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追悼・山崎豊子さん 「華麗なる一族」に見る、読者をつかむ濃密な筆致

 「巨星墜つ」
 -山崎豊子さんが亡くなったと聞き、まずこの言葉が脳裏をよぎった。

 「白い巨塔」「沈まぬ太陽」「運命の人」・・・数々の社会派小説で常に世をにぎわせ、その作品は次々と映像化され大ヒットした。
 その、真実に肉薄せんとする情熱的な筆致は、本を読む楽しみ・・・いや、本を食む楽しみとすらいえる財産を与えてくれた。

 その面白さは、いったいどこから来るのか。
 日本経済新聞にて、こんな話が紹介されている。

 山崎さんは国会の議事録で、ある政治家が喘息治療のために度々ハワイに行っている事実を知る。
 しかし知り合いの医師によると、「花粉の多いハワイは喘息に良くない」という。
 そこから山崎さんは疑惑をもち、また勉強を始めるのだそうだ。
 (2013/10/1朝刊 「春秋」参照)


 このエピソードひとつとっても、山崎さんの留まることを知らない探究心がうかがえる。
 だからこそ、作品に尋常ならざるリアリティが生まれ、我々は登場人物に同化し、どんな大長編でも食い入るように読んでしまうのであろう。

 さてこのたび、山崎さんの訃報を受けて、自宅にある「華麗なる一族」をパラパラと読み返してみた。
 2007年に木村拓哉さん主演でドラマ化され、最終回は30%を超える視聴率をたたき出した名作である。
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 関西の財閥・万俵家は、都銀再編の動きを凝視していた。
 先代が船舶を全て売り払って創立した阪神銀行は、現在業界10位。このままでは上位銀行に吸収合併されてしまう。
 そこで、頭取である万俵大介は、大蔵省に勤める娘婿を使い、大手銀行の経営内容を入手。

「私は上位行に食われる合併を余儀なくされる前に、食う合併をもくろんでいるのだ」


 そんな「小が大を食う」突拍子もない作戦を、大介は着々と実行しようとする。
 また大介は、家庭においても余念がない。元通産大臣の娘、大手重工の社長令嬢・・・彼は万俵財閥拡大のための閨閥結婚を次々と成立させていく。

 そんなある日、阪神特殊鋼の専務を務める長男・鉄平は、高炉建設のための融資を阪神銀行に頼む。
 しかし大介は、我が息子の頼みであり、なおかつ高炉建設がもたらすメリットが大きいにも関わらず、それを冷淡に退ける。

 公家華族出身のおとなしい妻、図々しいほど万俵家に君臨する愛妾・・・心が通わぬ、歪んだ「華麗なる一族」の末路とは?
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 この小説、ストーリー自体ももちろん飛び切り面白いのだが、何と言ってもその緻密すぎる描写に引き込まれる。

 たとえば物語冒頭の、一族がそろった晩餐の場面。

「マドモアゼル コマン トゥルヴェ ヴ ラ スープ ドジュルデュイ(いかがです。今日のスープの味は)?」
「セ エクセラン ムッシュ サ ム フェ ラブレ パリ(美味しいです、ムッシュ、パリを思わせる味ですわ)、まあ、いやだわ・・・・・・。お父さま、今は日本のお正月ですのよ」


 何でも万俵家では、晩餐の席では、今日はフランス語 明日は英語というように会話をするというのが習慣なのだそうである。
 
 もうこの一場面だけで、いわゆる「セレブ」と言われる人たちの特質をドンと表している。
 豪華なドレスや宝石で富裕層を描くのでは、所詮、絵にはかなわない。ならば文章でどう「特別な人たち」を描くか。
 そこで冒頭から、この「家族の」会話である。これだけで読者は、この小説の登場人物たちがただ者ではないこと、そんな者たちが巻き起こす出来事がただごとではないであろうことを敏感に感じ取る。読んでから10ページもたたないうちに、我々は「山崎節」にハートをつかまれてしまうのだ。

