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i アイ  西加奈子

評価:★★★★★

「誰かのことを思って苦しいのなら、どれだけ自分が非力でも苦しむべきだと、私は思う。その苦しみを、大切にすべきだって。」
(本文引用)
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 瞳から押し出されるようにして、涙が出た。胸の奥の奥から波が押し寄せて、それが体内で収めきれなくなって、目から涙という名の波がドーンとしぶきを上げてあふれ出る。
 これが、この本の最後の一行を読んだ瞬間の私だ。

 シリアで生まれ、裕福な夫婦の養子として育てられた女性が、自分の存在を問いつづける物語「i アイ」。
 主人公のようなやや特殊な状況でなくても、生きている実感が乏しく、自分の存在意義に悩む人は多いだろう。聞けば、リストカットは「私は存在している」ことの確認作業だという。

 そんな、「今ここにいる私とは何か」「私はなぜここにこうして生きているのか」という思いに悩む人にとって、本書は一生の宝物となるだろう。
 そして、大切な人と大切な時間を紡ぎたいと強く望む人にとっても、必携の書となるだろう。



 自分が自分を生きること、そして、自信をもって誰かを愛し慈しむこと。その術が、本書には、はち切れんばかりに詰まっている。

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うつくしい人  西加奈子

西 でもある日、私がめっちゃ憧れてる、ものをはっきり言える子に、「私は加奈子ちゃんみたいになりたい」って言われたことがあって。その瞬間、私も誰かの「うつくしい人」っていうか、私もキラキラして見えるんやなぁとか思ってワックワクしちゃって、嬉しくてタクシー乗られへんくなった。
(本書巻末「文庫化記念対談 ともさかりえ×西加奈子」より)
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 ランチメイト症候群やママ友問題でお悩みの方には、この小説をお薦めする。
 本書で言う「うつくしい人」になれば、その悩みは相当軽減されるはず。気がつけば、大雨の後に広がる青空のように、心が澄み渡っていることだろう。
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 蒔田百合は、とにかく他人の目を気にして生きている。
 たとえどんなに自分の意に反していても、周囲が誰かをいじめればそれに加担し、周囲に羨ましがられるような男性としか付き合わない。それが百合の生き方だ。
 ある日、百合は会社でちょっとしたミスをする。上司は百合を怒るでもなく、労りの言葉をかけるが、人目を気にする百合にとって、それは耐えられないものだった。
 そして百合は、衝動的に一人旅に出る。
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 この小説を読み、私はある本を思い出した。清水真砂子著「大人になるっておもしろい?」である。
 その本のなかで清水氏は、「ひとりでいることの重要性」を語っている。
 ひとりでいることで、人は「自分自身の内なる声」を聞くことができる。それができて初めて、人は他者の気持ちを推し測ることができるのではないか、と氏は主張するのだ。

 その言葉をこの小説に当てはめると、百合は「内なる声」からずっと耳を塞いできたと言える。
 そんな百合が、一人旅を通して「自分を偽ってまでマジョリティーに合わせる必要はない」ことを悟っていくのだが、その姿は何とも爽快だ。





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漁港の肉子ちゃん  西加奈子

「でも、まあ、命はあるんやし!」
(本文引用)
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 こんなタイトルなのに、「すごおおおおっ!」とか「ばああああああっ!」とかヘンテコなセリフばかりなのに、難しいことなど何も書いてないのに・・・人生のバイブルにしたくなる小説だ。
 久しぶりに、心の奥がブルッブルと震えた。そしてその振動と共に、涙がボロッボロと落ちた。「最高!」だ。
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 主人公の肉子ちゃんは、本名・菊子。体はブクブクと太り、顔もお世辞にも美人とはいえない。頭も少々鈍い。
 そして人生はといえば、どうしようもない男たちにだまされつづけ、借金を重ねつづけるという、これまたお世辞にも幸せとはいえないものだ。
 しかし肉子ちゃんは底抜けに明るく情が深く、不思議と人々を惹きつける。



 そんな肉子ちゃんには、小5の娘がいる。娘は母親と違い、見目麗しいモデルのような容貌だ。頭も良く、いつも難しい本を読んでいる。ちなみに名前は喜久子。何と母娘共同じ「きくこ」なのだ。そんなところがまた、肉子ちゃんなのである。

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サラバ! 西加奈子

 私はあなたを愛している。
 それは絶対に揺るがない。あなたを信じているからではない。あなたを愛している私自身を、信じているからよ。
(本文引用)
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 書店に寄るたびに買おうかどうか迷っていたが、角田光代さんが上巻を鞄に入れて持ち歩いていると知り(「BRUTUS」2015/1/1・15合併号より)、購入。
 そして今は、その選択が間違ってなかったと胸を張って言える。もっと早く買っていれば、もっと胸を張れたであろうが。

 現在、直木賞候補にもなっている本書は、一人の少年の成長物語。とはいえ、ただの成長ではない。
 彼の人生は尋常じゃない難局で埋め尽くされている。母親の胎内から左足を出した瞬間から、たいへんなデコボコ道を歩くこととなってしまったのだ。
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 主人公・圷歩はイランで生まれた。家族は石油会社に勤める父親と、美しい母親、そして4歳年上の姉だ。
 この家族、父親は優しい常識人だが、とにかく母親と姉が強烈な個性を放っている。
 母親は常に自分の容姿端麗ぶりを前面に打ち出し、お世辞にも容姿端麗とは言い難い姉は「自分を見てほしい」とばかりに狼藉を重ね、家族にも学校にもつまはじきにされる。そんな彼女たちを見つめる歩は、常に目立たぬように生きることを旨とする。

 その後、家族は日本への帰国、エジプトへの赴任、そして再度の帰国と慌ただしく過ごすが、そのなかで圷家は回復不能なまでに壊れていく。
 歩はそこから逃げ出すように、実家を離れて生きていくが・・・?
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プロフィール

アコチム

Author:アコチム
反抗期真っ最中の子をもつ、40代主婦の読書録。
「読んで良かった!」と思える本のみ紹介。
つまらなかった本は載せていないので、安心してお読みください。

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