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浅田次郎「一路」感想。「仕事を本当に成功させるコツ」が詰まった国民的ベストセラー。

 「父はかねがねこう申しておりました。武士の面目は他聞他目にあらず、常に自問自目に恥ずることなきよう生きよ、と」
(本文引用)
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 江戸時代版・半沢直樹!
 はたまた江戸時代版「スカッとジャパン」。

 小狡い悪人どもを、「正しい行い」で次々復讐。
 ただただ清廉潔白な行いをすることで、敵が歯ぎしりするという、何とも痛快な一冊です。

 現在、仕事に悩み、「ごまかしちゃおうかな」「ズルしちゃおうかな」「逃げようかな」と思っている方、ぜひ「一路」を読んでみてください。

 「逃げず焦らずごまかさず、不器用でもいいからやり抜こう!」と、エネルギーが爆発的にわきますよ。

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浅田次郎「姫椿」。ミステリーじゃないどんでん返しに二度読み、三度読み。

評価:★★★★★

 「それにしても愕いた。もっとも、トラブル・メーカーと異名をとった男の、いわばファイナル・ステージですから、そのポテンシャルの大きさといったらあなた、人間わざとは思えませんでしたよ」
(本文引用)
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 「浅田次郎さんって、本当に作家の名人だなぁ・・・」

 「姫椿」を読み、今さらながら心の奥からそう思った。
 本書に登場する「ある男」も、「人間わざとは思えない」行動をとる。

 しかし浅田次郎さんこそ、人間離れした業師。

 思わぬ結末に「ええーっ!?どういうこと?」と頭が混乱。
 二度読み、三度読み、四度読みし、見事にはさみ込まれた伏線に、思わず戦慄。

 「う、うまい・・・」と、北島マヤの演技を見た審査員(@「ガラスの仮面」)のような声を出してしまった。


 「どんでん返し」や「読者をだます」のは、ミステリーだけではない。
 フツーにありそうな日常ドラマのほうがよほど、人を頭から食ってしまうのだ。
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 「姫椿」は8編から成る短編集。
 
 飼い猫を喪い、新たな幸せを得ようともがくが、どうしても「誤った幸せ」を求めてしまう女性。
 死に場所を捜し求める間、運の良いタクシー運転手と出会う社長。
 堅実な商売で成功するが、誰にも言えない秘密を抱え、とうとう旧友に吐き出す者。
 飛行機で隣になった男性に、自暴自棄気味にサラリーマン人生を語る男性。
 外で倒れていた女性を介抱したところ、とんでもないトラブルに巻き込まれる紳士・・・。

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 どの話の主人公も、大きな後悔を携えながら、人生の大海を何とか泳ごうと必死。
 時に「このまま溺れてもいいかなあ」とヤケになるが、もがき苦しみながら生きている。

 さて、こう書くと「どこにどんでん返しなんてあるの?」と思われるかもしれない。

 確かに「どんでん返し」と言えば、ミステリーの専売特許。
 しかし本書を読んでいたら、少し考えが変わった。

 「日常の中にこそ、信じられないようなどんでん返しがあるのでは・・・?」

 そう強烈に思ったのは、第5話「トラブル・メーカー」。
 ある男性が飛行機でオーストラリアに向かう際、隣席の男性に話しかけられる。

 浜中と名乗る男は、会社の早期退職制度を使い、息子が住むブリスベンへ。
 妻とは別れ、娘は妻の側についたという。

 浜中は同期の仙田という男について、とうとうと語る。
 同期のよしみで、浜中は仙田と懇意にするが、実は仙田はとんでもないトラブル・メーカー。
 
 借金や女性関係で問題がつきず、ついに浜中や同部署の女性社員にもとんだ迷惑をかける。

 そしてついに仙田は、浜中の人生に決定的なダメージを・・・。

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 この結末は、全く予想できないもの。
 ラストを読めば十人が十人、「えっ? これ、どういうこと? えっ? えっ?」と思わず読み返すだろう。

 そしてよ~く読むと、「どんでん返し」をにおわす言葉があちこちに・・・。
 う~ん、まいりました!
 浅田次郎さん、やっぱり名人だわ・・・と、巨匠の手腕に深く深~くうなった。

 その他の物語も、ちょっとした「驚きの結末」が。
 人生、驚きの結末があるからこそ面白い。
 だから生きるのを、あきらめてはいけないんだろうな・・・と、強く勇気づけられた。

