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木内昇「占(うら)」あらすじ感想。格付け・セクハラ・マウンティング・・・女の悩みを最速・確実にズバッと解決!

 私はね、ご相談にお見えになる方には常々、不幸上手にならないように、と申し上げているんですよ
(本文引用)
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 女性の皆さま、こんな悩みをお持ちではないだろうか。

 「ママ友の子が優秀。旦那さんも高収入でうらやましい」
 「女友達のなかで、私だけ子どもがいなくて辛い」
 「好きな人が冷たい。もっと美人に生まれていたら・・・」
 「女ってだけで、仕事で差別。もうイヤ!」

 ご心配なく。
 本書を読めば、悩みはスウッと霧のように消えていく。

 だからと言って本書は、「子どもの頭が良くなる方法」や「誰もが振り向く美人になる方法」云々を、教えてくれるわけではない。
 
 「なーんだ」と思うかもしれないが、とにかく騙されたと思って読んでみてほしい。

 「子どもを優秀にする方法」や「美人になる方法」よりも、確実・最速に「人生を上向きにさせる方法」を会得することができる。

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光炎の人  木内昇

評価:★★★★★

 「われはそれが使われたときの様子を想像すらしとらん。どんなふうに人の役にたつものか、見えとらん。希望を、見とらんのや」
(本文引用)
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 「まさか、まさか、まさか!」
 
 こんな思いで最後の5行を読んだ。ミステリーでもサスペンスでもないのに、ラストの衝撃で胸がつぶれそうになった。

 現在、AIが人間の仕事を奪うのではと言われているが、そんな懸念は今に始まったことではない。技術が発展すれば、人々の生活は楽になる。人間の歴史は、そう考えた技術者たちによって繰り返し変えられてきたのだ。

 しかし、もし、その思いが何らかの形で曲がっていったとしたら。例えば、功名心が激しく頭をもたげたとしたら・・・。

 歴史の大きなうねりと共に生きる技術者を描いた「光炎の人」。これは、人はなぜ働くのか、そして人はなぜ生きるのかを厳しく問う、実に壮大なスケールの物語だ。
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 時は明治の終わり。農家の三男坊として生まれた音三郎は、兄弟のなかでも図抜けた明晰な頭脳を持っていた。

 しかし家が貧しいため、音三郎は小学校もそこそこに、小さな工場で働きはじめる。
 音三郎は、電気さえあれば故郷の暮らしが楽になると確信し、独学で電気について学び、仕事もステップアップ。自分の知識と技術を、より大きな舞台で生かすために大都市・大阪に渡る。

 そこで音三郎は、無線を発明し、世に出そうと決心するが――。





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 本書を読み始めた当初は、アフリカの最貧国マラウイで風力発電を作った少年の物語「風をつかまえた少年」みたいな話かと思っていた。もっと純粋に、貧しい少年が独学で驚きの技術を発明して人々が万歳をして喜ぶ・・・といった単純な図式を思い描いていた。

 しかし、この物語はそんな甘いものではなかった。
 音三郎や、彼を囲む者たちの生き方は、「人はなぜ働くのか」「人はどのようにして生きるべきなのか」を最初から最後まで徹底的に読者に問い続ける。

 人々を喜ばせるために、技術を世に出す。

 己の能力が認められるようになっても、そのような初心を保ち続けることがいかに難しいか。音三郎は、身をもってそれを読者に教えてくれている。

 なかでも印象的なのは、先輩技師・金海との対決だ。
 無線の発明に夢中な音三郎をよそに、金海はひたすら、人々が安心して電気を使えるようにする技術を考える。
 金海の存在は、後に音三郎に決定的な精神的ダメージと焦燥感を与えるが、それによって音三郎は技術者としての生き方を変えるのか変えないのか。
 その大きな転機が、音三郎の人生にどのような影響を与えていくのかが、本書の読みどころだ。

 私たちは、発明者のわからない技術に囲まれて暮らしている。その「発明者のわからない」という点に、技術者たちのどれほどの辛苦があることか。
 世の技術者たちの多くは、そんな功名心など持っていないだろう。しかし、もっと1つひとつの技術に耳を澄ませれば、現代の音三郎の「最後の5行」はきっと変わる。

 ただ技術を享受している身として、非常に身の引き締まる小説だった。

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笑い三年、泣き三月。 木内昇

 「でもね、坊ちゃん。どうぞ笑って生きてください。これからいろんなことがあるやろうけど、どうか、笑って生きていってください」
(本文引用)
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 前回の記事で、映画「ライフ・イズ・ビューティフル」について少し触れたが、この小説は日本版「ライフ・イズ・ビューティフル」。まさに「人生は、たからもの」と思わせてくれる作品だ。
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 時は昭和21年、戦争で全てが灰になった東京下町に、ある一人の男が降り立つ。
 彼の名は岡部善造。全国行脚中の万歳芸人だ。万歳とは、「正月に相方と共におめでたい口上を言って福を呼び込む」芸だが、善造のそれは漫談に近いものだった。善造は、その芸ひとつで東京に乗り込んだのである。
 そんな右も左もわからない善造に声をかけたのが、武雄という少年。空襲で両親を失い、食べるものに事欠く状態だった武雄は、善造にとりいることで宿と食べ物を確保しようとする。


