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「あなたのことはそれほど」にハマッたらこれ!山本文緒「あなたには帰る家がある」(ちょっとネタバレあり)

評価:★★★★☆

  「どうして結婚したの? 結婚すると何かいいことある?」
(本文引用)
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 今、ドラマ「あなたのことはそれほど」が話題になっています。
 昔はドラマといえば「不倫」だったのに、めっきり不倫ドラマって減りましたよね。

 そんな時代なだけに、純粋に不倫を題材としたドラマは新鮮なのかもしれません。

 さて、「あなたのことはそれほど」にハマっている方におすすめしたいのが、この「あなたには帰る家がある」
 
 とにかく怪しくて気持ち悪くて、倒れそうなほどヒヤヒヤする恋愛小説です。

 何といっても作者は、人間の不気味さを書かせたら天下一品の山本文緒さん。
 そのゾワゾワ度、ゾクゾク度は悶絶ものです。

 救いようもないゲスな恋愛劇を堪能したい方や、それを通してとことん肝を冷やしたい方。

 そんな方は間違いなく楽しめる一冊です。
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 茄子田太郎は高校教師。美しい妻と2人の男の子がいるが、とにかく女好き。
 若い女性をデートに誘おうとしたり、バーで女性の体を触ったり・・・。家族や周囲は、そんな太郎の姿に呆れています。





 ある日、茄子田一家は家のリフォームを考えることに。
 そのモデルルームで、茄子田の妻・綾子と営業マン・佐藤秀明は惹かれ合います。

 でも秀明には、妻・真弓と1歳の子どもが・・・。

 茄子田太郎と綾子、佐藤秀明と真弓、彼らの泥沼不倫劇はいったいどう転がっていくのでしょうか?

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恋愛中毒  山本文緒

どうか、神様。
いや、神様なんかにお願いするのはやめよう。
どうか、どうか、私。
これから先の人生、他人を愛しすぎないように。

(本文引用)
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 誰にでも、「読書に没頭したいときには、この作家!」と決めている小説家がいるのではないだろうか。私にとって、山本文緒さんはそのひとりだ。

 特にこの小説の面白さは、何年経っても何回読んでも色あせない。
 業の深い人間たちが交錯するドラマ性はもちろん、全く関係のなさそうな事象同士が見事につながる「仕掛け」も実に見事で、ヒューマンドラマ・ミステリー・サスペンス全ての要素が惚れ惚れするほどバランスよく詰まっている大傑作だ。
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 編集プロダクションに勤める井口は、恋人だった女性のストーカー行為に悩まされる。ついに女性は井口の会社にまで押しかけるが、女性事務員の水無月がそれを追い払う。


 実は井口は以前から、どこか只者でない雰囲気のある水無月のことが気になっていた。それは恋愛感情ではなく、「この人はどういう人なのだろう?」という純粋な疑問だ。
 
 そしてある日ついに、井口は水無月自身の口から、彼女の人生について聞かされることになる。

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群青の夜の羽毛布 山本文緒

「どこまでやったら親孝行で、何をしなかったら親不孝なんだろう」(本文引用)
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 先日、娘と大ゲンカをした。お互い強情なので、それぞれの部屋に引きこもってしまった。その時、ふと手に取ったのがこの本。
 ずっと前に買ったまま、読んでいなかった本なのに、こんな時に読むことになるなんて・・・。
 それは、神の啓示だったのかもしれない。なぜなら本書は、母娘が奏でる、あまりに恐ろしい狂奏曲なのだから。
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 主人公のさとるは大学を中退後、ずっと実家で家事を担っている。家族は他に、イマドキな妹みつると、厳格な母親がいる。
 さとるには、鉄男という恋人がいた。鉄男は少し年下の大学生で、さとるの浮世離れした美しさに心惹かれ、真剣に交際している。