 そしてその恐ろしいまでの緻密さが、読者を大介に、鉄平に、美馬に、高須相子に変身させ、我々は読みながら小説の世界を生きることができる。大長編でも飽きないわけだ。

 紙に刻まれた文字をたどりながら、改めて「山崎豊子の前に山崎豊子なし 山崎豊子の後に山崎豊子なし」であることをしみじみと思う。
 「巨星墜つ」とはいえ、これからも「山崎豊子」という星は燦然と輝きつづける。今は、そんな気がしてならない。

 謹んでご冥福をお祈り申し上げます。

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「運命の人」

 つい昨日まで自由に人と話し、取材し、記事を書いてきた人間が、突如として自由を奪われ、一方的に尋問を受け、犯罪者扱いで、番号で呼ばれる―。
 国家権力の持つ怖しさに、弓成は打ちひしがれた。
(本文引用)
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 今月15日から、ドラマ「運命の人」が放送される。

 この小説のドラマ化は、各局の争奪戦だったらしい。
 その競争を勝ち取った局は、プロデューサーが、映像化への熱い思いを十数枚の便箋に手書きで記し、著者・山崎豊子氏に宛てたのだという。(朝日新聞 2012年1月1日 テレビ・ラジオ 16面)

 それほどまでに人の心を動かす「運命の人」とは、どのような小説なのであろうか。
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 時は昭和40年代半ば。
 毎朝新聞政治部の外務省詰めキャップ・弓成亮太は、マスコミはもちろん政財界でも恐れられている辣腕記者である。



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 しかし、そんな弓成がどうにも苦心しているネタがあった。

 それは、沖縄返還協定。

 日本中が注目しているこの件について、何とか特ダネを報じたいと、弓成は大臣の邸宅や外務省を夜討ち朝駆けで張り込む日々を送る。


 
 そんなとき、弓成は沖縄返還の密約に関する重大な資料を入手する。
 「これは大スクープを報じるまたとないチャンス!」と逸る気持ちと、日頃の慢心が重なってか、弓成の心にひとつのスキができる。
 そこで犯した小さなミスは、果たして国家を揺るがす大事件へと発展し、弓成は逮捕。
 記者生命はもちろん、ひとりの人間として生きていくことすら絶たれる窮地に追い込まれる。
 
 記者たちは、この逮捕を、国民の「知る権利」を侵害するものとして憤慨し、弓成を守ろうと立ち上がる。
 世論もまた弓成を支持し、弁護士も裁判の勝訴を確信していた。家族も、弓成の潔白を信じて待っていた。

 が、このとき、誰も知らなかった。
 後に、弓成にとって致命的に不利な事実が明かされるということを・・・。。
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 う~ん・・・すごい。

 ハードカバー全4巻という長編ながら、あまりの迫力に「1日1巻」のペースで怒涛のごとく読んでしまった。

 裁判はどうなるのか?弓成は?家族は?外務省は?日本は?米国は?そして沖縄の人々は?
 ・・・と、あらゆる立場の人の様子が気になって仕方がなく、どんどんページをめくってしまった。

 「沈まぬ太陽」などでもそうだが、山崎豊子氏の作品は、常に国、企業、家族、そして個人、それらすべてに渦巻く感情を、ビッチリと隙間なく絡めて読者に迫ってくる。

 本書では沖縄返還の問題を通して、国家権力の理不尽さを切れ味鋭く描いているが、それを一記者の行動描写からストレートに、しかもど真ん中に読者に投げてくる筆力には、ただただ圧倒される。
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 「運命の人」というタイトルには、どんな意味が込められているのかは計り知れない。

 運命の人とは誰なのか、運命を操る人なのか、運命に操られている人なのか。

 ただひとつ、この本を読んで確信したのは、私自身も大きな運命の渦に巻き込まれているということだ。
 そしてそれは、運命という名の「誰かの利益」であり「誰かのルール」であり、「誰かの犠牲」のうえに成り立っているものなのだろう。

 自分がなぜ今、ここに生きているのか、そしてこれからどう生きていきたいか。
 それを今一度問い直すためにも、必読の書である。

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プロフィール

アコチム

Author:アコチム
反抗期真っ最中の子をもつ、40代主婦の読書録。
「読んで良かった!」と思える本のみ紹介。
つまらなかった本は載せていないので、安心してお読みください。

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