評価:★★★★★
あの日、女にとって、父、子、聖霊の三つはなんだろうと思った。男、結婚、仕事。仕事、結婚、子どもだろうか。そのすべてを手に入れたいと若い日、妙子は思った。(本文引用)
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「トリニティ」が直木賞候補と聞いた瞬間、「そうでしょう、そうでしょう!」と大納得。
ここ数年読んだ小説のなかで、最も「終わってほしくない」「いつまでも読んでいたい」と思った本。
心に美しく重く響くショパンのピアノ曲のような・・・読んだ後、「・・・パンッ!パンパンパンパンパン!!」とゆっくりと、そしてずっと拍手をしたくなる素晴らしい本だった。
実は「トリニティ」を読んでいる間に、超ベストセラー作家・I氏の新刊が届いた。
I氏の大ファンの私。
いつもI氏の本が届いたら、読んでいる本をほっぽり出してI氏の本を貪り読む。
ところが今回だけは違った。
「トリニティ」だけは、どうしてもほっぽり出すことができなかった。
I氏の本はちょっと脇に。
「とにかく今、私は「トリニティ」を読んでいたい。『トリニティ』を読み終えないことには、前に進めないのだよ!」と心の中で叫んだ。
(I氏の本は次に読みます!レビューを近々書きます。)
女性の生き方が今、大きな山を動かすように変化しつつある今。
かつて時代を牽引した女たちがいた。
理解ある夫、孫育てをしてくれる母、その影にひそむ母親としての苦悩。
夫婦がともに働くとはどういうことか。
男も女も関係なく働くとは、どんな功があり、どんな労を伴うものか。
女性・・・特に「働くママ」は、涙なしで読めない一冊だ。
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■「トリニティ」あらすじ
鈴子は72歳。
結婚以来専業主婦だが、2人の友人は時代の寵児。
1人はイラストレーター・早川朔。
人気雑誌の表紙を長く担当。
彼女のイラストを見ない日はないほどの売れっ子だった。
もう1人はライター・エッセイストの登紀子。
かつて「彼女がいないと雑誌が作れない」と言われた巨匠。
私生活を書いたエッセイも売れに売れた。
ある日、鈴子は朔の訃報を知る。
葬儀に駆けつける際、孫の奈帆も連れて行くことに。
実は奈帆は就職先でうつ病に。
自殺を心配した鈴子は、奈帆から目を離せないため、奈帆を葬儀に同行させる。
そこで奈帆は、登紀子に「あなたの話を聞きたい」と懇願。
出版社の就職に失敗した奈帆は、かつて活躍したライター・登紀子にどうしても話を聞きたかったのだ。
かくして鈴子と奈帆は、登紀子のマンションに通うことに。
いよいよ鈴子・登紀子・朔、3人の物語が語られる。
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■「トリニティ」感想
ネタバレになるかもしれないが、ここでいきなり「私が最も感動したセリフ」を挙げておく。
「母は十分に僕にとって立派な親でした」
このセリフを誰が言ったのかは伏せておく。
しかしこのセリフは、本書のひとつの「答え」になっている。
どんなに時代にもてはやされても、どんなに才能や富に恵まれても、女性は苦しみから抜け出せない。
その苦しみとは、「家庭を重んじねばならない」というしがらみ。
特に子どもは、さすがに女性にしか生むことができない。
母乳をあげるのも、やはり女性にしかできない。
周囲の理解・協力があっても、「自分が育てなければ母親失格」という思いに、女性は常に苦しんでいる。
また逆に家事・育児に従事していれば、今度は「社会性がない」「経済力がない」と糾弾。
女性はいったいどうすれば、何をすれば、世間は許してくれるのか。
どうやって生きて行けば、自分も家族も幸せになるのか。
女性はその苦悩から抜け出せない。
「トリニティ」は、そんな女性の苦しみを何十年というスパンで、実にきめ細かく描いていく。
どんなに売れても、どんなにお金が入っても、どんなに周囲の理解があっても、心のすき間を埋められない。
どうやったって埋められない「女性ならではの寂しさ・虚しさ」を、これほどきめ細やかに描いた本が今まであったろうか。
私は読みながら何度も嗚咽した。
だからこそ、先述の言葉が効いた。
「母は十分に僕にとって立派な親でした」
今、母として、女性として、一人の人間として生き方に悩んでいる方。
「トリニティ」を読めばきっと、自分の人生を、自分が主役となって踏み出せるだろう。
悩みが深刻になる前に、一食二食抜いてでも、本書を読むのがおすすめだ。
ちなみに本書は「参考文献」を読むのが、また一興。
「時代を作った女性、こんな人がいたなぁ!」としみじみ。
男尊女卑の空気のなか、その風をきるように走った女性の息遣いが、参考文献から聞こえてくる。
傑作は本編だけでなく、参考文献まで読ませるのだ。
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