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小柳ルミ子の「パスコースがない?じゃあ、つくればいい。」という言葉は、サッカーのこと(だけ)を言ってるわけではない。

評価:★★★★★

 この「パスコースがない」というのは、「仕事をする時間がないです」というのと同じですね。「忙しくて、時間的に無理です」と言い訳をする方もいますけど、だったら「つくればいいでしょ」って思っちゃう。
(本文引用)
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 いよいよ「2018FIFAワールドカップ ロシア」が開幕する。
 それに向けて読んだのが、本書。
 小柳ルミ子著「パスコースがない? じゃあ、つくればいい。」である。
 
 小柳ルミ子さんといえば、物心ついた頃にはすでに大スター。
 子どもの頃、友だちと「瀬戸ワンタン、日暮れテンドン、夕な~み小~な~ミソラーメン・・・」などと歌っていたものだ。(若い人は知らないかな?)

 常に色んな形(「青春の食卓」とか)で話題を振りまいてくれるルミ子さんだが、まさかここへきて「サッカー解説者」として現れようとは夢にも思わなかった。



 正直に言って、本書も最初は冷やかしのつもりで手に取った。
 「芸能人のサッカー解説ねぇ・・・」といった、意地悪な気持ちがなかったわけではない。

 ところがこれが、良いことが書いてあるのだ。
 サッカーにさして興味がなくても、サッカーに詳しくなくても、得るところ大。

 「いち社会人」として生きていくうえで大切なことが、サッカーを通して余すところなく書かれている。

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 さすが、芸能界のトップに半世紀君臨してきただけある。
 小柳さんの「サッカー論」は、そのまま「仕事論」として使えるもの。

 さらに言うならば、小柳さんの「サッカーに対する愛情」は、「己の人生に対する愛情」。
 自分の人生を「愛すべきもの」にしたいのなら、本書が説く生き方をなぞるべきであろう。

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 本書は、小柳ルミ子さんの「サッカーノート」をもとに構成されている。

 選手1人ひとりを緻密に分析し、長所・短所を解説。
 
 たとえばFCバルセロナのセルヒオ・ブスケツ選手については、こう分析する。

 足は遅いし、体もそんなに強くはない。何でバルセロナに必要なのか分からないって言う人がいるくらいなんですけど、これがあるんです。状況に応じた判断と決断が迅速で、しかも的確。走るのが遅いのを、頭の回転の速さとすぐれた技術でカバーしているんです。


 
 特にルミ子さんが重視するのが、選手の人柄だ。

 「ふて腐れた顔や怒った顔も見たことがない」


 「主役もやれるのに黒子になる。そこがすごい!」


 
 本書を読むかぎり、ルミ子さんは「リーダーシップをとれる花形選手であること」以上に、「フォロワーシップができる縁の下の力持ち」であることを、選手に求めている。

 「自分のため」ではなく、「チーム全体のため」に的確に動ける選手をとにかく賞賛。
 全体最適のために動くことの重要性を、サッカーを通して熱く語るのである。

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 よってルミ子さんは、ピッチ外での言動も見逃さない。

 メッシの「努力すれば報われる? そうじゃないだろう。 報われるまで努力するんだ」
 フェルナンド・トーレス選手の「暑かろうが湿気があろうが、雨でも雪でも言い訳にはならない」等々、選手の名言を続々と公開。

 一流の人物が、どのような心持ちで仕事(プレー)をしているかを説いていく。

 ルミ子さんは「サッカーは人生の縮図である」と語るが、本書を読むと「なるほど」とうなずかずにはいられない。

 仲間にとって良いパスができるか。
 敵の足が届かない場所にパスができるか。
 チームの雰囲気を壊すような言動をとらないか。
 時に主役に、時に黒子にもなれるか。
 
 サッカーの一流選手のプレーは、確かに「充実した人生を送るために必要な行動」なのである。

 本書を読めば、サッカーの見方がぐっと深まることだろう。
 「目立たないけど、なぜかいつも出ている選手」に注目すれば、「自分だけのサッカーの楽しみ方」を見つけられるかもしれない。
 さらに言うと、「自分流の生き方」すら見つけられるかもしれないのだ。

