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「サッカーボールの音が聞こえる」感想。オリパラに向けて必読!本当のバリアフリーがここにある。

評価:★★★★★

 「おにいちゃんはね――」
 宏幸は、眼の高さまでボールを上げてみせた。
 「ほんとうに、眼が見えなくなっちゃったんだ。でもね、眼が見えなくても、サッカーはできるよ。だって、ほら」
 宏幸は、両手で軽くボールを揺すった。

(本文引用)
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 2020年オリンピック・パラリンピックに向けて、ぜひ読んでおきたい一冊。
 映画化プロジェクトも始まっているらしい。
 実現することを心から、心から強く願っている。

 本書はブラインドサッカー元日本代表・石井宏幸氏を描いたノンフィクション。
 片目ずつ光を失い、ブラインドサッカー日本選手権を発足。

 絶望から希望を見出すまでの、軌跡の物語だ。
 
 本書の魅力は、「主人公だけに焦点を当てていない」こと。
 石井氏の奮闘ももちろんだが、石井氏を囲む仲間の心が色濃く描かれている。


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「まんぷく」の人生一気読み。「転んでもただでは起きるな!」。カップヌードルが間違いなく食べたくなります。

評価:★★★★★

 「私は一度豚になった。そこからはい上がってきたとき、食をつかんでいた」(本文引用)
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 朝ドラ「まんぷく」のモデル、安藤百福氏の人生を一気に読める。
 そしてチキンラーメンとカップヌードルの人生(?)も丸かじりできる。

 安藤百福とカップヌードルの「偉大さ」を知るなら、絶対はずせない本だ。

 食の革命を世界レベルで起こした安藤百福とは、いったいどんな人物なのか。
 そしてチキンラーメンとカップヌードルの「すごさ」とは、どこにあるのか。
 
 「私はカップ麺なんか食べないわ」という人でも、必ず楽しめる一冊。

 世界中の人々のニーズをきめ細かくくみ取り、社会に貢献するとはどういうことか。

 本書からは、カップラーメンのみならず「発明とは何か」という「創造の原点」が見えてくる。


 
 「自分の力で、何か世の中を動かしたい!」と思う人は必読の良書だ。


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■「転んでもただでは起きるな!」概要



 安藤百福は早くに両親を亡くし、商売をする祖父母のもとで育つ。

 店員や客、業者などが頻繁に出入りし、活気に満ちた祖父母宅。
 そこで育った百福は、「商売は面白いな」と感じるように。

 百福の起業家魂はどんどん芽を出し、最初は繊維事業に打って出る。
 商売は成功するが、戦争で日本は焦土と化し、全てがゼロに。

 そこで百福が考えたことは、「食」の大切さ。

 36歳で事業を「食」に転向。

 家族総出でラーメン作りにとりかかり、48歳で夢の即席めんを完成させる。

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■「転んでもただでは起きるな!」感想



 安藤百福といえば、やはり「日清カップヌードル」。
 何となく、最初からカップラーメンに焦点を合わせていたような印象があるが、本書を読むと認識がかなり変わる。

 「世の中を明るくするために、どうすればよいか」を常に考え、最初は食以外の事業にも精力的に着手。
 「ラーメンだけの人ではない」ということに、まず驚かされる。

 そしてカップヌードルが軌道に乗るまで、非常に浮き沈みの激しい人生だったことも。
 商売で成功すると、必ず足を引っ張る「闇の力」が働く。
 どういう情報で、どうしてそうなったのか罪人扱いされ、拷問や拘置所暮らしも経験。
 
 成功するまで、これほど苦難を味わってきたのかと驚愕する。

 といいつつ、やっぱり面白いのはチキンラーメンとカップヌードル誕生・成功秘話。

 チキンラーメンに満足せず、カップヌードル誕生の起爆剤となった「衝撃の光景」とは?
 カップヌードルが世に認知された、意外な「プロモーション」とは?
 
 読めば読むほど、カップヌードルに込められた熱意と創造力・技術力に圧倒され、次第にお腹が空いてくる。
 本書を読む前と読んだ後とでは、必ずカップヌードルの味わいが違うはず。
 「この小さなカップ麺のなかに、これほどの技術と情熱、歴史がつまってるのね~」と、チュルリとすくった麺1本1本に合掌したくなるだろう。

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 朝ドラ「まんぷく」をもっと楽しみたい。
 何らかの形で、世の中の役に立ちたい。
 新しいことをしたい。
 カップヌードルを何倍もおいしく食べたい。

 そんな方に本書はオススメ。

 最後にまとめられた「百福語録」や「年頭所感」も、一語一語かみしめたくなる味わいだ。

詳細情報・ご購入はこちら↓

松本博文「藤井聡太 天才はいかに生まれたか」。子どもを藤井聡太君のようにするには?