 その後、善造は浅草にあるミリオン座という劇場に拾われ、万歳を披露するようになる。ミリオン座には他に踊り子も雇っており、彼らは時代の潮流を捉えながら、ミリオン座の客確保に躍起になる。

 しかし、人々に笑いや喜びを提供するということは、ことのほか難しいものであった。

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ある男 木内昇

 「だがどういうわけか、自分たちが中央を取った途端、前にその場所に居座ってた奴らと同じことをしちまうのさ。なぜだかわかるだろう?あんたなら」(本文引用)
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 今に始まったことではないが、殊に最近、国会議員や地方議員の失言・暴言が話題となっている。
 しかし彼らとて、生まれた時からそのようなことを思っていたわけではあるまい(多分)。
 本当にこの国を良くしたい、市民の暮らしを豊かにしたい、という思いをもって政界に打って出たはずだ(多分)。

 だが気がつけば、市民を豊かにするどころか、市民を苦しめる言葉を吐く人間になっていた、市民と感覚が大きくずれていた――いつ、なぜ、どこで、なにを誤ったのか。

 そんな今、読みたい本がある。
 直木賞作家木内昇氏の短編集「ある男」。明治維新後、薩長土肥が牛耳る中央に、地方の苦しみを訴えんとした名もなき男たちの物語である。


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櫛挽道守 木内昇

 幸せの形は人それぞれであっていいはずだけれど、女の幸せはみな同じ形であらねばならないのかもしれない。
(本文引用)
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 幸せは、焦ると手に入らない。焦れば焦るほどすり抜けていく。しかし逆にいえば、焦らず腐らず誠実に生きていれば、たとえ時間はかかっても必ず手に入る。
 それも、世間の枠にはめた幸せでなく、自分が本当に望んでいた幸せが。

 いい年をして、そんなメルヘンチックなことを言うのも気恥ずかしいが、この小説を読み、心からそう思った。そしてそんなことを思える小説に出会えたことが、心底嬉しい。

 木内昇氏の最新刊「櫛挽道守」(くしひきちもり)。
 櫛職人を目指し邁進する女性を描いたこの物語は、「幸せへの焦り」や「世間からの目」からなる世迷事を消し去ってくれる、清廉な一冊だ。


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 時は幕末、舞台は信州、木曽山中。
 そこに暮らす主人公・登瀬は、天才的な櫛職人である父親のもと、一人前の櫛挽となるべく修行を続ける。しかし職人の世界は男性社会。登瀬がいくら望んでも、職人として生きることは叶わない。登瀬は母親に、良い家に嫁に行き子を産むことを強く求められ、櫛職人への夢を諦めかける。
 しかし、櫛作りにかける登瀬の情熱を知る父親は、母親の持ち込む縁談を反故にしてしまう。悪いことに相手は、懇意にしていた問屋の紹介。顔を潰された問屋は、登瀬の家族に辛く当たるようになり、それはそのまま暮らしに響いていく。
 そこに突然、実幸という男が父親に弟子入りし・・・?
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 まずこの小説は、いろいろな読み方ができるだろう。

 世は尊王攘夷派と佐幕開国派とに分かれ、日本が世界から門戸を閉ざすか、門戸を開くかの瀬戸際にある。
 そんななか、小さな集落の家屋の一室で来る日も来る日も櫛を梳りつづけるか、それとも広い世界を見るか。通好みの櫛を少量作るか、一般受けしそうな櫛を大量に作るか。
 つまり「閉ざされた世界」と「開かれた世界」、どちらを選ぶかを読者に考えさせる。
 至るところで「グローバル~」が叫ばれている現代、改めて「広い世界を見ること」=「良いこと」とそのまま受け止めてよいのかを、真摯に問うているように思う。

 それともうひとつ、本作品の登場人物たちは、「せっかち」派と「のんびり」派に分かれている。幸せを求める競争における、いわば「ウサギとカメ」だ。
 その分離を生じさせたのは、ひとえに登瀬の弟の不慮の死による。その出来事を境に、ウサギ派2人―登瀬の母・松枝と妹・喜和―は幸せを求めようと焦り奔走する。