 ミステリー顔負けのどんでん返しと、浅田次郎作品らしい、何とも言えない温もり。

 名人作家の技が凝縮された一冊は、一食抜いてでも読む価値あり!だ。
                                                                     
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「天国までの百マイル」(浅田次郎)感想。大晦日に1年分泣きました。

評価:★★★★★

 俺は破産者で、一文なしで、女房子供にも愛想をつかされたろくでなしなんだ。頭の中がごちゃごちゃで、何をしているのかもよくわからない。ただ、おかあちゃんを殺しちゃならないと、そればかりを考えている。
 俺、変かな。

(本文引用)
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 年末年始になると、どうしても親のことを考えてしまう。
 その理由は実家に帰省するから。

 毎年毎年、「一緒にお正月を過ごせるのは、あと何回なのだろう」・・・そんなことを考えてしまう。

 私の母は、末っ子の私が結婚した時、「ああ、これで安心して死ねる」と思ったらしい。
 その後15年近く経ち、幸いは母元気だが、年も年なのでいつ何があってもおかしくない。

 「一つでも多く、嬉しいことを報告したい。楽しいことを伝えたい」
 そんな思いで、私の子どもや私自身、夫についてのあれこれをメールや電話でちまちま報告している(本当はLINEにしたのだが、なぜかLINEには抵抗があるらしい・・・)。



 そこでこの年末、読んだのが「天国までの百マイル」。
 「親孝行を考えるのにいいかなあ」と、軽い気持ちで読んだのだが・・・これがもう、軽い気持ちで読めるようなもんじゃなかった。

 とにかく泣ける、どうしようもなく泣けて泣けて仕方がない。
 顔中の水道管が破裂したかと思うぐらい、涙で顔がグシャグシャになってしまった。

 浅田次郎さんは「平成の泣かせ男」と言われているそうだが、ホント、そのとおり。
 しかし本書は、ただのお涙頂戴小説ではない。

 本書では、人間のとてつもなく悪い面も容赦なく描いている。
 人間不信になりそうなのど、嫌な部分も膿を出すように描き切っている。

 なのにこれほどまでに泣ける「天国までの百マイル」。
 猛烈に泣ける秘密は、どこにあるのだろうか。 
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■「天国までの百マイル」あらすじ



 主人公の城所安男は、現在一文無し。
 かつては不動産業で贅沢な暮らしをしていたが、バブル崩壊で会社は倒産。

 今は安月給を、別れた妻子に全て渡し、食うや食わずの生活を送っている。

 そんななか、母親の狭心症が悪化。

 主治医からも見放され、安男の兄姉たちもろくに見舞いにも来ない状況だ。

 しかし安男だけはどうしても、母親を見捨てることができない。

 そこで安男は一念発起。
 「神の手」を持つ外科医のもとに、母をこっそり運び出す。

 距離はざっと百マイル。
 職場の車にマットを敷き詰め、命をかけた旅に出る。

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■「天国までの百マイル」感想



 本書がどうにも泣けるのは、ただ「母の命を助ける」という物語ではないからだ。

 この物語の素晴らしさは「誰もが皆、胸いっぱいの愛を秘めている」という点だ。

 羽振りの良かった頃は、母親の容体に見向きもしなかった安男。
 養育費をむしり取るような生活をする前妻。
 悪魔のような高利貸し、ふがいない安男に手を焼く社長、そして浮草のように暮らす安男の恋人・マリ。

 誰も彼も、本当に悪い人などいない。
 「人生の良い時」に気づかなかった愛に、「最悪の時」に気づき、胸いっぱいの愛を開花させる。

 その経緯がどうしようもなく泣けるのだ。

 さらにその人間の不器用さを知るように、「愛」を受け止める母の姿勢が胸を打つ。

 (貧乏なおまえに助けて欲しくはない。金持ちのおまえに見捨てて欲しい。おかあさんはたぶん、そう思っている)

 愛とは何とややこしいものなのか。
 本当に相手を喜ばせる、幸せにするとは、何と難しいことなのか。

 実は私も親を喜ばせているようで、「本当の喜び」にはまだ一マイルも進んでないのかもしれない。

 来年は、夫や子ども、親兄弟、友人やお世話になっている方たちが「本当に嬉しいと思うこと」を、不器用ながら探していきたい。
 
 一年後には、せめて一マイルぐらいは進んでいますように・・・。

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日本最高のクリスマス小説誕生!?浅田次郎「おもかげ」

評価:★★★★★

 もしこれが聖夜の奇跡であるのなら、禁忌を踏み越えて彼女に語りかける勇気を与えてほしい。僕は初めて神に祈った。
(本文引用)
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 まさかクリスマスが舞台の小説とは思わず、手に取ったのですが・・・これ、ディケンズの「クリスマス・キャロル」級のクリスマス・アンセムになりそうです!