 ちなみに本書の帯コピーは、「正論か? 暴論か?」というもの。
 私が読んだ感想としては、「正論」。
 
 まっとうに生きるために、本書ほど「正論みっちり」の本はそうそうない。

 きちんと生きて、きちんと仕事をして、きちんと評価されたい・・・と望む方は必読の一冊である。
 
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岡田斗司夫の「風立ちぬ」を語る。

 彼は最後の最後までずっと今まで僕が語ってきた「この映画の中で宮崎駿が語っていること」とかに気づかぬまま、ずっと美しいものを見つづけて、追いつづけるだけで終わっちゃうんですよね。
(本文引用)
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 先日、映画「風立ちぬ」を観てきた。
 
 堀辰雄の「風立ちぬ」と堀越二郎の「零戦」を融合させたような作品なのかな?と予想しながら観たが、そんな御託は抜きにして、不覚にも泣いてしまった。
 なぜ泣いたかを書いてしまうと、思いっきりネタバレになってしまうので控えるが、劇中、涙が何度も眼球の前にプックリプックリせり上がり、ユーミンのエンディングテーマを聴きながらついにダムが決壊。ハンカチを目に当てながら、「ウウッ・・・」と嗚咽してしまった。

 というわけで、このたび読んだのがこちら、「岡田斗司夫の『風立ちぬ』を語る。」


 自称「2000の男」としても知られる(凡人が3~5、釈迦・キリスト・マルクスが100~200らしい)岡田斗司夫氏による「風立ちぬ」分析である。
 (ちなみにこちらは電子書籍版のみなので、Kindleで拝読した。)

 一言でいって、この分析はすごい。
 消費者と生産者の違いとでも言ったらよいだろうか、アニメーションや映画の作り手と、単なる鑑賞者とでは、これほどまで「作品の観方」に開きがあるとは。こんな評論を読んでしまうと、「いったい私は作品の何を観ていたのだろう」と愕然としてしまう。

 これから映画をご覧になる方に差し障りがあるといけないので、あまり深くは触れないが、いきなり驚いたのは「二郎君が最初に恋をした女性」についての分析である。

 もうこれは、腰が抜けるほど驚いた。
 言われてみると「ああ、確かに・・・」と大いにうなずけるのであるが、それを頭に入れたうえで二郎と菜穂子の言動を反芻してみると、二人の恋模様に今までになかった補助線がスッと引かれたような新鮮味が加わり、より味わい深くなる。

 さらに唸ったのが、「声優・庵野秀明を岡田斗司夫が語る」の章。
 この映画の評価については、以前から「声優・庵野秀明氏を受け入れられるかどうかがカギ」といったようなことが語られていた。
 私もその点については、少々、いやかなりドキドキしながらスクリーンを見詰めたが、結果としては杞憂だった。
 一言目はやや違和感を感じたものの、すぐに「二郎さんはこういう声でこういう話し方をする人」と慣れてしまった。一緒に観た夫も同様であった。

 その感想を以て岡田氏の分析を読むと、もう合点の嵐。
 あえて本業の声優ではない人を、主役の二郎に据えた理由が、腹の底にストーンストーンと落ちまくるように納得した。なーるほどねぇ。

 さらにさらに、「これはもう製作を生業としている人ならではだな」と思える見事なものが、「菜穂子が二郎から来た手紙を読むシーン」の分析。
 読みながら、「そうか、だから菜穂子は・・・」とその後の菜穂子の行動を思い返し、また涙してしまった。二郎さん、あんたって人は・・・。

 本書では、その他、作中に登場するドイツ人が持つタバコのパッケージから、そのドイツ人の職業を当てるあたりなど、まあ細かい細かい。そこまで作りこむ「風立ちぬ」スタッフの方々も素晴らしいが、それを見破る岡田氏の眼力にも驚愕した。

 あまり書くと、この評論だけでなく映画の内容もわかってしまいそうなので、そろそろ筆を置くが、この評論を読むためだけに「風立ちぬ」を観に行っても良いと思う。
 少々、誤字や変換ミスが目立つが、内容は値千金。私など、これを読み、もう一度「風立ちぬ」を観たくなってしまったほどである。