 とりわけ、喜和が内に秘める焦燥感と意地には圧倒される。喜和は、もぎ取るようにして幸せへの切符をつかみ、新たな一歩を踏み出すが、その結果得たものは何ともほろ苦い。
 それと対照的な「カメ」派の代表格が登瀬であり、櫛作りのみならず、人の心を探るのも慮るのも慎重すぎるほど慎重だ。
 それだけに、「ああこのまま登瀬の心は満たされぬまま物語は終わるのか。まあ、そんな終わり方も良いかもしれない」とやや悲しい気持ちで物語のラストを迎えた。が、そこで思わぬ「目の覚めるような幸福」が待っている。
 それはまるで、山にかかる冷たく深い霧が、一気に晴れたかのような清々しさだ。

 もし「今すぐ幸せになりたい」という逸る気持ちが出てきたら、もし「どうしてうまくいかないの」という苛立ちが募ったら、この物語を思い出したい。

 落ち着いて、目の前のことに懸命に取り組んでいれば、自分の思いもしなかった形で幸せは顔を出す。たとえ時間はかかっても、いつかきっと-。

 そんな希望を、確実に持たせてくれるからだ。

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みちくさ道中 木内昇

 生きていると、つい生きていることを忘れがちだ。なにかを成し遂げたいと気ばかり逸るが、実はすでに私たちは素晴らしい務めを果たしているのである。
 人生はままならない。でも誰しもちゃんと存在している。

 (本文引用)
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 このブログで紹介している本は、ほぼ全て「読んで良かった」と思えるものであるが、この本はなかでも格別であった。
 
 直木賞受賞作「漂砂のうたう」をはじめ「笑い三年、泣き三月」など常にどこか飄々として、ププッと笑えてホロリと泣けて・・・そして読んだ後には必ず何かが残る、そんな小説を世に送り出してくれる木内氏。

 そんな木内昇氏の初エッセイ集は、木内氏の魅力的な人柄全開の一冊。

 私は女性であるが、今すぐにでも木内さん(女性)のもとに走って「好きです」と告白したいぐらいである。
(作中、木内氏が一流のギター工場で働くさわやかな職人さんに「好きです」と告白しそうになったというエピソードがあるが、おそらくその衝動と似ている。)

 このエッセイは書き下ろしではなく、新聞や雑誌での連載を一冊にまとめたものだ。
 (もともと私は、日本経済新聞夕刊「プロムナード」での木内氏の連載が大好きだったので、このように本にまとめていただいたのは心底嬉しい。)

 幼少期、青春時代、そして社会人となってからの日々・・・それぞれにおける木内氏の思い出や日常が、各ページにきらめくばかりに描かれている。
 その文章からは無邪気な笑顔も苦しむ顔も浮かぶが、どれもユーモラスかつ滋味あふれるもので、小説同様何度も「ププッ」「ホロリ」とさせられた。




 そして全編の根底にひそやかに流れるのは、「自分にしかない人生を懸命に生きよ、そのこと自体に多大なる価値がある」という主張だ。

 人生はうまくいかないことの連続であり、時には「人は本来、『その人らしからぬ』ことを折々の局面でするから面白い」と、木内氏は言う。
 一見、流浪の生き方ともとれる人生論だが、読めば読むほど「私らしさ」などという虚飾にまみれた仮面を取らざるを得なくなる。

 そしてやがて、「私はこうでなくては」「あの人に負けている」「こんな風に見られたくない」といった虚栄心や見栄といったがボロボロと剥がされ、読み終える頃には何でもない、ただ生きるしかない自分がいることに気づく。等身大の丸裸である。
 しかしそんな姿になった今、眼前に広がるのは、何と澄み渡った景色だろう。

 また時おり差し挟まれる先人たちの言葉が、さらに木内氏の信念をはっきりと浮かび上がらせる。

 それは坂本龍馬の詠んだ歌であったり、戦死した若者の手記であったりするのだが、彼らがこれほどまでに「人生」について教えてくれていたにも関わらず、なぜ自分はできないのか・・・と、私は思わず、自ら柱に頭を何度も打ちつけそうになった。この馬鹿め!と。
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 これからどんな壁が立ちはだかろうとも、とにかく生きるだけ生きる。
 自分の尊厳が傷つけられることが起ころうとも、自分を生きられるのは自分しかいない。

 「気づくのが遅いよ」と言われるかもしれないが、幸いにもこうしてまだ、どうにかこうにか生きている。
 これから死ぬまでに、予想もつかないことが幾度となく訪れるだろう。苦難に涙することもあるだろう。自信を失うこともあるだろう。

 そのたびに私は開こう、この本を。

 そうすれば難なく、背筋を伸ばしたままその壁を乗り越えられるのではないか・・・そんな予感がしてならない、立春の香り漂う今日この頃である。

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プロフィール

アコチム

Author:アコチム
反抗期真っ最中の子をもつ、40代主婦の読書録。
「読んで良かった!」と思える本のみ紹介。
つまらなかった本は載せていないので、安心してお読みください。

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