 神様に幸せを祈り、人々の幸福を祝い、1年を振り返り、自分の人生を振り返る・・・。
 「おもかげ」には、そんな「クリスマスに思うこと」全てが詰め込まれています。

 定年退職の送別会の帰路、電車で倒れた一人の男性は、それまでの人生に何を見るのか。
 男性の快復を願う人々もまた、彼の人生を通して何を見るのか。



 ページをめくるごとに・・・読み終えたページを支える右手が重くなるごとに、彼らのの人生の重みが伝わってくる気がして・・・ラストは涙で文字が読めませんでした。

 だから「おもかげ」は、最高のクリスマス小説。

 設定がクリスマスというだけでなく、世界中の人々の幸せを願いたくなる至高のファンタジーです。
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■「おもかげ」あらすじ



 竹脇正一は、国立大学から一流商社に入り、関連会社の役員を務めたエリート。

 定年まで勤めあげますが、その送別会の帰りに電車の中で倒れます。

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 意識を失ったまま病院に運ばれ、ほぼ「死は確実」といった状況。

 そこに妻、義理の息子、幼なじみ等が現れます。

 彼らが語りかけるうち、正一の複雑な境遇が徐々に明らかになり・・・?

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■「おもかげ」感想



 「おもかげ」は非常にファンタジックな人間ドラマですが、ややミステリーの要素もあります。

 いったい「竹脇正一」とはどんな人間なのか。

 外見はスマートでハンサム、一流大学を出て一流商社に勤め、今は関連会社とはいえ役員に収まっている。

 非の打ちどころのないエリート人生と言えます。

 でも正一には、最初から何か影がつきまといます。

 たとえば正一の娘の夫、タケシとの会話。

 正一の娘・茜は百貨店の総合職として働くキャリアウーマンでしたが、何のはずみか元不良少年タケシと家庭をもうけることになります。

 タケシは茜と結婚するなど分不相応と感じ、結婚の挨拶で正一にこう言います。

――俺、何もねえんだけど。


 それに対し、正一はこう返します。

――当たり前だ。生まれてくるとき、何か持っていたか。


 それでもタケシはなおも、こう言います。

――けど、途中でいろいろ手に入れる。


 正一はこう返します。

――死ぬときは何も持っていけない。


 これだけ聞くと、「正一は誰に対しても公平な好人物」という印象があり、微笑ましく思えます。
 
 しかし読むうちに、この正一の言葉は他の様相を帯びてきます。

 竹脇正一は、最初から人生というものに期待していないのではないか――そんな哀切が押し寄せてくるのです。

 その哀切は次第に謎に変わり、読む進めるにつれて「竹脇正一」という人間の全貌が見えてきます。

 ああ、そういうことだったのか、と。

 「生まれてくるとき、何か持っていたか」という言葉には、そんな思いが込められていたのか、と。

 竹脇正一をめぐる人間たちの愛が、竹脇正一という人間の輪郭をくっきりと映し出す――そんなミステリー性が、「おもかげ」の大きな魅力!
 
 「竹脇正一という男に隠された謎」が、ただの「お涙頂戴」にせず、読者をつかんで離さない魔力となっています。

 だからこそ、「おもかげ」は最高のクリスマス・アンセムと言えます。
 
 正一に「帰ってきて」と願いつづける人、そして眠りつづける正一の夢に現れる人々は、さながら「クリスマス・キャロル」の精霊たち。
 
 時に正一に後悔を与え、喜びを与え、その結果雲一つないまっさらな気持ちにして、聖夜へと誘います。

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 どんな形で聖夜に向かうのかは、これまた非常に謎めいていますが、そこがすなわち「浅田イズム」。

 謎を残すことで、読み手は自分を竹脇正一と重ね合わせ、「自分は今までどう生きてきたか」「それを踏まえて、自分はこれからどう生きるか」をじっくり考えることができるんです。

