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デュルケーム「自殺論」感想。愛する人を喪った人に、ぜひ読んでほしい歴史的名著。

「奇妙なことに、どのようにして窓を乗り越えたか、そのときどのような考えが自分を支配していたかを、さっぱり思いだすことができない。というのも、私は、自殺しようという考えをまったくもっていなかったし、あるいは少なくともいまでは、そのような考えをもっていた記憶がないからだ」
(本文引用)
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 今年ほど、「自殺」について考えた年はない。

 いや、私が「自殺したいと考えていた」という意味ではない。

 「自殺はなぜ起こるのか? 自殺とは一体なにか?」と、そのまま「自殺について考えている」という意味である。

 そんな私の疑問に答えてくれそう・・・と思い、購入したのが「自殺論」。
 
 そう、私が知りたかったのは「自殺に関する論考」=「自殺論」。

 「人はなぜ自殺するのか?」「自殺の動機には、どのようなものが多いのか?」、そして「自殺は伝播するのか・・・?」等を知りたく手に取ったのだが、読んだら期待以上。

 地域・年代・季節・学歴・生活スタイル等々、目をむく緻密さで「自殺」について調査・分析されていた。

 
 本書を読んだ結論を言うと、やはり「自殺を完全に無くす」というのは、残念ながら不可能だ。
 
 しかし本書の「人間・地域・気候等による、自殺率比較」は、「自殺への歯止め」に少なからず有効なはず。

 さらに本書のメリットは、「自殺抑止」だけではない。

 自殺が行われてしまった後でも、読む意義はおおいにある。

 「愛する人を、自死で喪った人の心」を、本書は疑問の余地をはさむことなく救ってくれるのだ。

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「食べることと出すこと」感想。潰瘍性大腸炎を知りたく購入。得るものは途轍もなく大きかった。

「何か事情があるのかもしれない」「本当はそういう人ではないかもしれない」という保留付きで、人を見たいものだと思う。
 そのわずかなためらいがあるだけでも、大変なちがいなのだ。

(本文引用)
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 安倍首相が持病の悪化で辞任した。
 支持云々に関係なく、純粋に「体調が悪いなか、大変だっただろうなぁ・・・。本当にお疲れさまでした」としみじみ。
 
 首相の件を機に、「潰瘍性大腸炎のつらさ」を知りたくなった、いや、知らねばならない、と思った。

 そうしないと今後、外から見えにくい病やつらさ、苦しみ、悩みを抱えている人を、無意識に傷つけてしまうだろうから。

 ひとまず「潰瘍性大腸炎」という病から、「病を抱えている人の心情を、極限まで想像する訓練」をしないと、人として大変なことになる・・・と怖れを抱いたのだ。

 そこで読んだのが「食べることと出すこと」。
 
 ・・・衝撃だった。
 私は甘かった、あまりにも甘かった。


 「病を抱えている人の心情を、極限まで想像したい」だと?
 そんなことを考えていた自分を、ひっぱたきたい気分になった。

 そして「そんなことを考えていた自分」に、こう叫びたい。

 「病を抱えている人の気持ちを想像する」なんて無理なんだよ!
 「病を抱えている人の気持ちを想像することなど、永遠に想像できない」と思うべきなんだよ!


 潰瘍性大腸炎のことを知りたくて読んだ、「食べることと出すこと」。
 得られるものは、潰瘍性大腸炎の知識だけではない。到底ない。

 「人間、他者のつらさ・苦しい・悩みを想像することなどできない、ということを想像せよ」という、途轍もなく大きなことを教えてくれる名著だった。

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「博士と狂人」感想。「舟を編む」英語版!?あの大辞典は殺人事件から始まった。

正体を明かさないまま緻密な仕事をするこのすばらしい男は、いったい何者なのか?
(本文引用)
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 簡単に言うと「英語版・舟を編む」。
 しかし「舟を編む」と、決定的に違う点が1つある。

 それは「完成の影に殺人事件があった」こと。

 全11巻、総ページ数1万6570頁、収録語数41万4825語、用例182万7306。
 史上類を見ない、圧倒的な語数を誇るオックスフォード英語大辞典。

 そんな世界的権威のある辞書が、「殺人事件のおかげで完成した」と聞いたら、「まさか」と思うだろう。

 しかしその「まさか」なんだから、事実は小説より奇なり。

 「そんな馬鹿な」とお思いなら、ぜひ本書を読んでみてほしい。
 
 ちなみに本書は10月に映画化。


 メル・ギブソンとショーン・ペンが、その数奇な運命をどのように演じるのか。
 少々怖いが・・・これはちょっと観るしかない!

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「明治を生きた男装の女医 高橋瑞物語」感想。医学部女性差別問題で「注目したい二人」の行動。

 これは小さな一歩であったかもしれない。しかし、お産による死を受け入れるしかなかった女たちや家族、そして社会に一石を投じ、お産への医療介入の必要性を知らしめる契機となった。
(本文引用)
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 女医誕生の物語といえば、渡辺淳一の「花埋み」を思い浮かべる人が多いであろう。

 「花埋み」は、日本初の女医・荻野吟子の生涯を描いたもの。
 苛烈な女性差別と闘いながら、医師になる夢を叶え、多くの命を救う姿には、何度読んでも胸が熱くなる。
 
 本書の主人公「高橋瑞」もまた、女性が医師となる突破口を拓いた人物。
 産科無償施療を行い、「出産で死ぬのは運命」という“女性たちの諦観”を、根底から変えた人物だ。