 次はぜひ、本書に基づいた、宮崎駿×岡田斗司夫氏の対談を読んでみたい。
 (岡田氏の突っ込みが鋭すぎて、ケンカになどならなければ良いが・・・)

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聞く力 阿川佐和子

 「アガワさん、この対談、何年やってるんですか」
 「えーと、七年・・・・・・かな」
 「もっともっと、たくさんやったほうがいいですよ」
 「へ?」
 「だって非常に話しやすいもん」

 (本文引用 一部省略)
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 もはや知らない人はいない(?)爆発的ベストセラー「聞く力」。
 遅ればせながらようやく手に取ったが、読み始めたが最後、ノンストップで一晩で読んでしまった。
 そして夜が明け、今、目の前の風景が違って見えることに驚いている。

 それは、
 「誰もが皆、その人にしかない魅力をもっている」・・・当たり前のことなのだが、そのことに大いに気づかされたからである。

 週刊文春の対談連載「この人に会いたい」。
 そのホステス役を務める阿川氏は、「3カ月続くかどうかと思いながら始まった」(日本経済新聞 2013/01/28夕刊 「人間発見」より)と話す。


 結局その連載は20年、900回を超す名物コーナーとなったわけだが、本書に、それだけ続いた理由やコツを期待すると、「ありゃ?」と思うかもしれない。
 
 阿川氏なりの心がけや、人の心を和ませる人柄といったものはそこはかとなく感じさせるが、阿川氏自身「『ノウハウ本』を、というお申し出は断った」と言っていただけあり、「人の心を開かせるには~、人の話を聞くには~」といった明確なアドバイスはない。

 それでも私は、この本を大変面白く読んだ。
 大げさかもしれないが、「人間って、何て素敵なんだろう!」と心が震え、泣けて泣けて仕方がなかった。
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 本書の特徴として挙げられるのは、数多くの失敗談が載せられているということだ。
 インタビューするつもりが、相手が聞き上手すぎて、気が付けば自分ばかりがしゃべっていたこと。
 あらかじめ準備した質問事項ばかりが気になり、せっかく乗ってきた会話がぶつ切り状態になってしまったこと。
 誠意のつもりで謝罪をしたら、相手の怒りがぶり返してしまったこと・・・。
 そして何と、趣味のゴルフでの失敗からも、コミュニケーションのコツを得る。

 そしてそれ以上に魅力的なのが、やはり成功談。
 ちょっとした観察が功を奏した北野武氏との対談。
 聞きにくいことを「えいやっ!」と聞いたことで知った、橋本龍太郎元総理夫人のあふれる魅力。
 様子が目に浮かぶような、デーモン閣下の誠実なヘヴィメタ解説。
 そして、心の傷を癒すように話した、井上ひさし氏・・・。

 どれもこれも、内容は、その人自身の偉業や驚きの裏話といったものではない。
 話す内容は、有名人でなくても日常遭遇している出来事だ。
 なのに、これほどまでに笑えて、泣けるのは相手が有名人だからだろうか?

 いや、違う。
 人は誰しも、その人にしかない輝ける魅力がある。
 徹頭徹尾、話がつまらない人などいない。生まれてから死ぬまで、話すこともないほどつまらない人生を歩む人など、まずいない。
 人の話は宝石箱。
 たとえ最初はつまらないと思っても、耳を傾けると、必ずそこには聞き手が胸をときめかせるようなエピソードや言葉が現れるのだ。

 本書を読み、今まで「この人の話は長いから・・・」と聞こうとしなかったり、「この人の話は面白いんだよね!」と思わず身を乗り出したりと態度を変えていた自分が、たまらなく恥ずかしくなった。改めねば・・・。

 あれ?もしかするとこれが、阿川さんがくれた「聞く力」メソッドなのかな?

 ※ちなみに、冒頭に挙げた引用部分は、某有名俳優さんとの対談でのひとコマ。
 実は本書の中で、一番印象に残った(および笑った)部分である。


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中の人などいない@NHK広報のツイートはなぜユルい?

