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天涯の花 宮尾登美子

 神さまはいたずら好きで、私にくれた道のなかに、ところどころ分かれ道を作っておいでになるみたいじゃ。どっちでもええほうへ歩いてゆきなさいとじっと天から眺めておいでになるらしい。(本文引用)
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 宮尾登美子さんを偲び、前回は「蔵」について書いたが、この本も紹介したい。
 以前、産前休暇中に読み、「子どもを育てる」ことの重みについて深く考えさせられた作品だ。

 主人公の珠子は、養護施設で暮らしている。赤ん坊の時にお寺に捨てられていたのを、発見されたのである。
 面立ちが良く、賢く優しい珠子は施設でも特に可愛がられ、園長は彼女を養子に迎えることを考えるが、珠子は施設を出ることを希望。山奥に住む宮司の養女となる。
 里から遠く離れた家で、厳しい自然のなか珠子は新しい生活を始めるが、様々なことから守られてきた珠子にとって、それは予想以上に戸惑いの大きいものであった。

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「蔵」 ~宮尾登美子さんを偲んで~

 今度生れる子供は、思い切って炎のように燃えさかる、または疾風のようにすさまじい、強い強い名をつけなされ、必ずやすこやかに成人してお家を盛り立てましょう
 (本文引用)
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 作家・宮尾登美子さんが、昨年12月30日に亡くなった。

 ちょうど先日、大河ドラマ「花燃ゆ」の宣伝で檀ふみさんと井上真央さんを観て、この小説を再読しようと思っていた。その矢先の訃報だっただけに、非常にショックを受けた。

 その小説とは、「蔵」。
 ある蔵元の、流転の物語である。

 越後の大地主であり、造り酒屋も営む田乃内家に、ある日女の子が生まれる。
 その子は「烈」と名づけられた。

 しかし烈は、成長と共に目の異常を訴えはじめる。
 父親は東奔西走して良い医者を探すが、その甲斐なく烈は失明する。
 しかし烈は、決して人生を諦めなかった。彼女は烈しく、一途に、己の道を切り開いていく-。 
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 これだけ聞くと、単なる「一人の少女の成長物語」のように思われるかもしれないが、前述したとおり、これは「蔵元」の流転の物語。田乃内家全員が一人残らず、襲いかかる運命と全身全霊で戦っていくのである。

 そのなかでも心打つのが、烈の養母・佐穂の姿だ。
 体の弱い生母・賀穂の代わりに、烈を影となり日向になり支える佐穂。その素晴らしい人間性は、田乃内家の者だけでなく読者をも魅了するが、なかなかどうして佐穂の本当の思いは叶えられない。




 その悶絶したくなるほどのもどかしさが、本書の見どころのひとつであるが、それだけにラストの爽快感が際立つ。きっと「良かった・・・。本当に、最後まで読んで良かった!」と、思わず本書を強く抱きしめてしまうことだろう。

 また、「蔵元」というものが背負う重責も色濃く描かれており、そこから大きく舵を切るストーリー展開も目が離せない。
 人、土地、家、仕事・・・全てにおいて、どれ一つとして欠けることなく読み応え満点の傑作である。
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 私がこの小説を読んだのは、刊行当初。おそらく20年近く前になると思う。
 あまりの面白さに職場の人に貸したところ、大好評で、気がつけば10人近くに貸す羽目に。
 皆、あっという間に読み切り、中にはケーキまでつけて返してくれた人もいた。

 そんな傑作ゆえ、ドラマ化されると聞いた時は飛び上がるほど嬉しかった。
 そしてドラマそのものも、たいへん素晴らしいものだった。

 子ども時代の烈を井上真央さん、成長した烈を松たか子さんが演じたわけだが、このドラマを観て「松たか子という女優はすごい!」と震えるほど感動した。自分の思いを父親にぶつける烈、雪のなかを命がけで歩く烈・・・あの燃えるような松さんの演技は、20年経った今でも頭から離れない。

 そして、佐穂を演じたのが檀ふみさんだった。これがまた恐ろしいほどピッタリで、「花燃ゆ」の宣伝で井上真央さんを見つめる檀さんの優しい眼差しを見ては、健気な佐穂を思い出した。


 宮尾作品がもう読めないことは、悲しい。
 しかし、宮尾さんの遺してくれた感動は、これからも何十年、何百年と語り継がれることだろう。

 心よりお悔やみ申し上げます。 

 

プロフィール

アコチム

Author:アコチム
反抗期真っ最中の子をもつ、40代主婦の読書録。
「読んで良かった!」と思える本のみ紹介。
つまらなかった本は載せていないので、安心してお読みください。

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