評価:★★★★★

「私も、ずっと優しく見守っていたわけじゃないんです。けっこう私も、ぶつぶつ言うんですよ。『泣いてもしょうがないじゃん』みたいに。記事ではよく『お母さんはずっと優しそうに待っていた』みたいな感じになっていますけど(笑)」
(本文引用)
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 藤井聡太の快進撃が止まらない!
 平昌オリンピックの間も、日本は相変わらず「藤井フィーバーに」わいていました。

 昨年、プロデビューから29連勝という快挙を成し遂げたと思ったら、今年は羽生善治竜王を倒す大金星。
 
 その後あっという間に六段に昇進し、もはや「天才」という言葉だけでは追いつけないほどの超人ぶりです。

 本書は、藤井聡太氏の将棋人生を追ったもの。
 幼少期から、あの「29連勝」までを、幼稚園時代や家庭での様子、母親の方針、師匠たちの声なども交えて綴られています。



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 さて、「天才はいかに生まれたか」なんてタイトルを見ると、子育て中の方はがぜん内容が気になるのではないでしょうか。

 特にお母様・裕子さんの言葉がチョコチョコと載せられているので、「どうやったら藤井君みたいな息子になるの?」などと必死に読んでしまいそうです。

 そんな方は、もしかするとちょっと拍子抜けするかも。
 逆に、「ああ、こうすればいいんだ」と安心する人もいると思います。

 なぜなら母・裕子さんは、子どもが本当に好きなことに没頭できるよう願う、普通の母親だからです。

 たとえば藤井君は国立大学付属中に通っているので、「やはり教育熱心な家庭なんだな」と思いがちです(実際、そうなのだとは思いますが)。
 
 でも国立大学付属中に通わせているのも、まず「将棋ありき」の人生だから。

中高一貫校なので、もし入ってしまえば、過酷な三段リーグを戦う頃に、高校受験の心配をしなくてもいいのではないか。そう先を読んでのことだった。

 
 何はなくとも将棋の人生。
 そのなかで、一人の社会人として生きていくためには、どのように進路を定めていけばよいか。

 藤井少年とお母様とが、先の先まで見据えて、「将棋」と「一般社会」のバランスをとりながら道筋を考えていく様子は読み応えあり!
 
 長い子育て、子どもの好きなこと、子どもが人生を賭けていることに対し、親はどんなサポートをできるのか。
 そんな「子の幸せを願う、一人の母親の姿」が、裕子さんからは感じられます。

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 さらに本書を読んでいると、こんなことを感じ胸を打たれます。

 「子どもは大人が思っている以上に成長している」

 藤井聡太君といえば、落ち着いた受け答えや大人顔負けの気配りが有名です。

 それに驚くお母様の様子が、本書には紹介されていますが、そんな「親と子のギャップ」が非常に微笑ましい!
 

ある時、テレビの取材で、インタビュアーが羽生を「雲の上の存在」と表現した。それに対して藤井は、「雲の上だと思っていたら勝てませんから。勝負の上では平等です」と、きっぱり反論している。テレビでその様子を見た裕子は、「こんなこと言ってるんだ」と仰天した。


 藤井六段の魅力は、間違いなく天才であるにも関わらず、それに奢ることなく冷静なところ。
 さらに優しい外見とはうらはらに、勝負に対しては燃え盛るような闘志を感じさせるところです。

 「情熱と冷静の間」と、「大人と子供の間」。
 その間をさまよう姿が、中学生プロ棋士・藤井聡太の持ち味。

 純正の天才でありながら、生身の人間としての魅力を感じさせるのは、裕子さんの「適切なフォロー」「適度な距離感」のたまものなのです。

 そう考えると、やはり本書は子育てに有効。
 
 子どもが好きなことに夢中になれる環境を、そっと整え、適度に「親の知らない子の姿」がある。

 現在、子どもとの距離感や、自分の理想と子どもの理想のギャップに悩む人は、読んで決して損はありません。

 あとがきでは、著者・松本博文氏が奥様と交わした言葉を紹介。

 確かに藤井聡太君親子を取材すると、こう思うだろうなぁ~と微笑ましい気持ちでページを閉じました。 

詳細情報・ご購入はこちら↓


ど~しても子どもを藤井聡太君のようにしたい方は、こちらの本を試してみては?
将棋で伸びる子は、親が「数独」をやっていることが多いそうです。


35歳でサラリーマンからプロ棋士に! 瀬川晶司「泣き虫しょったんの奇跡」は生きる力をくれる超名著!