 私はNHKが「みなさまのNHK」だけでなく「みなさまがNHK」でもあって欲しいと思っています。
 (本文引用)
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 前回ご紹介した「何者」は、今考えると二重構造の物語だったような気がする。
 
 直接会って話をする所謂リアルなコミュニケーションと、もうひとつ、ツイッターでの言葉。
 どちらが実像でどちらが虚像なのか、それを惑わすのが小説「何者」の魅力だ。

 今やもうひとつのコミュニケーションとして、すっかり定着の感のあるツイッター。


 最近では警視庁まで導入し、オレオレ詐欺への注意喚起を促す内容から、「みかんの汁がささくれにしみます」といったユルい内容までつぶやき、フォロワー獲得に力を注いでいるということだ(2013/01/28 日本経済新聞夕刊より)。

 さて、そこで読んでみたのがこちら「中の人などいない@NHK広報のツイートはなぜユルい?」である。
 
 NHK広報公式アカウントである、NHK_PR1号氏によるツイート。
 これでもか、とばかりに真面目で堅いオーラを放つNHK。しかしそのつぶやきは、これでもかとばかりにユルい脱力もの。
 アイコンが指す時刻は、ずばり「おやつの時間」
 その脱力系キャラが受けたのか、今やフォロワー数541,618(2013/02/02現在)。
 そんな大人気ツイートの軌跡を、1号氏自らがつづった渾身のドキュメンタリーである。
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 本書では、NHK広報の公式アカウントをとるまでの経緯(もとは公式ではなかったというのに驚いたが)、アイコンができあがるまでのフォロワーとのやりとり、アカウントの性格設定など、それこそNHKが「何者」かになろうとするまでのプロセスが丁寧かつユーモラスに書かれている。

 時には、曜日を間違えるなどという凡ミスをしたり、bot(=「自動的にツイートをするプログラム・アカウント」(本文引用))と真剣に会話をしたりと、読んでいる私が赤面してしまうようなエピソードもあるが、そこがまたこのユルツイートの良いところ。
 「わたくし、フォロワーの方々と共に成長していきたく存じます」といった殊勝な心がけがうかがえ、たいへん好感がもてる。

 さらにこのPR1号、ただ単にユルいだけではない。
 まるで天然系の女の子が合コンで一番モテてしまうかのように、PR1号氏は他局の広報とユルユルと交流し、着実にメディア全体のシナジー効果をあげていく。
 その様子は、かつて「欽ちゃんのどこまでやるの」発のアイドルわらべが、「ザ・トップテン」や「ザ・ベストテン」に出演したときの興奮を思い出させる。
 (※「欽どこ」はテレ朝、トップテンは日テレ、ベストテンはTBS。ある特定のテレビ局発祥のグループが他局の歌番組に出るということは、当時非常に画期的なことだった。)

 しかし私が思う本書の魅力とは、PR1号の愛らしさではない。
 ツイッターの声とは、そのまま世間の声なのか?という問題をズバッと提起している鋭さだ。

 小惑星探査機はやぶさの帰還、そして東日本大震災・・・日本中が心にとめた出来事に遭遇したとき、このPR1号氏は何を感じ、何をつぶやいたか。
 そしてフォロワーたちは、それらをどう受け止めたか。
 さらにフォロワー以外の人たちは、それらの事象についてどう感じているか。
 その三者間の意識のギャップを描いたエピソードは、ツイッターというものの側面、いや本質をついたものといえる。改めてハッとさせられ、非常に興味深く読むことができた。

 そして震撼する。
 そもそもツイッターというものの中には、人が存在するのだろうか?と。
 私という姿をしたプログラムが、自動的につぶやいているだけなのではないか?と。

 そんな問題を容赦なく投げかけてくる、この3時のおやつ。
 どうやら、なかなか食えない奴のようだ。

プロフィール

アコチム

Author:アコチム
反抗期真っ最中の子をもつ、40代主婦の読書録。
「読んで良かった!」と思える本のみ紹介。
つまらなかった本は載せていないので、安心してお読みください。

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