
 どの物語も、人間というものは、ここまで弱く、ここまで堕ちることができるのかと暗澹たる気持ちになる。しかしラストは必ず、「人間とはここまで強く、誠実さを保つことができるのか」と大きな希望が湧いてくる展開になっている。

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プロフィール

アコチム

Author:アコチム
反抗期真っ最中の子をもつ、40代主婦の読書録。
「読んで良かった!」と思える本のみ紹介。
つまらなかった本は載せていないので、安心してお読みください。

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