 しかし鉄男にとってさとるは、あまりにも謎の多い女性だった。
 異常に厳しい門限、食事中の過度な沈黙、極端にやせた体・・・。

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なぎさ 山本文緒

 おれはいったい何度、同じ過ちを繰り返せば気が済むのだろう。
(本文引用)
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 いい。すっごくいい!この本と出会えた今年は、自信をもって良い年だったと言える。そして来年は、さらに良い年になるに違いない。

 意志が弱かったり、怠け者だったり、優しすぎたり、神経質だったり・・・人は生まれもっての性質からなかなか逃れられず、同じ過ちを繰り返す。「こんな人間になって成功したい」と思っても、気が付けば堂々巡りをしているばかりで何一つ進んでいない。そんな自分に苛立っている人は、多いのではないだろうか。

 この小説は、そんな人の背中をそっと、いや勢いよくドーン!と押してくれる。「ダメな自分」という名の高い跳び箱を、思い切り飛び越える踏み台となってくれる。

 こんなに絶望ばかり描かれているのに、なぜだろう?


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 この物語の登場人物は実に多種多様だが、皆、ある点で共通している。
 それは「人生に絶望している」こと、そして「焦っている」ことだ。

 毎日、夫と部下の弁当を作る主婦・冬乃、売れっ子漫画家だった妹の菫、外回りと言っては釣り堀で糸を垂らす冬乃の夫、お笑い芸人への夢破れ、ようやく勤めたブラック企業で血反吐を吐きつづける川崎、その川崎をプライベートでこき使うヘアサロン経営者・・・。

 彼らは、どうにかして人生から這い上がろうと日々格闘するが、気が付くとズルズルと引き戻されている。その「なんでまたこうなっちゃうんだろう?」と頭を抱えたくなる展開は、恐ろしいほど生々しく、強烈に引き込まれる。

 なかでも、川崎の「同じことの繰り返し」ぶりがよい。会う人会う人に、お笑い芸人時代の話をしては興味を惹きつけ、女性と関係をもってはボロ雑巾のようになって帰宅し、ろくに風呂も入らず朝を迎え、常に不快な体臭をはなつ。

 その生活スタイルが、どういうわけか再起を図っても図っても改善されず、今度こそと思った場所でも「クビ」を言い渡される。

 この川崎の「失敗つづきの日々」には、思わず「わかるなぁ」と強くうなずいた。状況は違えど、人間、生来のものはなかなか変えられず、それに足を引っ張られるものではないだろうか。

 またここで諦めてしまった。またここで他人に押し切られてしまった。またここで小さな欲望に負けてしまった。

 そんな「自分をどうにも変えられないもどかしさ」を、川崎が情けなくも全身全霊で代弁してくれている。本当に成功しか知らない人間は、川崎の姿が全く理解できないかもしれないが、一度でも慙愧の思いを味わったことがある人なら、川崎の姿に同化してしまうだろう。

 さらにこの物語には、天使と悪魔もいる。
 
 時間をかけてゆっくりと静かに自分の声に耳を傾ける人物と、今すぐ自分を変えてくれそうな人物。
 この2人が入れかわり立ちかわり、失敗を繰り返す人達の前に現れる設定が、実に巧みで面白い。
 今、自分が追い詰められているとしたら、果たしてどちらの手をとるべきか。最後の思わぬ「裏切り」で、答えが明白になる。

 こう書くと絶望だらけのストーリーのようだが、その「裏切り」で、彼らが一気に成長する姿は実に痛快。
 特にラストの、川崎の言葉がいい。 

「おれは、お前のようには絶対ならない」


 もし今、「次こそは」と思いつつ、どうにも歩き出せない状態にあるならば、ぜひ読んでみてほしい。
 自分の弱さを直視する勇気と、一歩を踏み出す行動力が得られるはずだ。

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価格:1,680円(税込、送料込)


プロフィール

アコチム

Author:アコチム
反抗期真っ最中の子をもつ、40代主婦の読書録。
「読んで良かった!」と思える本のみ紹介。
つまらなかった本は載せていないので、安心してお読みください。

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