 そして自分の人生を考えると、不思議と自分の人生を支えてくれた人々に感謝の気持ちが産まれてきます。

 誰かの愛を感じることは、誰かに対する愛も感じること。
 
 頑なだったスクルージの心がほぐれるように、「おもかげ」を読んでいると心が柔らかくなってきます。

 もう今年のクリスマスは終わってしまいましたが、季節を問わずぜひ手に取ってほしい一冊。

 一年の締めくくりに読むのも、おすすめですよ。

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「帰郷」 浅田次郎   感想

評価:★★★★★

  「そりゃああなた、二十三年も生きたなんて考えるほうがおかしいですよ。二十三年しか生きられなかったんでしょうに」
(本文引用)
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 第43回大佛次郎賞受賞作。

 このような小説が書かれる世の中でありますように、そして、このような小説を読むことができる世の中でありますように。読みながら、そんなことを願っていた。
 なぜなら戦争当時は、この小説に書かれているような言葉を、決して口にできなかっただろうから。
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 本書は、戦争によって人生を捻じ曲げられた人間たちを描いた短編集だ。
 
 新妻と幼子を残して戦地に赴き、生きながらにして家族を失ってしまった兵士、子どもと行った遊園地で、戦争の恐怖がフラッシュバックしてしまう父親等、主人公はいずれも、心も体も人生そのものも大きな痛手を受けた者ばかりだ。



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王妃の館 浅田次郎

 「『血と戦い、運命と戦い、おのれの内なる見えざる敵と戦う者こそ、真の英雄』・・・・・・そうだっ、その通りだ!」(本文引用)
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 今年のGWに、映画「王妃の館」が公開される。
 浅田次郎原作、水谷豊主演と聞けば、これは観ないわけにはいかないだろう。
 しかも水谷豊の役名が「右京さん」と聞けば、もう黙ってはいられない!

 倒産寸前の旅行会社が仕掛けた謎のパリツアー。その参加者は、いずれも「ワケあり」。長年の不倫の末、退職した女性、多額の負債を抱え死に場所を探しに来た夫婦、世界を股にかけるカード詐欺師、押しも押されもせぬベストセラー作家・・・。

 <光>(ポジ)と<影>(ネガ)に分けられた、ドタバタトンデモ旅行から見えてきたものとは一体?
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 桜井香は、長年の上司との不倫の末、会社を退職。心に大きな傷を受けたまま、退職金をはたいてパリ10日間ツアーに参加する。その値段は何と149万8千円。
 それもそのはず、泊まるホテルはルイ14世が寵姫のために建てたというシャトー・ドゥ・ラ・レーヌ――「王妃の館」。香は、人生をやり直す気持ちでツアーに参加する。

 一方、同じ頃、同じ旅行会社が、同じツアーをもうひとつ計画していた。日程も宿泊先もまるっきり同じ。ただし、こちらは19万8千円という破格の安さだ。

 内容が同じなのに、値段が大違いの2つのツアー。実はこれには、驚きのカラクリが隠されていたのだ。




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見上げれば星は天に満ちて ~心に残る物語 日本文学秀作選~ 浅田次郎編

 天に躍り地に伏して嘆いても、誰一人己の気持を分つて呉れる者はない。丁度、人間だつた頃、己の傷つき易い内心を誰も理解して呉れなかつたやうに。
(中島敦「山月記」より)
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 齋藤孝氏の「学校では教えてくれない日本語の授業」を読んで以来、“名文”というものを激しく欲するようになった。唄うような踊るような流麗な文章を味わいたい・・・そんな欲求が強くなってきた。

 そこで手に取ったのが、「見上げれば星は天に満ちて」
 この本には、ベストセラー作家浅田次郎氏が「心に残る物語」という基準で選んだ13篇の物語が収められている。
 「小説家である前に、小説好き」と語る浅田氏が選ぶ、空に輝く星々のような物語とは――。
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 本書に登場する物語の作家陣は、誰もが知る著名人ばかりである。

 
 森鴎外、谷崎潤一郎、芥川龍之介、川端康成、山本周五郎、井上靖、松本清張・・・。

 主に明治から昭和後半にかけて活躍した、誰でも一つは作品を読んだことがあるであろう、豪華メンバーである。

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プロフィール

アコチム

Author:アコチム
反抗期真っ最中の子をもつ、40代主婦の読書録。
「読んで良かった!」と思える本のみ紹介。
つまらなかった本は載せていないので、安心してお読みください。

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