評価:★★★★★

 彼はいま、死ぬことを考えていた。
 僕は懸命に、彼に叫んだ。
 死ぬな。あきらめるな。
 あきらめさえしなければ、君はやり直せる。
 かっこわるくても、未練がましくても、
 あきらめさえしなければ、
 君はきっと、僕になれる。

(本文引用)
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 今、藤井聡太四段の連勝記録が話題となっています。

 そこで再読したのが、瀬川晶司さんの「泣き虫しょったんの奇跡 ~サラリーマンから将棋のプロへ~」。

 私は長兄が将棋好きだったこともあり、「聖の青春」「将棋の子」など将棋関連の本は結構読んでいます。
 
 将棋は年齢制限などもある非常に厳しい世界なので、胸を打つ本が多いのですが、「泣き虫しょったんの奇跡」はそのなかでも名著中の名著。
 将棋に限らず「人生って、人間って、何て、何て素敵なんだろう!」と思わせてくれます。



 もしも、もしも今「死んでしまおうかな」などと考えている人がいたら、お願いです、この本だけでも読んでみてください。

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トランプ  ワシントン・ポスト取材班 マイケル・クラニッシュ/マーク・フィッシャー

評価:★★★★★

 トランプは躊躇なく、脚光を浴びることを楽しみつづけた。「トランプこそがショーだ」と言い切っている。「いつも満員御礼のショーだ」
(本文引用)
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 2016年11月8日の米大統領選は、不動産王ドナルド・トランプ氏の勝利となり、世界中が、その大番狂わせに狂乱した。

 予備選でのオッズは150対1の最下位で、泡沫候補とされていたトランプ氏。

 彼はなぜ大方の予想を覆し、米大統領選という世界一の選挙に勝ったのか。
 この本を読むと、その理由が朧気ながら見えてくる。
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 本書では、ドナルド・トランプ氏の生い立ちから家庭環境、ビジネスや女性関係、そして大統領選出馬までを丹念に追う。



 少年時代は、いわば「金髪のジャイアン」とでも言いたくなるような子どもで、「親譲りの無鉄砲で・・・」という有名な小説の書き出しを思い出させる。

 ご両親もなかなかキャラの立った人物らしく、世間のトランプ氏に対するイメージを裏切らない御仁。
 たとえば、隣の家の屋根にテレビのアンテナをつけさせてほしいと頼み(隣家の屋根のほうが高く、テレビの映りが良くなるため)、そのアンテナはトランプ家専用で隣家には使わせないと言い出す等、裕福さだけでなくキャラクターでも相当目立つ存在だったようである。

 そんな、様々な角度からドナルド・トランプという人物を観察・考察した本書であるが、正直に言って、全体的に「反・トランプ」の香りがやや強い(それもそうか・・・)。
 しかしだからといって、中立を欠いている印象もないので好感が持てる。
 それはおそらく、トランプ氏の過激な思想や発言の経緯が途方もなく詳しく書かれているからだ。
 たとえば黒人差別問題。トランプ氏は、かつて父親共々、人種差別事件で訴追されたことがある。それは、不動産業を営む父親の経験によるものなのだが・・・?

 本書には、スポットライトを浴びるためには手段を選ばない「ドナルド・トランプ風の生き方」についても詳しく触れられているが、彼独特の差別思考の源についても詳細に書かれている。
 そのため、頭ごなしにトランプ批判をしているという印象がない。なぜ、そのような思想を持つに至ったのか。何が彼の過激発言の原動力となっているのか。それについて、とことん客観的かつ中立的な視点で解説している。
 よって、トランプ支持派も反トランプ派も素直に読める内容だと思う。

 大統領選での勝利が決まり、反対デモが止まないというドナルド・トランプ。
 そこまで米国を狂乱させるとは、いったいどんな人物なのか。そして改めて、米国とはどんな国なのか。

 本書は、それを知るうえで非常に役に立つ。「今、読むならこれ!」と言いたくなる一冊である。

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私が今日も、泳ぐ理由 ~パラスイマー 一ノ瀬メイ~  金治直美

評価:★★★★★

 社会が障害者をつくり出すなら、その社会が障害者をなくすことだって、できるにちがいありません。
(本文引用)
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 9月18日に、リオデジャネイロパラリンピックが閉会した。

 回を追うごとに、メディアにおけるパラリンピックの重要度が上がってきている気がする。わが家では日経新聞をとっているのだが、パラリンピックの記事は、オリンピックに勝るとも劣らない充実ぶり。障害云々ということはすっかり忘れて、毎日、選手たちの活躍ぶりに心をときめかせながら記事を読んだ。

