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「首里の馬」感想。「孤独・ぼっちが怖い人」に本気でおすすめしたい一冊。

自分の宝物が、ずっと役に立たずに、世界の果てのいくつかの場所でじっとしたまま、古びて劣化し、消え去ってしまうことのほうが、きっとずっとすばらしいことに決まっている。
(本文引用)
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 芥川賞受賞作は、たいてい不思議な浮遊感がある。

 「この物語はどこから来て、どこに向かい、どう着地するんだろう?」と。

 「首里の馬」も同様。

 「この物語はいったいどこに向かうのだろう?」とフワフワした感触があった。

 しかし「首里の馬」は、他の芥川賞受賞作とは一線を画すものを感じた。

 「いったいどこへ行くんだろう?」というフワフワ感がありながらも、最後まで見届けないと気がすまないような握力・引力がある。

 そしてラストでは「ああ、最後まで見届けてよかった」と安堵。

 読み終えた瞬間、心にサッと清涼な風が吹き、人生が豊潤にふくらんでいくのを感じた。

 うん、いいな、こういう話、好き!

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久坂部羊「老乱」感想。夫に介護を任せてしまってる私が、読んで良かった本当の理由。

 もう消えてなくなりたい。人間にも象の墓場のようなところはないものか。死ぬ前に姿を消す猫のようになりたい。
(本文引用)
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 わが家では、夫が義母(夫の実母)の介護を一手に担っている。
 いつも申し訳ない気持ちでいっぱいで・・・何かできることはないかと申し出るのだが、私に負担をかけまいと努力してくれている。

 そんな時に、ふと目に留まったのが、久坂部羊著「老乱」。
 認知症介護の苦労を、少しでも知りたいと思い手に取ったが、読んでよかった。
 実によかった。

 その理由は「介護する人の苦労がわかる」・・・ということも、無論ある。
 だが、本書を「読んで良かった」と思える本当の理由は、「介護される人のつらさに、思いを馳せることができた」から。

 今まで恥ずかしいことに、「介護される人のつらさ、寂しさ」を考えたことがなかった。
 本書を読み、そんな自分を「何と愚かしいことか!」と頬をひっぱたきたくなった。


 同時に、夫に対して、もっと申し訳ない気持ちになった。

 夫はきっと「介護されている母の気持ち」を知っていたであろう。
 母の気持ちを慮り、涙が出ることもあっただろう。

 それを誰に話すこともなく、家族には常に笑顔で過ごしている夫は、どれだけ多くの思いを押し殺し、つらい思いをしてきたか。
 「老乱」を読み、「介護される人の気持ち」、そして「介護される人の気持ちを知りながら、介護する人の気持ち」を思い、胸がつぶれそうになった。 

 だから私は本書を読み、本当に良かったと思うのだ。

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「パラ・スター」感想。「中高生向け?」と侮るなかれ!仕事に悩む大人こそ読むべき名作青春小説。

 私は、誇りを持って生きたい自分のために戦う。
(本文引用)
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 日経新聞で「文庫売上第1位」となっていた。
 全くノーマークだった本のため、即購入。
 数ある有名作家や話題作を押しのけて、1位を獲得するのだから、「よほどの名作に違いない」と思ったのだ。



 予感は的中。
 
 表紙を見て、最初は「これは子供向けなのか?夏休みだから中高生に売れたのか?」と一瞬後悔しかけたが、読みはじめてすぐに引き込まれ、2冊続けて一気読み。

 大人でも読みごたえたっぷり、非常に多くのことが学べる至高の一冊(二冊?)だった。

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「黒い雨」あらすじ感想。「原爆が奪ったもの、それは生命だけではない」と認識した一冊。

「ですから、あなたに相談してと思って、そのままにして置きました。黒い雨に打たれたことが書いてあるんですもの」
「あの雨のことか。じゃあ、一字も清書せなんだのか」

(本文引用)
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 2020年7月29日、歴史的な司法判断がくだされた。

