人間とAI共存のヒントがここにあった!「人間の未来 AIの未来」山中伸弥・羽生善治
「先生、大変です。先生の仮説は間違っていましたが、すごいことが起こりました」と叫びました。この瞬間、僕は自分が研究者に向いていると感じたんです。
(本文引用)
______________________________
私は本書を読みながら、ホ~~~ッと胸をなでおろしました。
わが家には小学生の子どもがいるので、「人間とAIの関係」には、自ずと興味が向いてしまいます。
何もかもがAIに乗っ取られて、「子どもが就ける仕事はないのか?」なんて、やたらと心配したりして。
「来年のことを言うと鬼が笑う」と己を叱りつつも、ついつい子どもの将来を危惧してしまいます。
そこで手に取ったのが、「人間の未来 AIの未来」。
日頃から、羽生善治永世七冠と山中伸弥先生にまつわる本は、なるべく読むようにしているので、「これはマストバイ!」とばかりに飛びついて購入。
日本の二大知性による「人間とAIの未来」を読んでみたところ、私の危惧はまさに「鬼に笑われる」ようなものだとわかりました。
人間とAIが共存する社会・・・本書を読んだら、何だかオイラ、ワクワクしてきたぞー!
_________________________________
■「人間の未来 AIの未来」概要
本書は、羽生善治永世七冠と、ノーベル賞受賞者・山中伸弥先生との対談。
iPS医療の発見から現在までの経緯や、再生医療の見通し。
コンピューター将棋・囲碁と、人間の棋士との関わり。
それぞれの世界で頂点を極めた達人ならではの視点で、人間とAIの望ましい共存のありかたを語っていきます。
さて、AIの進化で、本当に人間の居場所はなくなってしまうのでしょうか?
__________________________
■「人間の未来 AIの未来」感想
本書を象徴する言葉は、山中先生の「この一言」です。
つまりAIは、物事を選択・判断する際の材料をくれるひとつ。「だから多分、AIって抜群に優秀な部下の一人なんですよ」
あるプロジェクトにおいて「こんな選択肢もおすすめ」とか「その方法だと成功確率は30%」などと、優れたサポートをしてくれる部下なんです。
では上司は誰かと言うと、もちろん「人間」。
最終決定権は人間が握る、というのが羽生氏・山中氏共通の意見です。
たとえば山中先生は、患者の立場にたち、AIと人間医師との関係性をこう語ります。
AI君は「このがんは、いかなる治療をしても九十九・九九パーセント効果がありません。だから治療は中止して、ターミナルケア(終末期医療)に移行しましょう」と論理的に言ってくるかもしれません。
でも、そういうことがわかった上で、ご本人や家族が「いや、それでもあきらめたくない。最後まで闘いたい」と希望すれば、AI君が何と言おうとも、希望をかなえてあげるべきでしょう。その判断はやっぱり人間にしかできません。
羽生善治氏も、将棋の指し手について、最終的には「ヒトが決める」ことを主張。
悪い手を打ってしまっても、相手がどう出るかはまだわからない。
失敗の可能性が高い「賭け」に出るような手を打っても、勝負はどう転がるかわからない。
そんな「棋士としての勘」や「とにかくやってみる」思考を有り体に披露し、「AIではできない、将棋の奥義」を解説します。
ではなぜ、羽生氏も山中氏も、AIの優秀さを認めながらも「最終的には人間」であることにこだわるのでしょうか。
本書を読むかぎり、それはお二人とも「前進しなくてはいけない身だから」です。
医療の世界は確率や成功だけに目が行ってしまったら、前進・飛躍はありません。
「仮説が間違っていたのが良かった」「失敗したら、ナイストライ」
その気持ちが、多くの人を救う進歩につながっているのです。
将棋の世界も、「これ、いけるかいけないか?」で挑戦してみることで、棋界の発展や若きスター棋士が生まれます。
誰もやらないけどやってみる。
誰もやっていないからこそ、やってみる。
確率は低いかもしれないけど、何かいけそうな気がする。
AIによる数値化に振り回されすぎず、最後まで、曖昧な人間らしい「フロンティア・スピリット」を持つことが、世の中の発展には必要なんですね。
私が本書を読み、胸をなでおろした理由がおわかりいただけたかと思います。
「将来、AIにより仕事が奪われるのでは?」「子どもの未来はどうなるの?」
と心配される方は、ぜひご一読を。
AIと暮らす人間の未来が、一気に待ち遠しくなりますよ。
※最後に・・・
先日、iPS細胞の実験にまつわる不祥事が報道されましたね。
本書の対談は、おそらくその不祥事が発覚する前に行なわれたものと思いますが・・・事件を思い起こさせる言葉に心臓がドクンッとしました。
山中 難しいことに挑戦しているんですから、三年、五年と成果が出なくても当たり前なんです。そこで「三年も五年も成果が出ていないからもうダメだ」と支援を切ってしまうと、みんなが「阿倍野の犬実験」に走り出すことになる。だから、そこを担保する制度がぜひ必要ですね。