 さて、今回ご紹介する本は、リオデジャネイロパラリンピック競泳代表・一ノ瀬メイ選手の物語。
 この本を読むと、障害というのは、もともとあるわけではない。社会が作り出してしまっているものなのだ、ということがよくわかる。



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 競泳選手・一ノ瀬メイさんは、生まれつき右ひじから先がない。

 そんなメイさんは、一歳半の時に水泳と出会う。

 小学校に上がるとメイさんはどんどん泳ぎ方を覚え、めきめきと上達。腕のことをからかってくる男子すら、水泳の授業でメイさんの美しい泳ぎを見ると黙り込んでしまうほどとなる。

 メイさんが小学3年生の時、ある人物から、こう声をかけられる。 

「メイちゃん、パラリンピックを目指さへんか?」

 聞けば、同じく片腕のひじから先がない男の子が、13歳でアテネパラリンピックに出るという。

競泳・一ノ瀬メイ選手の世界への挑戦が始まる。
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 この本の最大の魅力は、読んでいると、障害のことなど本当に忘れてしまうという点だ。

 水泳の好きな人が、世界を目指して必死に練習し、世界の舞台に立つ。

 ただそれだけの非常にシンプルな物語である点が、この本のすごさだ。

 それは本書の底に、「障害はもともとあるものではない。周囲が作り出してしまうもの」という理念があるからだろう。
 保育園や小学校、中学高校大学、海外での生活・・・それぞれのステージで、メイさんの周りには必ず「メイさんを障害者扱いしない」人が存在する。

 特に保育園の先生の姿は、メイさんの前向きな人生に大きな影響を与えているように思う。
 メイさんの通った保育園は、メイさんを一切特別扱いせず、卒園遠足のサイクリングにも連れ出す。
 このサイクリングは、園児全員補助輪なしの自転車で一般道の歩道を走って行くという行事で、園児は遠足までに補助輪をはずす練習をしなければならない。
 メイさんは、ほぼ左手だけでハンドルやブレーキを操作しなければならないため、どうしてもハンデがあるが、園側は「メイちゃんならできる!」と激励。メイさんは、他の園児と共にさっそうと自転車に乗り、遠足を楽しむのである。

 もちろん、障害者と健常者の壁もしばしばある。いじめや中傷、障害者の利用を想定していない施設・・・。メイさんは悔しい思いを何度もしながら、こう主張しつづける。 

「私には『障害をもたされている』と感じることがあります」

 

「障害は、個人の心身の機能の問題ではなく、社会がつくりだしている」


 そんなメイさんの主張と生き方、そしてメイさんの周囲の人々の姿を見ていると、社会が障害者を障害者としてしまっていることを痛感する。
 そして気づく。そんな社会は障害者・健常者関係なくひどく生きにくいということを。逆に、障害をもたせない社会は、誰にとっても生きやすいということを。

 競泳・一ノ瀬メイ選手は、今日も泳いでいることだろう。
 健常者と障害者を分けることなく流れ、等しく人の体に抵抗し、等しく人の体を押し続ける水。
 一ノ瀬選手が水と戯れ、闘いつづける理由は、そんなところにあるのかもしれない。

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ル・コルビュジエを見る ~20世紀最高の建築家、創造の軌跡~  越後島研一 

評価:★★★★★

彼の創作能力の高さとは、こうした「後から振り返ればきわめてまともな」課題が、具体的に見えた点にあった。
(本文引用)
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  上野の国立西洋美術館を含む「ル・コルビュジエの建築作品」が、いよいよ世界遺産に登録されることが決まった。
 
 これは国立西洋美術館が世界遺産に登録されるというよりも、ル・コルビュジエの作品が登録されるということなので、複数の国、大陸にまたがる世界遺産となる。
 それだけで、ル・コルビュジエという建築家がいかに偉大かがわかるが、ル・コルビュジエとはどんな建築家なのか。純粋にそれを知りたいと思い、本書を手に取ってみた。

 そこで驚いたのは、作風がガラリと変化してもなお偉大だったという事実だ。

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 ル・コルビュジエは建築家であり画家であり彫刻家で、さらに詩集等の著作も発表しているという。
 本書ではそういった点にも存分に踏み込み、ル・コルビュジエの素描や、ササッと描いた自邸のデザイン等も紹介しながら、コルビュジエ氏の創作の原点や魅力に迫っていく。

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プロフィール

アコチム

Author:アコチム
反抗期真っ最中の子をもつ、40代主婦の読書録。
「読んで良かった!」と思える本のみ紹介。
つまらなかった本は載せていないので、安心してお読みください。

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