評価:★★★★★
音楽好きな人であれば、過去10年か15年のあいだに有名ミュージシャンのチケット価格が大きく上がったことを、実感できるのではないでしょうか。(本文引用)
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「こんな授業なら、そりゃ受けたいはずだよ!」
読みながら、無意識にそう叫んでいた。
本書のもとは、スタンフォード大学「最優秀講義賞」受賞講義。
スタンフォード大学の最優秀講義などと聞くと、それだけですでに「ついていけない」と思ってしまう。
入門とはいうものの、おそらく「どこが入門なの?」と怒りを覚えるぐらい難しいのだろう、と半ばあきらめ気分で手に取った。
(※ではなぜわざわざ難しそうな本を買ったかというと、兄がかつてスタンフォード大学に留学し、勝手に縁を感じたからである。) ところがこれがホントにホントの“入門レベル”だった。
そして何より面白い。
昔、「
経済ってそういうことだったのか会議
」という本(大好き!)があったが、本書にはこんなサブタイトルをつけたい。
「経済学ってこんなに面白かったのか講義」
(・・・あれ?ゴロ悪いですか?)
“難しいことを易しく、易しいことを深く、深いことを面白く”とはこういうことを言うんだなぁ~と、惚れ惚れ。
コーヒー豆の価格が上がったら、カフェはコーヒーの値段を上げられる?
ではタバコはどう? ついでに薬物は?
お金が海の底に沈んでも、難なく取引できる島があるってホント?
信条に反して、わざわざ「差別」を売りにする企業の真意とは?
どうすれば貧困地域を、真に支援できる?
価格決定、格差、労働、そしてそもそも「お金とは何か」。
本書は経済学をごくごく初歩から解説。
小学校高学年の子でも、興味を身を乗り出して聴ける講義となっている。
経済学を最速で頭にしみこませるなら、ピッタリの一冊だ。
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■「スタンフォード大学で一番人気の経済学入門」内容
本書はミクロ編・マクロ編の二分冊。
普通なら「マクロ編」から読むところだが、本書は「ミクロ編」から読むのが推奨されている。
まずミクロ編では、私たち個々人の日々の活動から経済学を解説。
そして企業、政府、世界の格差へと話を広げ、経済の動き・働き・今後の課題を説いていく。
マクロ編では失業やインフレ、財政赤字、貿易など、よりグローバルに視野を広げた内容に。
二冊合わせて、国内外が互いに及ぼす経済活動、そして「自分の何気ない行動・選択」と世界経済との関連性が見えてくる。
さて私たちの購買・労働といった経済活動は、世界とどうつながっているのか。
そして今後、世界はどうなっていくのか?
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■「スタンフォード大学で一番人気の経済学入門」感想
本書はこんな人におすすめ。
「経済学ってつまらない。でも学ばなきゃ・・・でもやっぱりつまらなそう」
そんな風に立ったり座ったりして、結局座りこんでしまう人に、私は本書を手渡したい。
なぜなら、純粋にストレートに「面白い」から。
そして自分の行動と経済が、ピッタリくっついていることを実感できるから。
経済なしでは自分は一歩も動けない。
そして自分の行動・選択なしでは、経済もまた一歩も動けないことがよーくわかるからだ。
そんな「当事者意識」を最も感じることができるのは、ミクロ編の価格弾力性。
風邪薬やコーヒーは需要弾力性は高いが、糖尿病薬やタバコは非弾力的と本書は解説。
これは「安い代用品があるか、その人にとってどれだけ必要か」による。
風邪薬はより安い薬で代用できるし、コーヒーは他のお茶を飲んだり、家で飲んだりと切り替え可能だ。
だがインシュリンとタバコはそういうわけにはいかない。
インシュリンは患者にとって決して代用できない、大事なもの。
そしてタバコはコーヒーよりはるかに依存性が高いので、価格が上がっても需要は変わらないのだ。
さらに目先を変えると、世界的画家の絵画も当然、非弾力的である。
と、ここまではわりと「よくある」価格弾力性の話だ。
私が「確かに!」と手を打ったのは、ロックバンドのチケット代だ。
大物とまでは言えないバンドの場合、コアなファンがあまりついてないので、チケットの需要弾力性が高い。
チケット代が安くなれば売れ、高くなれば売れないという、どことなく悲哀漂う結果となる。
しかし熱狂的なファンが多い大物アーティストの場合、非弾力的。
いくらチケット代が高くても、ライブに行きたい人が多いからである。
そして価格設定側は、需要弾力性を見ながら適正価格を探っているという。
これはもうロックファンとしては、膝を砕くほど納得の内容。
「そうそう! そうなのよ! 東京ドームのライブとか米粒ぐらいしか見えないのに、なんでこんなに高いんだろうと思ってた!」と疑問が氷解した気分だ。
そうそう、私の友人はX●APANのライブに1人3万出したらしい。その価格でも売れるとは、もはや有名画家レベルの「非弾力ぶり」である。
(※ちなみにこのティモシー・テイラー氏、わりとロック好きなのか、マクロ経済の比喩でも「ロックバンドのライブが~」と話している。)
このように本書では、豊富な事例をもとに「経済の謎」を易しく深く面白く解説。
誰もが「そういうことだったのか!」と目がキラキラしてしまう内容となっている。
その他、「そもそものお金の機能」についても興味深いエピソードで解説。
ある島では、お金が海底に沈んでも、その「お金」で取引してるというが、そんなことは可能なのか?
これは決して「頭の体操」ではない。
お金本来の機能を考えれば、十分可能。
ある意味、海底に沈んだお金で買い物ができるということこそ、お金本来の機能を生かした方法といえるのだ。
どうだろうか。
「なんだかオイラ、ワクワクしてきたぞ!」と思わないだろうか。
ワクワクしなかった方、あるいはもっとワクワクしたい方は、ぜひ本書を実際に読んでいただきたい。
「経済学って難しい」という固定観念が完全崩壊。
「こんなに経済学って面白かったの!?」と目をむくことだろう。