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冬の光  篠田節子

評価:★★★★★

世間も人生も、自分が乗って突っ走ってきた列車の窓から見えた世界とはまったく違うものであることを、思い知らされた。
(本文引用)
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 物語終盤、タイトルの意味が露わになってくるにつれ、どうしようもなく涙が出た。と同時に、壮絶な無力感に襲われた。人生――人の生きてきた道、その人の抱えてきた思いとは、これほど本人にしかわからないものなのか、と。

 毎回、さまざまな形で、人生の皮肉や滑稽さ、悲しさを描き出す篠田節子。そんな氏の小説が私は大好きなのだが、この物語はとりわけ濃密に描かれている。
 そして思う。一個の人間の生き方、死にざまを笑ったり批判したりすることなど誰にもできないのだ、と。他人から見たらどんなに不条理で滑稽で許容しがたい人生であったとしても、その人にとっては道理の通った懸命に生き抜いた人生なのだ、と。
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 ある日、海から男性の遺体が上がる。男性は四国から東京に向かう途中、フェリーから身を投げたと見られる。



 遺体はすぐに家族に引き取られるが、妻や娘たちの対応は冷ややかなものだった。それは男性が20年以上、他の女性と深い交際を続けていたからだ。

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となりのセレブたち  篠田節子

 星六つのゴージャスな人間性を喜ぶのは無責任なマスコミだけで、家族にとっては、自分と身内だけを大切にしてくれる偏狭な愛こそがうれしい。
(本文引用)
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 「無駄なお金の使い方」ひとつで、ここまで多様な物語が書けるとは。篠田節子氏の引き出しの多さと、超人的な発想力に改めて驚いた。
 とびきりリアルな話もあれば、とびきり非現実的な話もある。だけどどちらも、「今そこにある危機」を残酷なまでに浮かび上がらせている。現代日本のトロッコ列車に乗っていたら、この人たちみたいな悲劇(喜劇?)に陥ってしまうのかも。あー、怖い!
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 本書は5編から成る短編集だ。
 有閑マダムのお茶会が舞台の「トマトマジック」、自宅での居場所を猫に乗っ取られるキャリアウーマンを描く「蒼猫のいる家」、頭も心も体も完璧な老人を作ろうとする「人格再編」等々、「いかにもありそうな」話から、SFものまで多彩な内容だ。



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ブラックボックス 篠田節子

 人も作物も、食べ物も、無菌状態の中でしか生存できない・・・・・・。
 (本文引用)
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 真山仁さんの「黙示」を読み、がぜん農業ビジネス小説に興味がわいたため購入。
 (ちなみに近所の書店では、「黙示」の隣に置かれていた。)

 いったんページをめくったら、そこはまさに「世の中のブラックボックス」のオンパレード。
 「食の安全」の裏に潜む驚愕の実態、華やかなカフェを支える苛酷な労働環境、最低限の生活すら保障されない外国人差別、ハラスメント、企業内政治、そして厳然たる社会的ヒエラルキー・・・。

 この世のあちこちにゴロゴロ転がっているブラックボックスを、次々とこじ開けていくスピーディーな展開は、まるで極上のアクション映画を観ているよう。
 一瞬たりとも目が離せず、仕事中や家事をしている間も、続きが気になって気になって仕方がなかった。


 「こんなに社会派の内容なのに、こんなに娯楽的に楽しんで良いのかな?」
 そんな、いささか不謹慎な気持ちをもちながらも、早鐘のように打つ心臓の鼓動は衰えることのないまま最終ページへとすべりこみ、頬を紅潮させたまま扉を閉じた。
 ああ、面白かった!
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 舞台は、とある地方都市の一角。準工業地帯で、大企業の自動車工場等も建つ地域だが、住民の多くは農業を生業としている。

 そんななか、先祖代々農業を営む三浦剛は、近所の若者たちと共に農業生産法人を立ち上げる。
 しかしそこに、ある大企業の農業関連部門が参入し、剛たちにある提案をする。

 それは「工業生産物のような安定供給」を可能とする、コンピュータ制御の完全管理農法であった。
  「食えない日本の農業を変える」ことを夢見て試行錯誤してきた剛は、「食える農業」への足がかりとして、その農法を導入するのだが・・・?

 そしてもう一人の主人公・加藤栄美は、高学歴で美人の元広報ウーマン。
 しかし理由あって、今はその農村内のサラダ工場で深夜勤務をしている。

 徹底した衛生管理のため、作業場は寒く、トイレにも行けない。
 そんな、およそ人間的とはいえない劣悪な労働環境のなか、ひたすら生きるためのみに、栄美は働き続ける。
 そこで栄美が見たものとは・・・?
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 予習・・・と言うわけではないが、この本にとりかかる前に、篠田氏が「人間の叡智というものはどこまで及ぶものか」をテーマとしていると語っているのを読んだ(「WEB本の雑誌」内「作家の読書道」より)。
 
 だからであろうか、実はもっと説教じみたものを想像していたのだが、良い意味で華麗に裏切られた。
 もちろん、そのテーマを軸に書かれていることは間違いなく、読みながら何度も「人間の叡智の及ばぬもの」に思いを馳せた。しかしこの小説には押し付けがましさが全くなく、考えさせられながらも、純粋にワクワクしながら物語を楽しむことができた。

 なかでも、地域の子供達の体調不良の原因が明かされていく場面などは、思わず「来た来た来た来たぁ!」と声を上げ、体中の血液が沸騰。そしてラストでは「やった!」と快哉を叫んでしまった。

 もちろんそこに行き着くまでの順調ならざる道のりも細工は流々、涙ぐましいまでの取材がうかがえる緻密な描写をとおして、仕上げを御覧じろ。
 そんな篠田氏の「作家魂」が吠えた一作といえるのではないだろうか(上から目線ですみません)。

 そして思う。
 「人も作物も、食べ物も、無菌状態の中でしか生存できない」状態は異常だと。
 この作品にはびこるような毒や菌の中で、農作物もヒトも生きていかなければならないのだ。


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プロフィール

アコチム

Author:アコチム
反抗期真っ最中の子をもつ、40代主婦の読書録。
「読んで良かった!」と思える本のみ紹介。
つまらなかった本は載せていないので、安心してお読みください。

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