 しかし「医学」における女性差別は、まだなくなっていない。


 本書から100年経った今なお、医学における女性差別は深刻。
 医学部受験で、女子の点数が引き下げられていた問題は、誰もが知るところだ。

 そこで読みたいのが「高橋瑞物語」。
 本書を読むと、「差別意識を自覚し、改めることの尊さ」が胸に染み入る。

 差別してしまったことは、許されないことだが、もう仕方がない。
 本当に許されないのは「差別とわかっていても改めない」こと。
 
 自分の過ちを認めることが、どれほど美しいか。
 己の固定観念を引きはがし、差別を改めることが、どれほど崇高なことか。

 本書を読むと、「過ちの自覚・思い込みからの脱却・改心」の素晴らしさがよくわかる。

 「医学部女性差別の根本的撤廃」を考えるうえで、必読の一冊といえるだろう。

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「バンクシー アート・テロリスト」感想。バンクシー展に行く前に読んでおけばよかったと激しく後悔。

 バンクシーを捕獲した小池知事は、確かに「英断」を下したのかもしれません。けれども、その前に相談をし、判断を仰ぐべきだったのは、ほかでもない東京都民であり、港区区民でした。
(本文引用)
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先日、「バンクシー展」に行ってきた。
(※全作品、撮影OK)。
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 鑑賞後、手に取ったのが「バンクシー アート・テロリスト」


 
 なぜ本書を買ったかというと、展覧会で「バンクシーのメッセージ性に気圧された」から。

 戦争、民衆への抑圧、大国の傲慢、世界の分断・・・。
 「世界の大問題」に対する強烈なメッセージが、作品1つひとつに詰め込まれていることをビシビシ感じ、圧倒されてしまったからだ。

 「これはバンクシーについて、もっと知らなければならない。ムーブメントに乗っかるだけではいけない」
 そんな思いが突き上げるように込み上げ、バンクシーにまつわる本を憑りつかれたように検索。

 「バンクシーのメッセージ」を、最もわかりやすく伝えてくれそうな本書を買った。

 そして読み終えた今、断言する。
 「これからバンクシー展に行く人は、絶対読んでおいたほうがいい!」
 実は私、現在大大後悔中。
 本書を読みながら、何度「バンクシー展に行く前に読めばよかった」と悔やんだことか。

 「この本を読んでいれば、あの作品の写真も撮っておいたのになぁ」
 「もっとじっくり真剣に、作品と対峙したのになぁ・・・」と、毎日ため息をついている。

 というわけで、これから「バンクシー展」に行かれる人のために、本書を紹介。
 
 本書を読んだあなたは、会場内にいる「読んでいない人」より、圧倒的にバンクシー展を深く楽しく味わえるだろう。

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「ワークマンはなぜ2倍売れたのか」感想。こりゃ売れるはずだよ!「人がお金を出す秘密」満載の一冊。

目指すは「ワークマン、また変なことやっているな」と思われる演出だという。
(本文引用)
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 「ワークマンはなぜ2倍売れたのか」。

 「本当に、なぜでしょうね?」という疑問から、本書を手に取ったが、読んで納得。

 「こりゃ売れるはずだよ!」

 結論から言うと、ワークマンは「ワクワクさせてくれる」から売れるのだ(決して駄ジャレではない)。

 本書は、そんな「ワークマンのワクワクの謎」を徹底究明。

 ワークマンファンなら「そうそう! だからワークマンに行っちゃうんだよ!」と思わず首肯。


 なかには「そんな戦略が隠されていたとは・・・。はめられた!」と苦笑する人もいるかもしれない。

 いずれにしても、本書を読めば「ワークマンのワクワク探求」には脱帽するはず。

 人々を徹底的に喜ばせようとするワークマン魂、いやはや・・・恐れ入りました。

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「絶望を希望に変える経済学」感想。コロナのことを書いてないのに「コロナ禍の今、必読」と唸った一冊。

根拠のない考え方に対して私たちにできる唯一のことは、油断せずに見張り、「疑う余地はない」などという主張にだまされず、奇跡の約束を疑い、エビデンスを吟味し、問題を単純化せず根気よく取り組み、調べられることは調べ、判明した事実に誠実であることだ。
(本文引用)
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 読みながら「コロナ禍で読むのに、ピッタリすぎる!」と手が震えた。
 帯にも
 「この夏に読むべき5冊」(ビル・ゲイツ)
 「なんとタイムリーな本の出版だろうか」(東大大学院教授・柳川範之)
 と書かれているが、まさにその通りだった。

 しかし本書には、新型コロナウイルスについては何も書かれていない。
 原著はコロナ以前に書かれたものなので、当然だ。

 にも関わらず、「コロナ禍の今、読むべき本」「タイムリーな本」と言われるのは、なぜなのか。

 その理由は、本書の底に流れる「メッセージ」にあり。


 本書では、「世の問題解決」を妨げる「人間の性向」をズバリと指摘。
 
 その「人間の性向」を読めば、「これってコロナにも当てはまるよね」と、思わず「ハッ」。
 
 だから本書は「今」こそ読みたい、読むべき一冊。

 本書を読んでも、新型コロナの撲滅は難しい。
 しかし本書を読むことで、新型コロナにまつわる不要なトラブル・必要以上の艱難辛苦は撲滅できるのではないか。

 ページを繰りながら、そんな光が胸に射した。

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プロフィール

アコチム

Author:アコチム
反抗期真っ最中の子をもつ、40代主婦の読書録。
「読んで良かった!」と思える本のみ紹介。
つまらなかった本は載せていないので、安心してお読みください。

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