 それは原爆の「黒い雨」訴訟。

 原爆による健康被害を受けたにも関わらず、原爆投下時「降雨地域外だった」として、被爆者健康手帳を交付されない人々がいた。

 原告側は、それを違法と主張。
 結果、原告全員に手帳を交付するという、初の司法判断がされたのである。

 このたび、その報を受けて「黒い雨」を再読した。

 読んだのは、小学校か中学時代以来かもしれない。

 大人になってから読むと、改めて「これは永遠に読み継がれるべき名作だ」と再認識。

 
 その理由は、まず「原爆の語り部」だから。

 年々、戦争・原爆を語れる人が少なくなる。
 しかし本は半永久的に、残りつづける。
 
 本書は、語り部の方たちの命尽きてなお、戦争の残酷さを克明に伝えてくれる。

 だから「黒い雨」は、永遠に読みつがれるべき名作なのだ。

 さらにもう一点、「黒い雨」が「いつの世にも、どこの世界でも読まれるべき」と思う理由がある。

 それは若い時には、わからなかったかもしれない。
 私のライフステージが変わったからこそ、ハッと気づいたことであろう。

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「結婚させる家」あらすじ感想。「幸せな結婚」をする2つのコツ、読んだ人だけわかります。

 「びっくりでしたよ、僕は。そこなのかと思って。だってそうですよ。料理とか、後片付けとか、頑張ったんですよ、僕は。でもそこは全然評価されていなかったんです」
(本文引用)
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 結婚してもしなくても、どちらでもよいと思うが、「結婚したい」と思うなら本書は必読。
 
 さらに「幸せな結婚をしたい」と望むなら、読んで決して損はない。

 さらにさらに言うと「幸せな人生を送りたい」なら、得るところ大の一冊だ。

 ずっと独身、バツイチ、バツニ、死別、孫持ち・・・。
 「やっぱり一人は寂しい」と、思いはじめた中高年。

 酸いも甘いも嚙み分けた彼らが見つけた、「本当に幸せな結婚のコツ」とは?
 「自分にとって本当に大切な人」とは?

 読んだ人限定で「幸せな結婚生活・幸せな人生」を送れるコツ、わかります。

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「少年と犬」感想。心震えすぎて涙ボロボロ。直木賞受賞作のなかでベスト3に入る名作!

「おまえの家族はどんな人たちなんだろうね? どうしてはぐれちゃったんだろう? 優しい人たちなんだよね? おまえがこんなに会いたがってるんだもん。わたしにも、そういう家族がいたらな」
(本文引用)
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 直木賞受賞も納得、納得、大納得の一冊。
 私としては、直木賞受賞作品のなかでもベスト3に入る名作だと思う。

 飼い主を失った、一匹の不思議な犬。
 何人もの飼い主を経て、いったいどこから来て、どこへ行くのか。

 その流転と回帰の展開に「そう来たか!」と膝を打ちながら、気がつけばボロボロと涙がこぼれていた。

 構成も、物語の内容そのものも、諸手を挙げて「見事」「最高」と称賛したくなる傑作。

 旅する犬と共にすっかりストーリーに引き込まれ、至福の読書体験を味わうことができた。

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「赤ちゃんをわが子として育てる方を求む」感想。「法と命、どちらが大事か」を眠れぬほど考えた一冊。

 「未熟でもちゃんと産声を上げんだど。どんなに小さくても必死に息をして生きようとする。その声を聞くと思うんだ。未熟児だってなんとか生きたいって願ってるんでねえがって」
(本文引用)
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 法律は命を守るためにある。
 法律は、人々に幸福と平安をもたらすためにある。

 しかし法律のせいで、命が葬られることもある。
 法律のせいで、より苦しい人生を強いられることもある。
 
 そんな矛盾を感じている人も多いであろう。
 (※「あぶない法哲学」では、豊富な事例で「法と幸福のジレンマ」を解説。たいへん面白い本なので、興味のある方はぜひ!)

 ではどうすれば。法も生命も幸福も守ることができるのか。

 その解決策を示したのが、この本。


 法律を守ろうとすると、赤ちゃんの生命を守れない。
 赤ちゃんの生命を守ろうとすると、国に罰せられる。

 「赤ちゃんをわが子として育てる方を望む」は、「法か生命か」をこれ以上ないほど極限まで、ギリギリまで、考えさせてくれる。

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プロフィール

アコチム

Author:アコチム
反抗期真っ最中の子をもつ、40代主婦の読書録。
「読んで良かった!」と思える本のみ紹介。
つまらなかった本は載せていないので、安心してお読みください。

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